Phase39 水
一週間経った。
今日もどうせ魔晶石を作って、門とかの修理をして、というルーチンワークをこなすだけだろう。
そろそろいつ援軍が来てもおかしくないはずだし、防衛戦も終わってくれそうだ。
体が習慣付けられているのか、自然と早起き出来た。
いつも通り貴族たちと一緒に食事兼会議だ。
この一週間で変わったことは殆ど無い。しいていうなら魔力量が増えたくらいか。
後はこちらの魔晶石を投石機で投げることによる被害が大きいからか、包囲も随分先からやっているし、あまり攻撃も来なくなった。
援軍が来れば引くだろうし、第十王子を助けないといけなかったという建前は果たせるだろう。
糞貴族共は軟禁したまま水だけを与えているらしい。
みるみるうちにダイエット出来て羨ましいもんだね。直接的に手を出したかったけど、それはこの防衛戦の間は無理なのは残念だ。
まだ処遇が決まっていないし、爵位の低い俺がどうこうできるものではない。
そんなことを考えつつ、食事場についた。今日も遅刻はしない。
席に着くと、非常に重い空気だ。何かがあったのだろうか。俺は何も聞いていないぞ。
英雄が席に着き、開口一番爆弾を落としてくれた。
「我々は、敵軍に投降しようと思う。俺の首と第十王子やその他のクソ共と引き換えならお前らの助命は叶うだろう」
何が起きた。何も聞いてないからいったい今何が起きているのかわからないぞ。
「いや、我々もお供しますぞ」
代表して言ったのはアラン伯爵。まだ死ぬ気無いんだけど俺。
「ちょっと待ってください。まだ状況がつかめていないのですが、何があったのですか?」
「ああ、カナメはまだ聞いていないのか。昨夜、地下水に大量の毒を入れられた。水の備蓄は一週間分あるから援軍が来るまでは保つだろう。しかし、援軍が来ても受け入れられないし、敵もそれがわかっているから引かないだろう。手詰まりだ」
「地下水以外に水が手に入れる場所とかはないのか? いや、ないのでしょうか?」
「あるが、全部ダメだった。大元の所に毒を入れられているからもうどうしようもない。地下水ではなく川の水も飲めなくはないが、それは敵軍に抑えられているから味方全員の喉を潤すほどの量を持ってくるのは難しい」
「ちなみに、飲んだ人は……?」
「全員死んだよ。今日は席が一つ空いているだろう? もう埋まることはないんだ……」
ちきしょう。と英雄が言って、振り下ろした拳が机を粉砕した。
今日の食事はなくなった。
しかし、水源が一つしか無いというのは致命的すぎる。最近の攻撃が殆ど無かったのはこの周辺の地形とかを調べていたのだろう。
「全員砦を枕にして討ち死にするか、降伏するか。どちらかしか無いというわけだ。俺は皆を死なせたくない」
英雄だけで敵軍を払えるのならとっくにやっているだろうし、手詰まりか。
いや、ほんとにそうだろうか。
「魔法を使えるものを集めて、水を発生させればいいのでは? それか、パムの実で水をろ過するとか」
「この砦内に約七百人の兵、その数倍以上の一般人。援軍がどれだけかはわからんが砦内の兵士の数倍はいるだろう。その中でも魔法の適性のあるものは少ないし、多くとも二百人程度の水しか用意できん。後は緩慢な自殺だ。援軍が来たら余計に死が早まる。パムの実はそもそもこの砦に無いし、あったとしても使用回数に制限があるからこれも緩慢な自殺になる」
「俺のスキルで氷なら発生できます。それを水にすればおそらく二千人くらいまでなら対応できます。それでも駄目ですか?」
魔力一で一リットル分の氷が作れたはずだ。全魔力を使えば二千人くらいまでならいけるはずだ。
「いや、それでも足りない。確かに兵士だけ生き残ればいいのならそれでいいだろう。だが、ここには一般人もいる。彼らを殺してまで兵だけが生き残るのは駄目だ」
他にいい案はないのか。さんざん煮え湯を飲ませた相手だ。英雄の首と引き換えとかいっても受け入れられるのかも怪しい。
「じゃあ、敵軍に抑えられているという川までばれないように穴を掘り、水を引くのは駄目なのですか?」
「それも考えてある。が、ここらの地盤的に不可能だ。だから手詰まりなんだ」
「俺のスキルで地盤を固定化して、トンネル状にしても駄目なのですか? 英雄殿、水道管のようなものをイメージしてください」
敬語を使い慣れていないからすごい違和感がある。絶望的な状況だけど、これしかもう無いだろう。英雄はしばらく考えてこんでいた。
「カナメの案でいくか。それなら一応賄えるはずだ」
それで、会議は終わった。
早速川のある方向に穴掘りだ。
詳しそうなブッド伯爵にどこから掘っていけばいいのか聞いてみると、ある場所を案内された。
櫓の近くだった。
「地下水の水脈から離れていて、かつ川に近いところといえばここしか無い。英雄殿を死なせるわけにはいかぬ。頼むぞ」
「わかりました。後必要な用具が色々とあるのですが、拝借してよろしいでしょうか?」
「ああ、なんでも持っていけ」
欲しかったのは空気を送る用の扇風機もどきみたいなやつだ。人力だからその辺の兵士に事情を説明して回させる。もう俺の顔を覚えているのか素直に従ってくれた。
扇風機もどきの大きさは直径一メートル位だ。それに合うようにゴムのチューブを作ってやる。そこを通って空気が通るようにしたいためだ。
まずは、直径二メートルくらいの幅の穴を地面にあける。高低差を付けないといけないだろうからかなり深めだ。
そこから、川の方向までひたすら掘り進めよう。スキルで直径二メートルくらいのかなり巨大な水晶の管を作っていく。生成時に土があった場所でも、その中から生えてくるから後は土を押しのければいい。
英雄の言っていたとおり、かなりやわらかい地層だ。突っかかるようなものも特にはなかった。
大体一メートル位管を作ったら土を兵士に掻きだしてもらい、また作る。の繰り返しだ。
土を掻きだしている間は、少しでも魔力を回復させるために魔力補給用魔法陣を連打する。
微々たるものでもないよりはマシだ。
川までは約一キロほどあるらしい。今のペースで行くと、明日には管が通るだろう。
気がついたらもうすぐ日が落ちる。
櫓に登って、戦況はどうだったのかを見ると、いつもより門の損傷が大きかった。
もう撤退していたけど、ここから見える敵の野営地の幅が広くなっている気がする。あんなに兵がいたっけ?
疑問に思いつつ、今日の作業は終わった。




