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Phase14 迷宮

 いつのまにか馬車に乗っていた。

 起こしても起きなかったらしく、しょうがなかったので馬車に乗せたらしい。

 寝心地というか抱き心地がよかったので起きられなかったのはしょうがないとおもう。

 夜中にレミアがテントから抜け出した感覚があったけど、それ以降の記憶はあいまいだ。

 誰かに抱き着いていたような……


 頭が働かないので、レミアが剣を手入れしているのをぼーっと見る。


「カナメが寝ている間、魔物に襲われていたけど気がつかなかった?」


「あー、全く記憶にないかな」


「私もメリッサも警戒はしていたから大丈夫だったけど、敵意に対して反応出来る位にはなってほしい」


 そんなことを言われても起きているならまだしも寝ているときにできる気がしない。

 レミアもメリッサも高ランクの冒険者だから分かるのかもしれないけど、最近剣を握り始めた人間がやるにはハードルが高いと思う。


 馬車の動きが止まった。何事かと思ってレミアと一緒に外を見てみると馬車置き場みたいなところにいるみたいだ。少し高級そうなものから普通のものまで色々止まっている。


「迷宮の近くについたわよ。今から手続きをしてくるから、ちょっと待ってて」


 メリッサにそう言われたのでおとなしく待つ。


「迷宮なのに馬車とか止めるところあるんだ」

 

「迷宮といっても緑青の迷宮は管理された迷宮のうちの一つ」


「管理された……ってどういうこと?」


「管理された迷宮には二つのタイプがある。一つは迷宮の主が強すぎて迷宮自体を壊せないタイプ、これは迷宮の外に騎士団とか国の組織が張り込んで中から魔物が出てこないような措置をしている」


 レミアが強いと言うのだから相当強いのだろう。正直行きたくない。


「もう一つは人間や、人間と親交のある種族に利益をもたらす迷宮がある」


「迷宮って魔物とかが湧いてくるなら駆逐した方がいいんじゃないのか?」


「一概にそうとは言えないわ。今から行く迷宮はカナメみたいな戦闘初心者でもちゃんと準備すればレベルがあげられるような所。人材を育成するっていう面では人間にとって利益がある」


「だったら皆冒険者になるんじゃないのか? 迷宮を探索するだけでも儲かりそうだし」


「戦闘初心者でも殺せる魔物から取れるようなものは売ったってお金にはならない。むしろレベル上げのためにわざわざ管理しているようなものだし、むしろこのタイプの迷宮に入るにはお金をとられる」


 お金を払って迷宮で訓練するようなものか。初心者向けだし、国としては強い冒険者をできるだけ確保したい思惑があるからか、良心的な値段にはなっているらしい。今持っているお金の量から考えて、俺が出すには余裕だろう。

 むしろ油断してしまうと殺されるっていう冗談じゃ済まないところがあるのは怖い。

 思考が段々と悪い方向に進んできたが、メリッサが手続きを終えて戻ってきた。


「防具とか武器とかは大丈夫?」


「大丈夫。他に持っていくものは何かある?」


「今日一日で戻ってくるつもりだし、そこまでないわ。私とレミアで持って行くからカナメは戦闘に集中して」


 女の子に荷物をもたせるなんて、とも思うが下手に俺が荷物を持って、そのせいで魔物に殺されたりしたら冗談じゃない。甘えさせてもらおう。




 迷宮に入ると、管理された迷宮というだけはあった。

 最初は薄暗い洞窟のようなものを想像していたが、光の魔晶石が灯り替わりにいたるところにあるので明るい。天井もそこまで低くはなく、おもいっきり剣を振り回しても問題は無さそうだ。でも血とか汗のような臭いがきついのでかんべんして欲しい気分だ。

 顔をしかめているとレミアに袖を引っ張られた。


「臭いは我慢しなさい。いずれ慣れる」


 耐えられないほどではないがあまり長居したくないと思えるくらいには嫌だ。

 きっと今日一日迷宮に潜りきったら臭覚は麻痺していると思う。


「ここは20階層まであるけど19階層までしか立ち入りはできないわ。20階層は主がいるから封鎖されているし、今のカナメだったら10階層くらいでちょうどいい訓練になると思うからそこまでさっさと行くわよ」


「わかった。剣はもう抜いといたほうがいい?」


「そうね。不意打ちは怖いし抜いておいたほうがいいと思うわ。」


 そう言われたので剣を抜くが歩いていると自分の足を切りつけたりしそうで怖い。一応防具を着ているから刃は通らないはずだがそれでも怖いものは怖い。


「杖を持って魔法を使いながら剣で斬りかかるとか器用な真似はしようと思わないほうがいいわよ。今のカナメだと、どちらか一方だけにしとかないとすべて疎かになって死ぬわ」


 メリッサに至極真面目な顔で言われたので頷いておく、レミアもメリッサも普段の雰囲気から考えられないほど棘々しい感じがする。


 そう思っていると緑色の何かが倒れているのが見えた。

 幼い子供ほどの大きさしかなく、顔は見えないので分からないが、緑色の血を腹から流している。人間に近い形をしているので気持ち悪い。


「あの倒れているのはゴブリン?」


「そうよ。見ればわかるけど、顔は醜悪よ。生命力は高いからあの状態でも死んでいるかわからないし一応剣を刺してみて」


 ゴブリンに近づいて、距離が一メートルくらいになった瞬間、起き上がってきて俺に襲いかかってきた。思わず反射的に剣を振ってしまうと、首にあたったみたいで首がゴロンと落ちた。

 体から緑色の血が垂れ流され痙攣していて、顔は口と鼻と目がくっついたような感じになっている。

 胃から出ようとするものに逆らわずその場で吐いてしまった。


 メリッサが背中を撫でてくれるので、完全に吐き終わるまでは早かった。

 レミアは辺りを警戒しているようだし、一応は安全だ。


 もし群れだったりしたら吐いている間に殺されるかもしれなかったし一匹でよかった。

 手に少しだけ残っているゴブリンの首をはねた感触が非常に気持ち悪い。

  完全に、とは言えないが落ち着いてきたので先に進むことにした。 ゴブリンの死体がグロテスクで回れ右して帰りたい気分だ。


 次の階層に行くための階段はすぐに見つかった。浅い階層は魔物は少ないらしいが、この下からどんどん多くなるみたいだ。レミアが警戒のために先に降りて、安全を確保するらしい。レミアが遅れをとると思えないしメリッサとしばらく待つことにした。

 

「魔物を殺すのは初めて?」


「魔物というか、あんなに大きな生き物を殺すのも初めてかな。正直帰りたい」


「でも殺らなきゃ殺られるし、カナメには強くなってもらわないと困るわ」


 こういうことには慣れないといけないのだろうが、一生慣れないかもしれない。

 いつか襲われて人を殺すことになった時、耐えられるだろうか。

 そう考えていると、レミアから合図があった。安全を確保できたらしい。


 階段、といっても人工的につくった感じではなく、坂道に少し大きめな石が敷かれている感じだ。

 歩きにくいのでここでは戦闘をしたくないが、階層を超えて襲ってくる魔物は居なくは無いけど少ないらしいので安心した。


 一階層の次は五階層らしい。いやに降りるのが長いと思っていたら階段には一階から二階につながっているものもあれば、一気に十五階層まで行けるものもあるらしい。

 俺の様子を見て、五階層位が適しているらしいので、そこに直接行くことにしたようだ。

 管理された迷宮である為か、内部の地図は普通に購入できるらしく、ショートカットもできるみたいだ。

 

「管理されていない迷宮ってどんな感じなの?」


 メリッサに聞いてみる。レミアが安全を確保してくれているので、今は聞いても大丈夫だろう。


「ここみたいに地図なんてけったいなものはないわね。入るのは規制されてはいないけど、入って無事に帰ってこられないことが多いわね。」


「以前、肉の迷宮っていうとこの近くにいたことがあるのだけど、あれは管理されていない迷宮?」


「そうよ。浅いところはそうでもないんだけど、深いところは難易度が段違いだし、つかまって養分にされるなんて冗談じゃないところね。特にお金になるような魔物はいないし、スライムの亜種が多いところだから管理する価値はないわね」

 

 以前見たコケっぽいものはスライムらしい。かなりイメージと違うが、亜種だしそんなものなのだろう。

 あんなのが大量にいて、体を溶かされて死ぬなんて絶対にいやだ。



 

 五階層だ。レミアが俺の前を、メリッサが後を警戒しつつ探索していると、ゴブリンっぽいのが三匹程見えた。

 今度は瀕死の重傷を負っているわけではなく、小汚い棒でこちらを威嚇している。

 装備というほどではないが、茶赤く、小汚い格好をしている。

 


「今度は魔法を使って倒してみなさい。集団に突込むにはまだつらいと思うわ」


 そういいつつメリッサも杖を出した。もしものために援護はしてくれるらしい。

 ゴブリンが突撃してきたので、ゴブリンに向かって火をつけるイメージで魔法を使うと三匹全部の服に火がついた。


「なんで洞窟内で火なんて使うのよ!」


 メリッサがあわてた様子で水を出してゴブリンに浴びせた。

 既にゴブリンは死んでいるみたいだ。


「いい?火が付いたまま突撃されたらこっちが火傷を負うかもしれないし、肉の焼ける臭いはひどいわ。それよりも重要なのは洞窟内で火系の魔法を使うと息苦しくなって死ぬこともあるし、運が悪いと暴走して爆発することもあるから絶対に使ってはだめ」


 確かに酸素不足で死ぬかもしれないし粉じん爆発で酷いことになるかもしれない。

 ゴブリンが襲ってくるから反射的に魔法を使ってしまった。火は迷宮ではもう使わないようにしよう。

 ゴブリンを殺しても直接ではないからか、さっきより罪悪感というか、気持悪さが薄いが、どうもメリッサの慌てた顔が頭について離れない。


 今回は大丈夫だったから本当によかった。



 五階層は数匹のゴブリン位しかいなくて、体的には楽に攻略できた。

 今度は火を使わずに水で相手を窒息死させたり、押し流したりするだけでも勝てたし、接近しても、棒を振り回すだけだし、リーチも短いので一方的に殺すことができた。

 ただ、精神的にはかなり辛く、魔法で殺すときはまだしも、剣を使うと感触がどうも慣れない。

 何度吐いてしまったか分からないけど、帰らせてくれそうにはないし、俺のレベルをあげるには必要なんだ。と自分を鼓舞してもキツイものはキツイ。


 五階層は粗方攻略し終ったみたいなので、今度は十階層まで一気に行くらしい。


「大丈夫。数匹が二十匹位になるだけだし、急所に食らわなければ怪我する恐れはないわ」


 そうはいっても難易度上げすぎだと思う。今の俺の装備的に急所に当たらなければ、というのは分かるが、二十匹と同時に戦うなんて心が麻痺してきて何も感じなくなりそうだ。

 レミアは強いからこのくらいはできるだろうと思っているだろうけど、もうきつい。

 それでも階段の下に索敵しにいったため、文句をいえる暇もなかった。


緑色の血はヘモバナジン

赤色の血はヘモグロビン

青色の血はヘモシアニンのせいだったと思います。


映画とかで青い血を流す生き物は銅が豊富なんでしょうかね

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