その8 犬狛国宮殿・王女の部屋
豪奢な家具に囲まれた、天井の高い部屋部屋の一角に、ロココ調のテーブルが置かれている。その上には山盛りの羽二重餅。その横には「謹呈 羽二重餅」という紙が添えられている。 笑顔でその餅に手を伸ばしているのは、派手に着飾ったプードル犬のマイヌ。犬狛国の王女である。
「姫様! やたらなものを食べてはなりませぬ!」
乱暴にドアを開け、部屋に入ってきたのは、黒縁メガネのビーグル犬、フントだ。マイヌの執事である。
「大丈夫よ、フント。この餅は愛情がたっぷりのよい食べ物。私の鼻がそう言っている」
ぱくりと餅を食べるマイヌ。
「うっ!」
テーブルにバタリと倒れるマイヌ。
「姫様!」
フントが慌てて駆け寄ると、マイヌは、すくっと体を起こした。顔には満面の笑みが。
「おーいーしー! 柔らかいー! おまえもお食べ」
「は、はあ…」
「ほら、お食べ」
渡された餅を恐る恐る口にするフント。だが、次の瞬間、顔がパーッと明るくなる。
「おおっ。これは実に美味!」
「ところで…」コホンと咳をするマイヌ。「シロネ王子は見つかったのですか」
慌てて餅を飲み込み答えるフント。
「それがまだ……けほっ」
「しっかり頼みますよ。大切な話をしなければいけないのですから」
「承知いたしました」
マイヌに深く頭を下げ、胸を叩きながら、部屋を出ていくフント。
「そうよ。大切な話があるのですから」
マイヌは餅をもう一つ笑顔で頬張った。




