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その5 望野宮神社・本殿奥の部屋


 望野宮神社の本殿奥の部屋は、一般人には入れない場所だった。その様子を知る者は限られている。特に御神体の大鏡は、普段人の目に触れることはない。

 そして、その傍らでは、コブタエが姉さまと慕うブタエが編み物をしていた。ややぽっちゃり体型、長い黒髪に白いロングローブ姿だ。

 その傍らで墨を擦っているのは神獣のシンケイだ。黒い革の上下にポークパイ型の赤い帽子をまとっている。

 ブタエが編み物をしている手をふと止める。

「あら…」

 コブタエとシロネが、大鏡の中から姿を現した。

「シンケイさま、ブタエ姉さま、ただ今戻りました!」コブタエが言う。

「お帰り、コブタエ」微笑むシンケイ。

「お帰りなさい」ブタエも答える。

「おい、ここどこだよ」コブタエの腕から飛び降り、辺りを見回すシロネ。

「望野宮神社の奥です。ここなら追手は来られません」コブタエが言う。

「結界の中か」ブタエに近づき見上げるシロネ。「おい、ブタエとやら、おまえも餅の妖精か?」

「ハ・ブ・タ・エ・餅の妖精です」無表情に答えるブタエ。

 シロネがシンケイに近づき見上げた。

「おい、シンケイとやら。おまえ〝金の極楽ササミ缶〟の匂いがするぞ」

 その言葉にシンケイが笑いだす。「無理もない。我は鶏ゆえ」

 コブタエが、コホンと咳払いする。「シンケイさまは望野宮神社を統べる神獣でいらっしゃいます」

 うっとしそうにコブタエを睨むシロネ。

「あなたのような下賤の者には…」

「ちょうど腹が減ってたところだ。このチキン野郎、俺様のエサになりやがれ!」シンケイに飛びかかるシロネ。

「無礼者!」シロネをローブで叩き落とすブタエ。

 転んだ時に、首輪に結ばれていた黄金の小箱から中身が落ちるが、気付かぬシロネ。ブタエに怒鳴る。

「何すんだ、このババア!」

 ブタエはシロネの言葉を無視してコブタエに言う。

「何なのですか、コブタエ。この可愛げのない白い毛玉は」

 それに対して、なぜかシンケイが答えた。

「猫の魂と書いてネコタマ国の王子シロネだな」

「な、何でそれを!」毛を逆立てるシロネ。「きさま、犬狛側の手の者か!」

 シンケイがシロネの首に手をやり、言う。

「ネームプレートがついておる」

「え? え?」

 慌てるシロネにブタエがくすりと笑う。

「おおかた、粋がって家を出たら、敵に捕まりそうになってしまったといったところでしょう」

「ちげーよ!」

「それでは何ゆえ追われていた」シンケイが問う。

「おまえらに関係ない」

 コブタエが不服そうに言う。「説明してもらわないと困ります」

「何で?」

「ポイントをもらう都合があるので」コブタエが答える。

「はあ? ポイント?」

 コブタエが重々しく答える。「人助けが認められるとポイントをいただけます。十個になったら上級ハブタエンヌ試験の受験資格が得られます」

「上級ハブタエンヌ? 何だそりゃ」

「いわば羽二重餅の妖精の頂点です」

 シロネがブタエに、ちらりと目をやり言う。「でかい餅ってことか」

 シロネを真上から睨むブタエ。

 だが、そんなシロネにはかまわず、うっとりと言うコブタエ。

「そう。あらゆる意味でスケールの大きい存在です」


 コブタエの想像空間が展開する。

「秀でた知性と教養」

 黒縁メガネをかけたコブタエ、俳句を短冊に書く。「古池や 三時のおやつは 羽二重餅」

 場面は次へと移り、コブタエの声がひびく。

「優れた身体能力」

 熊に張り手をするコブタエの姿。

 場面はさらに次へと。同じくコブタエの声が。

「そして究極の美」

 腰に手をやり、ランウェイをモデルウォークしているコブタエ…。


 コブタエが、はっとして意識を目の前のシロネに戻す。

「現在その資格があるのはブタエ姉さまだけ。私も後に続きたいのです」

「つまり、試験のためにポイントが欲しくて俺を助けたと。どこが人助けだよ」不服そうなシロネ。

「そんな言い方しなくても……」

 さらに不服そうなコブタエに、ブタエが告げた。

「コブタエ、今回はノーポイントです」

「ええっ!」

「彼は余計なお世話と感じている様子」

「そんな……あと2個なのに」がっくり肩を落とすコブタエ。

 シロネは部屋を見回しながら言う。

「とりあえず世話になった。俺はもう行く。ここだと仲間が俺に連絡できない。出口どこだ」

「お送りしましょう」ブタエが言う。

「お、おう」

 ブタエはシロネをむんずと抱きかかえると、大鏡の向こうに消えた。

「ブタエ姉さま……」

 肩を落とすコブタエにシンケイが言った。

「コブタエ。人助けとは何か、今一度考えてみるがよい」

 ハッと頭を上げ、元気に答えるコブタエ。

「わかりました! 今度こそシロネを助けます!」

 急いで大鏡から出て行くコブタエを見つめ、シンケイはため息をついた。

「いやはや、どうなることやら…」

 再び墨を擦ろうとしたシンケイは、二つに割れた骨ガムに気付き、手に取った。

「シロネの忘れ物か?」

 シンケイは、それ半紙で包み、神棚に乗せた。


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