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ダンジョンに行こう

「店長、こんにちは〜」


 翌日。私は二日前の夜に取り寄せておいた例のブツを取りに、御用達の防具屋へ足を運んだ。


「おお、お前さんか。ほれ、これだろ?」


 カウンターの奥から、ガタイの良い中年の男が顔を出す。この防具屋の店長で、私とは顔馴染みだ。彼はお店の奥から数箱の段ボール箱を持って来て、私に渡した。


「うん、ありがとね〜。はい、代金」


 ポケットから小切手を取り出す。声を大にして言えない大きい金額だが、これも紫織の安全を守るためだ。私は探索者として成功しているから、そこそこの収入がある。魔物からドロップするアイテムを売ればお金になるし、運が良ければ一つのドロップアイテムから大金が手に入るケースもある。


「全く、贅沢なもんだな。しかし、こいつらはお前さんには合わないと思うが」


「使うのは私じゃなくて、私の弟だから」


「へ〜?お前の弟さんか。探索者デビューってことか?それにしちゃ大仰であり得ない装備だけどな」


「念には念をってやつだよ!じゃ、またね〜」


 店長に手を振って別れを告げた後、段ボール箱を片手で持ち上げ、お家までスキップで帰る。


 そして私たちが住むアパートの一室に辿り着いた。


「ただいま〜」


「おかえり〜」


 リビングで宿題をしていた紫織が、こちらに視線を送ると、私が持っている段ボール箱に気がつき怪訝な表情を浮かべた。


「お姉ちゃん。なにそれ?」


「ふっふ〜ん………なんとなんと、紫織の装備で〜〜す!!」


「えぇっ!?僕の装備!?………てっきり一緒に買いに行くのかと思ってったよ!サイズとか大丈夫なの?」


「ご心配は無用!紫織の体のサイズなんて、ぜ〜んぶ把握済みだから!サイズは大丈夫だよ〜」


「え、怖い……」


「はいはい、じゃ、早速開封と行こうぜ!!」


 ビリビリ、と段ボール箱を開封。するとそこには………


「テッテレ〜!竜の鎧、竜の兜、竜の籠手、竜の靴〜〜」


「ええええ!!!???ドラえ○んみたいな感じで出されても困るんだけど!!!???」


「ふっふ、なんと紫織のために竜装備一式買ってみました〜!!いえ〜い」


「えっ、えっ??…………ぼく、ダンチューブ見てるからわかるけど………竜の装備って最上級に強いみたいな……」


「そうだよ」


「……そんなに簡単に手に入るものなの?」


「たまたま竜の素材を持ってたから。知り合いに作ってもらった」


「えぇ……………確かに、お姉ちゃんってそういうところもあったよね」


 本当にたまたま、もう第何階層かも忘れたが、フロアボスに竜がいたので、「ラッキー!素材高く売れるんだよねー」と思って狩ったのだ。

 その時はそのまま売ろうとしたが、リスナーさんたちが「それで装備作った方が良い」って言うから取っておいたんだよね。まさか、こんな時に役立つとは………。

 次の配信の時に、リスナーさんたちにお礼を言わなくちゃ!


「でも、ありがとうお姉ちゃん。本当に、僕頑張るよ」


 紫織の瞳を覗き込むと、決意の炎が宿っていた。


「なに見てるの、お姉ちゃん」


「決意の炎が宿ってるなーと思って」


「なに言ってるの、お姉ちゃん………」


◇◇◇


 その後装備を紫織と確認し、早速身につけてダンジョンへ。紫織がダンジョンを一回覗いていみたいと言うので、連れて来たのだ。


「はい、探索者証明書」


「はい…………確認しました」


「ありがと〜………どう?紫織。ここがダンジョンの入り口だよ」


「おお〜……何というか、意外と賑やかだね」


「ま、そうだね。今日は日曜の午後だしそこそこ出入りも多い。入口は特に人が多くなるから、照明も壁につけてるしね。8層くらいまでは初心者でも探索しやすいと思うよ」


 私たちはだべりながら、歩を進める。ダンジョン1層に入り、探索を進める。


「今日はどうするんだっけ?」


「とりあえず1層でスライムを倒そう」


「スライムってあれだよね?」


「そうそう、あれがスライム!」


「わ〜!もちもち〜」


 紫織は実物のスライムを見るのが初めてなのだろう。好奇心旺盛にスライムの体を観察して、ツンツンと指で突いてもちもちの感触を楽しんでいる。警戒心ないな。


「きゅ…………!?きゅ…………!」


 ようやく指で突かれていることに気がついたスライムが、紫織を真正面に捉える。

 

 スライム の たいあたり!ダメージ、0!


「どうしたの〜?構って欲しいのかな?ヨシヨシ、かわいいね〜!」


「きゅー!?」


 スライムの頭をヨシヨシと撫でる紫織。これでも"モンスター"なスライムの自尊心は、今頃ズダボロになってしまっただろう、かわいそうに…………。


「私も撫でて欲しいな…………じゃなくて!!倒さなきゃダメなの!スライム、イズ、モンスター、オッケー!?」


「え〜でもこんなにかわいいのに!ほら、今だってこんなに構って欲しそうに……」


「それ違うから。攻撃だから」


「む〜!お姉ちゃんの鬼畜!」


「き、鬼畜!!??お姉ちゃん泣いちゃうよ?」


 仕方ないので、もう一層だけ潜り、第二層でウルフを狩ることにした。


 ウルフは第五層くらいまで出てくるモンスターで、初心者・中級者向けのモンスターと言える。

 名前からすばしっこく凶悪なイメージを持ちやすいが、凶悪ではない。第四、五層あたりで出てくるウルフこそ牙は凶悪だが、第二層あたりのウルフは素早いだけのワンちゃんに等しい。そのため、初心者でもレベルに合った最適なモンスターだ。


 紫織のような本当に始めたてのひよっこ探索者は、二週間くらいは第一層でスライムを狩り続けるのが普通だ。血も出ないし、殺しているという感覚もわかりづらいためだ。


 しかし、おそらく紫織はステータスが高いからだろう、スライムは敵じゃないらしい。

 さっきだってスライムの体当たりも全然効いていなかったし、おそらくそういうことなのだろう。



「さ、ここが第二層だよ」


「おお〜なんか、一気にジャングルらしさが増したね」


「そうだね〜……ま、新緑のダンジョンなんて言われるくらいだからね」


「あ、お姉ちゃん、あれウルフ?」


 紫織がさっと木陰に身を隠しながら、声を潜めて私にそう尋ねる。可愛い。

 紫織の目線の先には、丸まって寝ているウルフの姿が見えた。


「うん、あれがウルフ。さ、魔法を唱えてみて」


「えっ、どうやって………」


「うーんとね、まず炎の魔法から撃ってみようか。そして、火の玉を連想して、あの狼にドーン!と打つところを想像するの」


 紫織は全属性の適性があったため、炎の魔法も当然使えるはずだ。私がそう言うと、紫織は目を瞑って集中し始めた。


「………どーん!…どーん!どーん!……お姉ちゃん、できない」


「あっれー?おかしいな……」


 みんながどうかはわからないが、私はそれでできたので、紫織もそれでできるはずだ。

 どーん!でできたはずなのに。


「………お姉ちゃん、もしかして教えるのへた?」


「うっ……」


 少し思いかけていたことを言われてしまった。やめて!そんなにジトッとした目で見ないで!

 

 でも、これ以上なんと説明すれば良いかわからない。どうしようと頭を悩まさせていると、ふと後ろから私の活動名で声をかけられた。


「あれー?ツムギ?」


「あ、コオリじゃん?」


 後ろ振り向くと、そこには同じ事務所の同期である、氷姫コオリがいた。


 長袖長ズボン、今日も相変わらず皮膚をあまり見せない服装だ。

 ただ、これは彼女の持病、先天性白皮症によるもので、紫外線の影響を少なくするためらしい。

 

 その持病のせいで、彼女の髪は綺麗な銀色で、皮膚も雪のように真っ白だ。

 しかも、彼女は今着けている特殊なメガネを外すと、羞明や眼振を引き起こしてしまうらしい。


 

「昨日の配信突然終わっちゃったから心配してたんだよー?元気そーじゃん」


 そんな彼女だが、病気なんて知るかーと言った具合で、元気にダンジョン配信をしている。なんでも症候型じゃないので、運動機能とかに実害はないらしい。彼女は探索者としても、強力な部類に入ると思う。


「あ………ご、ごめん!……ルイッターで報告しないと……!」


 彼女に心底心配されたような顔をされ、思わず謝る。


「もうっーDM見たー?」


「えっ………あ、めっちゃメッセージきてる……」


 仕事用の携帯を取り出すと、いろんな人からDMやらでメッセージが届いていた。どれもこれも、私を心配してくれている旨のメッセージだった。

 ………紫織の件のインパクトが強すぎて、報告をするのを忘れていた。あれだけ「ホウレンソウダイジ」とマネージャーさんに言われたのに。………こりゃ、あの人とあったらまた説教だな………。


「ねえ……お姉ちゃん、この人誰?」


 すると、隣にいる紫織が私の耳に口を近づけ、こそこそ、と話しかけてきた。死ぬかと思った。不意打ちやめて。


「配信者仲間の氷姫コオリだよ」


「……えっ!?あ、あのコオリさん?」


「私のこと知ってるのー?」


 コオリは間の抜けた返事を返し、紫織に向かってひらひらと手を振っていた。それに対し、紫織もはにかんで手を振りかえしていた。


 紫織には、元々私が配信者として活動してある旨を伝えている。だから、私の同期であるコオリのことも知っているのだろう。


「実はファンなんです!会えて嬉しいです」


「こちらこそ嬉しいよー。応援ありがとうねー」


 紫織とコオリは親しげに握手を交わしていた。


「紫織、私は?」


「もちろんファンだよ」


「私とコオリ、同じ時間に配信してたらどっち見る?」


「………コオリさん」


 悲しい。負けた。


「それより、コオリはどうしてここに?」


 彼女はこの新緑のダンジョンを、25階層までクリアしていたはずだ。転移石は一階層から使えるので、彼女が二階層に来る目的がよくわからなかった。


「ルイちゃんにねー、ウルフの肉ちょうだいって頼まれたのー」


「あぁ、なるほどね」


「お姉ちゃん、ルイちゃんって誰?」


「個人で配信している人で、簡単に言えば、ダンジョン食を研究している人って感じかな」


 頭の中でルイちゃんを思い出す。髪をショートカットに切り揃えた、快活な性格の人だ。


「ダンジョン食ってなに?」


「ダンジョン食っていうのはねー、ダンジョンで取れる食材をもとに作った料理のことだよー」


「え……じゃあ、あのウルフの肉からお料理を作るってこと?」


「そうだと思うよー。今度、みんなを呼んでお食事会やるみたいだから、その調達じゃないかなー」


 なに、ルイちゃんまたお食事会を開くのか!それは楽しみだ。ルイちゃんのお食事は奇抜だけれど、味は間違いないので、お食事会には必ず参加している。


 そんな話をしていたら、さっき紫織が見つけたウルフがぴくりと起き上がる。


「あ、ウルフさん起きた」 


「そういえば、紫織は今日、初ダンジョンなんだよね」


「おめでたいねー」


「それで魔法の使い方を教えようと思ったんだけど……どうやら私、教えるの下手らしくて」


「下手そうだもんねー。それでー?」


「よければ、紫織に魔法の使い方を教えてくれない?」


「私でいいなら、喜んで引き受けるよー」


「えっ、コオリさんに教えてもらえるんですか?」


 紫織が、顔をぱあっと輝かせる。ファンだもんね。嬉しいよね。ちぇっ。


「体の中にある魔力を感じることがー、番重要なんだよねー」


「「魔力?」」


「ツムギも知らないのかーい。魔力っていうのはね………」


 かくして、コオリによる魔法講義が始まった。

途中からウルフがエルフになっていて、エルフの肉を料理するという物騒な話に笑

急いで修正しました(汗)


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