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phase64 苦悩と劣勢と絶望と

 会議室に入ったが、居たのは英雄のみだった。

 内装的にもどこも同じような作りをしているが、部屋の広さが変わっている。仕切り板などがあることから考えて、可変式なのだろう。


 時間も会議があるくらいの時間――。多少余裕も持っていたが、英雄以外誰も居ないということは、


「研究の件、か?」


「それもだが、一つ言いたいことがあってな」


 英雄の戸惑いがちな言葉に、少し疑問を抱きつつ、頭のなかではこの前の背反行為の件か研究に関することのどちらかだろうと当たりをつけた。

 内密に話をしたいのならどこかしらの部屋にすればいいのに。


「会議は?」


「? ああ。定例になっている朝の会議はもう無くなる。法衣貴族のみしか参加できなくなるからな」


「それは、領地持ちはもう自分の領地に帰ったということ?」


「そうだ。今までにない規模の戦いになると予想されるし、領地持ちの貴族には兵を出してもらい、それを法衣貴族が運用する。そのために今は戻ってもらっている。まあいつものことだ」


 英雄の言葉は広い会議室でも端から端までよく通る。声量が大きいわけではないが、通りやすい音をしている。

 もちろん、英雄と俺との距離はそこまで離れていないし、襲われたとしたら諦めるしかないだろう。


「いや、諦めて――」


 たまるか、と口で離さないまでも決意を固める。


「?」


 思考が声に出てしまったことを恥じつつ、机においてあった水を飲み干し、相対する。


「カナメには、会議で言ったことの反対もやってもらいたい」


「……どういうこと?」


 昨日の会議は一体何だったのだ、という疑問が芽生えたが眉間にしわを寄せた英雄の姿を見てじっとする。


「あの場には間者がいた。それも貴族で誅することもできないやつがな。この国の貴族は一枚岩ではない。特に領土境にいる貴族は裏切りなんて昔は日常茶飯時にやっていた連中だ。情報もあの場では漏れていると考えていい」


「……。本当に大丈夫かこの国」


 小声で呟いた声は英雄の耳に入っていたようだ。苦虫を噛み潰したような、自分ではなんともしがたいことに苛立っている様子に見受けられる。


「中からの浄化は殆ど無い。外からの――、戦争等で貴族が“整理”されることに期待をするしかない。元々の成り立ちとしてしょうがない側面もあるんだ……」


 クリノクロアは部族が寄り添って出来た国だそうだ。今から500年以上前に国としての体裁を整え、小国の中では覇を唱えていたが最近では大国からの圧力で勢力は陰ってきている。いわゆる貴族制の末期状態のようになっているらしい。


 ひと通り歴史的な話を聞き、この前敗走した部隊のせいで国力が低下しているから逆転を狙えるような兵器を開発する必要性を説かれた。


「かき集めても兵数的にはどれくらいになるの?」


「……2万弱、警備や後方などを考えると1万5千を割ると考えられる。対して敵は大国との戦いも終わり、こちらに主力軍をぶつけるとして12万ほどだ」


 俺は天を仰いだ。白く装飾された天井が眼に入るだけであったが。

 いわゆる無理ゲーというやつじゃないのか。鉄鋼材などの資材も乏しく、兵は弱兵。貴族の内部分裂も起こしていて性格を覗いてまともな国家運営をしているのは英雄と一部の法衣貴族しかない。

 逃げるか――?


「さらに異世界人の登場で銃器も相手方にある。こちらは基本的には白兵戦と魔法部隊による攻撃くらいしかない。あとは――、同盟国からの派兵もあるだろうが膨れ上がったとして5万程度」


「――」


 追い打ちのように言われた言葉は俺の顔を歪ませるにたるものだった。よく滅んでいないと思う。


「開発期間は1年。殺傷力の高いものを開発してもらいたい。いろいろ考えたが魔導兵器は研究者に案を出させていてそれを採用してくれていいが、“異世界組”に魔晶石があるからといって机上の空論だった兵器がどのように作ればいいのかもわからん。カナメには、」


 英雄は水を飲み干してから言った。


「あるモノを大量に作ってもらいたい」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 会議室から出て、英雄の言葉を反芻していた。

 俺は人を殺したことがある。それも大量に。


 でも虐殺、万単位の人間は殺したことはない。しかしその片棒をかつぐことになってしまった。


 英雄から言われた言葉はこうだ。


「俺は地球への帰還手段を知っている」


「この国に残りたいのならば、次期王として最大限の計らいをする」


 この2つの言葉は俺を大きく惑わせて、見えない鎖が自分をがんじがらめにしていく感覚がした。

 英雄が言った言葉が本当なのかはわからない。研究者が見つけられないようなことを、地球の人間が未だかつて成し遂げたことのないことの手段を“知っている”と言わしめる根拠が見えない。


「なんにせよ、動くしかないか」


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