回想:セシリア王女の婚約破棄2
その日も王家主催の舞踏会でヴァルク子息は私のパートナーを務めていた。
私は17歳、ヴァルク子息は20歳になっていた。
「セシリア様、また今日は一段と麗しい。」
更に私を卑猥な目で見るようになった子息の差し出した手にためらいつつも己の手を重ねる。
慣れたように腰へ回された腕は少年から男性へと成長して身動きを封じてくる。
今まではこれらを我慢しつつ、あまりにも酷い時には理由をつけて離れるようしていたけれど。
後方へ視線を流すと愛しい黒髪が隅に見えた。
婚約者といえども他の男性に触られているのを見られたくはありません。
「そのように力を込められては姿勢を保てません。」
ふっと笑うと上から私の顔を覗き込んで囁く。
「こうしてお支えしてあげております。私にもっと身体を委ねてください。」
身体が強張ったのを勘違いしたのか熱のこもった視線で私を舐めまわす。
「そのように照れなくてもよいのですよ。セシリア様は私の妻となるのですから。早く貴女の美しい声でルイフェルと名を呼んでください。」
つーっとくびれを手の甲で撫でられれば、胸の苦しみとともに吐き気がこみ上げてくる。
「私―――。」
気味の悪い視線から私を隠したのは焦がれた背中。
「ルイフェル殿。王女殿下は体調が芳しくないようですので少し休ませていただきます。」
安心感から身体の強張りがほどけてゆく。
「マグルド君大丈夫だよ。それなら私が空き部屋に連れて行こう。」
結婚前の婚約者同士でかようなこと、何を思われるのか理解されていないのですか。
いえ彼の場合はむしろ分かっていて。
「セシリア様。参りましょうか。」
カルティエの肩から斜めに覗く顔は淫欲にまみれた笑みを見せている。
ここで従うような王女であると思われているならばいずれ身を滅ぼすでしょうね。
にこやかな仮面をつけて告げる。
「ヴァルク子息にお手は煩わせられません。舞踏会は始まったばかりですし、そういえばランゼルお兄様がお話しがあると申されていました。」
もう一度念入りに笑みを向けて意識をランゼルお兄様にあてがう。
もっともお兄様にそんなことは言われていません。
お兄様が苦言を呈する姿も目に浮かびますが、ここは私以上の身分を引き合いにださなければ諦めないでしょうから。
「左様ですか。名残惜しいですが。」
カルティエの身体を避けて私の前に再び立つと、あの目がまとわりついてくる。
「しばしの間です。寂しがらないでください。」
こちらに向けられた右手が顔に近づいてくる意味を理解し、素早くそれでも淑女らしく扇子を口元の前で広げる。
「ご心配なさらずに。」
扇子とは誠に便利なものです。
目だけで笑いかければそれでよいのですから。
宙で行き場を失った手を見ても拒絶されたとは思っていないでしょうね。
ほら、またそのように笑っているのですから。
「では、失礼しますね。セシリア様。」
私達に背中を向けて人混みに消えていったところまで確認すると目の前が白くとぶ。
「姫様。」
私にだけ聞こえるその呼び方が耳をくすぐった。
腰に回された腕は騎士の逞しさがあるのに優しく私を包み込む。
私に影を落とす彼の黒髪がさらりと揺れればその奥の菫色の瞳と視線が交わった。
―――彼の息遣いが分かる。
「しばしご無礼をお許しください。」
控えていた他の騎士達に目配せすると、回された腕はそのままに私の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出す。
賑やかな会場から遠ざかっていくにつれて廊下は静けさを増していく。
二人だけの足音。
全身にこだまする鼓動。
「あまりご無理はなさらないでください。」
目だけで横顔を見上げてみれば、廊下の先を真っ直ぐに見て歩く彼が隣にいる。
このようにエスコートされるのは最初で最後でしょうね。
また身長が伸びたのではないですか。
初めて出会った時は私と同じぐらいでしたのに。
いけないことと分かっていながら、初めて布越しに感じる彼の温もり、腕の太さ、控えめに添えられた長い指の一本までもが愛しい。
襟元から覗く喉ぼとけに気付き、男性の「それ」を感じると頬に熱を帯びる。
扇子では隠せないこの頬の熱を彼は気づかないでしょうから。廊下の先が見えなければ、、、。
幼き頃とは違う彼に、近づく終わりを感じる。
この刹那をどうか―――。
続きを掲載させていただきました。
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初投稿作品で至らない点もありますが、作品ともども応援してくだされば幸いです。




