第三話 恋心の自覚
あれから、あいつは毎日俺を一日買いに来る
場所は、高級レストランだったり会員制カフェだったり
特に何かをする訳じゃなく
他愛も無い談笑をしつつ酒を飲むだけ
それが、この一ヶ月
俺の日常になりつつある
ああ、ちなみにあいつの名前は
朽葉と言うらしい
「終夜、今日も楽しかった。また、明日。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
朽葉の高級車から降り
いつもの路地裏を通って酒場へ行く
「よう、兄ちゃん」
「マスター、いつもの」
「はいよ」
朽葉、あいつは俺を買うくせに
一切身体に触れて来ない
したとしても軽いスキンシップ程度だ
キスも頬や額、手の甲に軽く
何を考えているのか分からない
それが、怖い
俺の感情もおかしい
俺が俺じゃなくなる恐怖
あいつと居るとふわふわして
ドキドキして
頭がおかしくなりそうになる
イライラして一気に酒を煽った
翌日
朽葉と今日は天気も良いからと
森林公園を散歩していた
いつも通り他愛も無い話をする
そして、俺は素っ気なく返事をする
でも、きっと僅かに頬は染まっているのだろう
気恥ずかしくなりそっと視線を伏せた
「朽葉様」
突然現れたのは
如何にもお姫様かお嬢様と言った女
「この様な下賎の者と出歩く等、一体どうしてしまったのですか?」
「蘭、君にとやかく言われる筋合いが無いよ」
「朽葉様、蘭は朽葉様を愛しているのです。どうして、私を娶ってくれないのですか」
「何回も言っているだろう。俺は政略結婚なんてしない。そして、君を愛していないからだ。帰ってくれ。終夜、済まない。行こう」
「待って下さい、朽葉様っ」
彼女が泣き崩れるも
朽葉が振り返る事は無かった
そして、俺は気付いてしまった
俺は朽葉が好きなんだと
このままじゃ駄目だと思った
こいつから離れないと
俺は俺じゃ無くなる
「もう、お前に俺は売らない。今日限りで関係はお終いだ」
それだけ言い残すと
俺は彼から逃げる様に立ち去った




