その32 犬狛国宮殿・王女の部屋
シロネがマントを翻しながら、マイヌの部屋へ入って来る。
「王女、この度は…」
「これはシロネ王子」フントがうやうやしくシロネにお辞儀する。「今回のこと、すべて明らかになったと電話で仰ってましたね」
「はい」
きっぱりと答えるシロネに目をやったマイヌは、しょんぼりとうつむいた。
「そう。あのツナ缶は、もはや巨大な力を持たない…」
「あ、いや、ツナ缶のことはその…」
口ごもるシロネの前に土下座するフント。
「これはすべて、姫さまを教育できなかった私の責任。死んでお詫びを!」
「いいえ! フントは悪くないわ。いい匂いに耐えられなかったのは私なのですから」
怪訝そうなシロネ。「…何の話?」
「ふう」遠い目で、笑顔のマイヌが言う。「ツナ缶、美味でした…」
「食ってたんかい!」
慌てるフント。「ですが、王子。この二日で極上のツナをかき集め、何とか本物に近づけようと努力はしたのでございます」
フントの手には〝イミテーションダイヤモンドツナ缶〟と書かれた缶がある。
「そんなんで騙されるか!」
「ああ、フント。王子はお怒りです。これで私の夢も叶わなくなった…」マイヌが泣き崩れる。
「姫さま、諦めてはいけません。それはそれ、これはこれでございます」
「夢?」いぶかしがるシロネ。
「シロネ王子とのご結婚です!」すっくと立ち上がり、声高々と告げるフント。
「は?」
「そして両国は統合し安泰に」
「えーと…」
シロネは、ゆっくり後ずさりすると、ドアを開け、猛スピードで走り去った。
庭まで一気に走ってきたシロネは、息を切らし、汗を拭う。
「あんな大飯ぐらいの嫁もらったら、猫の餌、全部食われちまうだろうが!」
ふと、ツナ缶が落ちた池を見つめるシロネ。
「本物のダイヤモンドツナ、うまかったんだろうなあ…」
シロネのお腹がグーと鳴る。
「キープのササミ缶でも食いに行くか。てか、コブタエ大丈夫かな…」
空を見上げるシロネには、浮かぶ雲が羽二重餅の形に見えた。




