第四話 想い合う心
あいつと関係を終わらせてから一ヶ月経った
薄気味悪い親父に厚化粧の香水臭い雌を貪り喰う日々
この空虚感も久々だ
でも、それよりも前より胸が苦しくなった
息が出来なくて苦しい
そしてあいつの事ばかり考えている
安いラブホの一室
乱れた衣服を正す
「もう、行くの?」
一糸纏わぬ姿の厚化粧の女が
ベットの中で微睡みつつ話し掛けて来た
「ああ。」
俺はそれだけ言い放つと部屋を去った
真夜中の街を歩く
頭の中に浮かぶのは朽葉の顔、言葉、体温
むしゃくしゃする
何故朽葉の事しか考えられないのだろうか
ずっと息が出来ない胸が苦しくなる
逢いたい…
「朽葉…」
朽葉と逢わなくなって
始めてあいつの名前を声を出して呼んだ
涙が頬を伝う
掠れた小さな囁きは虚しく暗闇へと消えた
そう、俺は…朽葉に
逢いたくて、逢いたくて
堪らなかったんだ
あいつの存在をこの身体で感じたい
「朽葉…」
一度呼んでしまえば止まらなかった
更に涙が溢れみっともなく泣いていた
「終夜…」
空耳かと思った
朽葉の声が聞こえた
遂に俺はイカれたのか
そう瞬時に考えると同時に
背後から身体を包み込まれた
朽葉の匂いと温かな体温が心地好くて
信じられないままに
振り向く
「朽葉…朽葉…」
朽葉だった
本当に朽葉だった
切なげに愛おしそうに
涙声で何度も名前を呼ぶ
相変わらず神々しく美しい顔は
優しさに満ち溢れ俺を見詰めていた
「もう、終夜にそう…呼んでもらえないと思った…」
哀しげにそう囁かれ
胸が苦しくなった
「朽葉…ごめん…。でも、何で…」
何で此処に?
そう問い掛ける前に
更にきつく抱き締められ
耳許であの甘く低い優しい声で囁かれた
「終夜…愛してる。俺のものになって」
どくんと胸が高鳴った
心は歓喜し鼓動が大きく打ち続ける
でも、信じられなかった
これは夢なのか?
俺は朽葉の腕の中で固まったままで
戸惑い躊躇し狼狽していれば
朽葉は俺の背中をゆっくり撫でてくれて
また耳許で
「終夜…大丈夫。終夜の素直な気持ちを聞かせて?」
朽葉は優しくそう言い
俺の返事を待ってくれた
俺は深呼吸をし心を落ち着かせ
「俺も…朽葉が好きだ」
「終夜…ありがとう。嬉しい」
朽葉は顔をゆっくり近付けて来る
そっと柔らかな唇を俺の唇に優しく触れさせた
これが満たされるって言うのかな
温かくて凄く幸せだ
俺のファーストキスだった
甘くて優しい口付け
end




