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王宮脱出戦線

「とりあえず私のベッドに横になっていて。

腕を元に戻すには、少なくとも夜中まではかかるわ」


本当なら清潔な寝床を用意したかったのだが離れにあるベッドは生憎とルディアナが使うものだけだったため、そこに寝かせるしかない。

跡形もなくなってしまった腕を完全に治すのだ。

通常であれば治癒を何度かに分けて行うのだが、なんせ時間は限られている。

血を止めるのとは比べものにならないほど時間と精神力がいるけれど、一発でやるしかないと己を奮い立たせた。

彼が無事にこの国を出るためには、最低でも今夜中に港から出なければ船の方を押さえられてしまう。


「腕を戻すって…

これ、完全に治せるのか?」

「ええ、それが私にできるせめてもの償いですもの。

もちろんそれで許してくれだなんて言うつもりはないけれど、貴方が国に戻るためならどんなことでも力になるわ」


けれど、私ができるのはそこまで。

送り出したあとは彼が無事に帰ることを祈るしか出来ない。

情けなくて、青年と目を合わせられずに床に視線を落とした。


だが、聞こえてきた青年の声音には怒りも憎悪もなかった。


「へぇ、凄いな」

「…怒って、ないの?」

「おまえは命の恩人だ。

怒ってるわけないだろ」

「っ…だって、無責任じゃない。

3日後には処刑される私は、貴方を無事に国まで送り届けることも出来ない。今度捕まれば腕どころでは済まないのに、私ができるのは今腕を治すだけなのよ」


青年が訳がわからない、といった様子で瞳を瞬かせた。


「何言ってんだ、




おまえも連れて帰るに決まってるだろ」

「…え?」

「なんで残る気満々なんだよ。

馬鹿正直に処刑されてやらなくてもいいだろ」


彼はいったい何を言っているのか。

この国からルディアナを連れ出そうというのなら、それは間違いなく王の逆鱗に触れるのと同義だ。



「そもそも、俺がこの国に来たのはお前を連れて帰る為だ。

あ、いや…表向きは国交を開くためってことにしてるけどな」


額に手をあて、ルディアナは絶句した。


「冗談でしょう…」


彼の主人が馬鹿ではなくて良かったと心から思った。

こんなことを国王に言っていたら、絶対にその場で殺されている。

いや、まさかそれを言ったから斬られたのか?


「聞いてくれ。

俺の国ではいま、多くの民が原因不明の病に侵されている」

「え?」

「明確な治療が出来ない今、死者が出るのも時間の問題だ。

頼む、処刑を受け入れるつもりなら俺の国に来てくれ。

俺たちには、お前の力が必要なんだ…!」


彼の視線が鋭く突き刺さった。

ルディアナは少し迷ったがひとつ大きなため息を落として、腹を括った。

しゃんと背筋を伸ばして、澄んだエメラルドグリーンの瞳をしっかりと見つめ返す。


「わかりました。

貴方の国で、私にできることがあれば力になります」


「本当か!?」


青年の翠の瞳に射ぬかれた時に、既に返事は決まっていた。

私が必要だと、彼は言ったのだ。

それなら、まだ死ぬわけにはいかない。


「そうと決まれば出発するぞ!


俺はリヴェーダ=クロムウェル。

アトランティア王国の使者としてここに来た。


絶対に傷ひとつなくアトランティアに連れて帰ってやるから、安心しろ」


不敵に笑ったリヴェーダはさっさとベッドから飛び下りて、腰の刀を手早く確認する。

さっきまでフラフラしていたのに、無茶苦茶だ。


「船は近くの港だ。

今から向かえば、夜明けには出航できる」

「ちょっと、待って!

リヴェーダ、貴方その腕で行く気?」


言うまでもなく今の彼には片腕しかない。

つい先刻まで死にかけていた、そんな状態で騎士団と戦おうものなら勝敗は火を見るより明らかだ。


しかし、リヴェーダはあっけらかんといい放った。


「これは俺の国につくまで治さなくていい。

今は時間が惜しいんだ。

血も止まってるし、お前守るくらいなら腕一本で十分だ」

「そんな、片手ではとてもじゃないけれど戦えないわ!

相手は国軍の最高峰なのよ?」

「問題ないな。

お前は何も考えずに俺の後ろに立ってるだけでいい」

「なっ…」

「持ってく物は最小限に纏めろ。

ドレスも宝石も却下だからな」


リヴェーダは入り口で待ってる、と言い残して部屋を出ていった。


「なんて命知らずなのかしら」


でも乗りかかった船だわ、いざとなったら腕だろうが足だろうが生やしてやろうじゃないの。


そう密かに決意すると、手近にあった袋に手当たり次第医学書や薬学書を突っ込んだ。





――――結論、私の決意は呆気なく散ることとなるのだが。

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