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Phase41 魚

 空気が死んでいる。

 援軍を頼りにしていただけに、勝ちの目がなくなってしまった。

 同盟軍とクリノクロアからの軍は迂回して、背後からカヌザーヤの連中を襲い、それに呼応してこちらも打って出る予定だったらしい。

 それが、迂回中に第二王女直属の兵が奇襲。奇襲するつもりが奇襲をされてしまって耐え切れず敗走したようだ。

 最近攻撃の手が緩かったのはそのためだったのか。

 野営地に人が多く見えるのは、捕虜として捕まってしまったやつもいるからだろう。

 

「やはり、降伏するしか無いか……」


「いや、水はありますし籠城は出来ますぞ」


「兵糧もまだありますぞ。本国からの第二軍が来るまで耐えられればまだ……」


「第一軍は精鋭部隊もいた。俺の育てた奴らだ。そいつらもいて敗走したのだろう? クリノクロアにまともな兵がいないのはお前らだってわかっているだろうが」


 英雄がまた机を粉砕した。完全に頭に血が上っているようだ。


「確かに水はあるだろう。食料もあるだろう。奇襲を繰り返せば勝ちの目は見えてくるかもしれん。でも」


「英雄殿の首で降伏が出来たとしても死期が少し伸びるだけで後は蹂躙されるだけですぞ。その考えは捨てなされ。あなたに生き残ってもらわねばこの国は立ちいかなくなってしまう」


「じゃあ。どうするんだ? 後残っている手段は全兵での奇襲して、敵将を打ち取るしかないぞ。規模はもっと小さい状況だったが、この前の奇襲ではミナトも捕まったりしたんだぞ?」


「では、籠城しかありますまい。第二軍にかけるか、一縷の望みにかけ、全軍で奇襲をするか、もはや手段はありませぬぞ」


「……わかった。籠城しよう。奇襲は俺一人で行う」


 そう言って英雄は会議室の外に出ていった。

 俺に死ぬつもり無いんですけど。こっちが安全だと思って亡命したつもりなのになんでこうなってるんだろ? 俺の貴族平和ライフはどこに?



 英雄が出て行った後、皆殺気立っていた。残った面々でこれからのことを話すようだ。


「会議中の所失礼します!」


 いきなりなんだ。と思ったら先ほど見た門番だった。


「カナメ殿に作っていただいた管からの水の出は良好。しかし赤黒くとても飲めないようなものに先ほど変わりました。おそらく毒を入れられたものと思われます!」


 何だと……。ちゃんとカモフラージュまでしてばれないようにしたつもりだったのに、察知されたのか?


 会議どころじゃない。急いで水の所に向かう。



 目の前にあったのは赤黒い池だった。

 水晶の管を使っているし、流入したとしか考えられない。


「これは、ひどい。どうしてこうなっているんだ? 俺の工事はうまく行っていたはずだ。敵にも察知されたとは考えられんぞ。なぜだ? なぜなんだ?」


「カナメ子爵」


 工作部隊の土下座していた人だ。すごく沈痛な表情をしている。


「何ですか?」


「これは、おそらく魚でしょう。水を引き込む時に一緒に吸い込んでしまい、管の中の風車状のもので細断されたのでしょう」


「つまり、敵軍に察知されたのではなく、川に住んでいる魚がこっちに来てしまっただけなのか?」


「敵軍の察知は……。いえ、その前に。ちゃんと魚が来ないように網のようなものも作ったのですよね?」


「作りました。簡単には外れないし、高耐久のもののはずです」


「では、魔物でしょう。こちらに流れ着いた魚肉の量的にもそうかと思われます」


 魔物? 魚型のか? 最後にあった魔物は顔がない気持ち悪いやつだったと思うが……。


「そいつは俺の作った網を壊せるほどなのだったのか……」


「そうです。あの川の代表的な魔物です。しかし、カナメ殿の網を壊せるとは思えませぬが……。おまけにやつは毒も持っていますし、この水は到底飲めるものじゃないでしょう……」


「もう一度、もう一度管を通すのは駄目なのか?」


「駄目です。これを見てください」


 そう行って渡されたのは矢と紙だった。

 内容は、川の水を引っ張ろうとしても無駄だということが書かれていた。

 丁寧に第二王女の判まである。 


「バレたのか……?」


「そうです。おそらく魔物の血が管を逆流して吹き出ていってしまったからでしょう。構造上貯めこむタイプですから逆流も十分ありえます」


 目の前が真っ暗になった。


「わかった。この件は会議に持ち込もう。説明ありがとう……」


 どうしよう。どうしてこうなった。

 いや、どうしようもないはずだ。ちがう俺が悪いんだ。

 思考がまとまらない。発狂しそう。


 後ろからレミアに抱きつかれた。なんだろうって思ったけどもう何も感じなかった。


「カナメ。考えすぎないで。こうなってしまったならもう次のことを考えるしか無いわ」


 知ってるよそんなことは。

 調子に乗っていた。亡命したら貴族に成れてラッキーとか思っていた。

 捕まったとしてもレミアやメリッサを助けられるくらいに実力はついたと思っていた。

 戦闘をしたくないから生産系での手伝いができればいいと思っていた。

 結果はこれか。戦況の悪化じゃないか。


 このまま負けたらどうなる? おそらく俺は死ぬだろう。

 いやだ。死にたくない。


 レミアもメリッサもおそらく敵の為すがままになるだろう。

 それもいやだ。

 でも、この状況でどうする。

 どうすればいい。


 眼の前に映ったのは、いつの間にか作っていた水晶の塊だった。

 そうか、そういうことなのか? 

 やはり、奇襲して相手の士官を全員捕縛だか殺すかしないといけない。


 思考に沈んでいたが、会議室に着いた。皆俺を注目している。


「水の件ですが……」


 事情を洗いざらい説明する。いつの間にか英雄も戻ってきていた。


 説明し終わると皆覚悟を決めている顔をしていた。


「籠城は無理。水も残り僅か。奇襲ですな」


「それしかないでしょう。相手の士官を全員捕縛するくらいの戦果がなければもはやひっくり返せまい」


「英雄殿には魔力の関係上、敵軍の中でも精鋭部隊に当たるまでは温存しましょう。そこまでの露払いは我らで行いましょう」


「……わかった。今日の夜中に全兵で奇襲を行おう。死ぬ準備をしておけ」


あらすじ変更しました。

公開時からほとんど変えていなく、その時はプロットも何もなかったのでいい加減に。

前ページ後書きを追記しました。申し訳ないです。


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