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溺愛する弟が女の子になってしまった

 ダンジョンという異世界チックなものが出現してはや50年、今やダンジョンは日常の一部として溶け込んでいた。

 

 そんなダンジョンは、現代人にとって一種の娯楽コンテンツとなりえた。

 

 ダンジョン内に蠢く魔物、摩訶不思議な原理で動く未知のトラップ、階層ボス、経験値、スキル………。50年前に突如として現れたこれらのシステムは、「なにそれゲームみたい」と受け入れられたのだ。


 その結果、日本人はダンジョンで配信をするという暴挙に出た。挙げ句の果てには、「ダンジョンチューブ」略してダンチューブなる動画配信サイトが設立。すっかりダンジョン配信は当たり前の世の中になったのだった。


◆


 私はなんてことない普通の高校生、山吹香織(やまぶきかおり)。特別可愛い弟を持っていることがたった一つ誇れる自慢だ。


 学校の昼休み、退屈だから本を読んでいたら今日も今日とて空気を読めないバカ男子が私に声をかけてきた。


「ねえ、ちょっと体育館の裏来れない?伝えたいことがあるんだけど………」


 ヒュ〜と周りの女子たちに囃し立てられる。声をかけてきたバカの顔を見てみると、そこそこ整った顔をしていた。はは〜ん、こいつサッカー部のエースみたいなこと言ってたやつか。ちょくちょくアプローチされているから覚えていた。


「不良かよ。行くわけないでしょ。伝えたいことあるなら今言って!」


 そう言い放ったら、サッカーバカはぱちくりと目を瞬かせ、動揺した。

 知ってる。このパターン。もう何回目だよ………。



 

 こいつもウチの弟に気があるのか!!!


 

 毎回私の弟とお近づきになりたくて、私に声をかけてくる男子が後を絶たないのだ。

 まあわかるよ。うん。同情する。ウチの弟はね、もうそりゃめちゃくちゃ可愛いんですよ。だから変な扉がバーン!と開いて、男色に目覚めても仕方がない。友達からならまだ許せるが、ウチの弟は人見知りだからそれも憚られる。それに、この何処の馬の骨かも知らないバカにウチの弟はやらん!


「じゃあ、今…ここで、言うね」


 サッカーバカは腹が決まった、と言う目で私の顔を捉える。

 ちょっと待て………。流石にウチの弟が罪深すぎるせいで、公衆に癖を暴露されても気が引ける。全くこれだからバカは……。


「ごめん、もういい」


「え?」


「言いたいことはもうわかったから」


「じゃあ、返事は?」


「無理に決まってるでしょ」


「そっか」


 サッカーバカは、諦めた目をして去っていった。その後ろ姿を、私はどこか軽薄な目で見てしまう。もっと一途な人間だったら、ちょっとは考え直したっていうのに。


「また振ってるよ」

「ああ、いつもの?」

「なんで振るんだろーねー」


 気が付くと、周りに集まっていた野次馬どもが白けた顔で散っていく。これもいつものことだ。君たちにも可愛い弟ができたらわからせられるよ、この苦労。

 すると散っていく輪から一人、こちらに近づいてくる人影が見えた。


「おーおー、またやってんね〜!」


 陽気そうなショートカットの女の子。彼女は私の友達の紫陽(しはる)だ。


「可愛い弟を持つってのは辛いね〜」


「出た、香織のブラコン」


 紫陽は呆れ顔でそう言う。だって仕方ないもんね〜


「『氷の女王』の実態もこんなんだって知ったら、みんなはどんな反応するのかね」


「?なんか言った?」


「いやなんでもなーい」


「私もう帰るけど、紫陽は部活だっけ」


「そうだよー。またダンジョン行くの?」


「もちろん」


「本当に気をつけてよねー。あ、配信すんの?」


「うーん、つけると思う」


「オッケー!部活終わったらしっかり見とくよー」


「いや、別に見なくても良いんだけど………というか見ないで、恥ずいから!」


 配信というのは、もちろんダンジョン配信のことである。私はそこそこ良いスキルをもらって活躍していたためか、とある事務所に所属している立派な配信者なのだ。


「じゃあ尚更みる!また明日〜」

「うん、またね〜」


 そう言い残し、彼女はカバンを持って教室から出て行った。おそらく行き先は女子テニス部の部室だろう。さて、紫陽も行っちゃったことだし私も帰りますか。


 


 そしてアパートに帰って、爆速で用意を終わらせた私はすぐに近所のダンジョンへ。


 入り口には政府が設置したゲートがあり、警備員がちらほらと見える。一見物々しいこの状況だが、私たちはもう慣れてしまっていた。ダンジョンの入り口にマンションが立つくらいに。

 入口へ近づくと、ダンジョン庁の人に話しかけられる。


「ここから先は身分証と探索者証明書及び………」


「わかってるよ、これでしょ?」


 私はここにほぼ毎日通ってるから、このダンジョンの出入りを管理している彼とは顔見知りだ。だが、もちろん彼も仕事なので、こうして私にもしっかり身分の提示を求めてくる。仕事熱心なことだ。


「はい、確認が取れました。どうぞお気を付けて」


「ご苦労様です」


 彼はぺこりと頭を下げ、再び定位置に戻っていった。


 私は配信の準備を始めながら、ダンジョンへ潜っていく。私が歩くたびにコツコツ、と靴の音が反響する。平日の17時、まだ人はいないゴールデンタイムだ。


 準備を終わらせ、適当な石に腰掛ける。ある程度歩を進めたが、まだ魔物の気配はない。ここのダンジョンは上層はすごく簡単で初心者向けと言われているほどで、魔物の数も少ない。

 虫を模ったドローンの電源をつけ、私の真正面に飛ばせる。帽子を目深く被り、私は携帯を操作して配信を始めた。


【お、配信だ!】

【配信助かる!】

【今日も新緑のダンジョンっぽい?】


 ダンチューブで配信が始まるや否や、私のリスナーさんがどんどん集まってくる。面倒だからスイッターで告知はしていなかったのに、同接は300人とこの時間帯に反してだいぶ集まってくれている。感謝しかないね。


「みなさんこんにちは〜!花咲ツムギで〜す!今日も新緑のダンジョンで経験値稼ぎアーンド階層攻略していきま〜す!!」


【こんちゃ〜】

【作業用に聞かせてもらってます】

【今どこまで行ってるんだっけ】


「今は32層まで行ってるよ〜。今日はさらに進みたいね。まあ、まずは30層あたりで経験値稼ぎかな」


 このダンジョン………「新緑のダンジョン」はまだまだ最下層が見えない、深いダンジョンだ。現時点で発見されている層は39層までで、そこからさらに奥もあるそうだ。


 基本的に、30層を超えるダンジョンはなかなか存在しない。日本国内でも、数えるほどにしかないのだ。なので、そのようなダンジョンには特別な名前がつけられる。例えば、ここは1~10層の森林地帯が美しいため、「新緑のダンジョン」だ。ちなみに、11層からは森なんてない。ただの苔の生えた岩窟みたいな感じになる。


【本当に攻略スピードが早すぎるw】

【無理すんなよ】


「あんがとね〜!じゃあさっさと転移石で……とりあえず25層でウォーミングアップね!」


【※25層はウォーミングアップできる場所ではありません】

【初見です!いつもこんな感じなんですか…?】

【これが通常運転やで】


 転移石とは、一度訪れたことがある階層に自動で転移できる便利なアイテムだ。この石はとあるモンスターから出現するいわゆる「ドロップ品」だ。ちなみに、使い切りじゃないからとても高価。


 転移石に触れ、移動したい場所を思い浮かべる。するとあっという間に25層へ。場所はちょうど25層の入り口だ。


「お、早速ロックゴーレムがいるね〜」


 ロックゴーレムとは名前の通り岩のゴーレムで、体長は私より2mくらい。私より頭二つ分くらいの大きさだ。

 こいつは名前から察せられる通り、非常にHPが多く硬い。そのため経験値も美味しい。


「じゃやりますか〜」


 アイテムボックスから私特製の大剣を両手で取り出す。


【でたw】

【デカすぎ】

【え、あれ使いこなせんの?】


「使いこなせなかったら使ってないよっと、おりゃ!」


 大剣を一振り。スキル「腕力強化S」と「敏捷S」のおかげで、大剣のくせに早い一振りだ。動きが鈍いロックゴーレムはついて行けずそのまま両断。


【はや】

【大剣メインなの珍しい】

【あんまりカッコよくないしな。それに女子には重すぎて使えないことが多いし】

【初見です!ソロなのに大剣って隙が多いような気がするんですけど大丈夫なんですか?】


「えー!?大剣かっこいいだろ〜!まあ、大剣がメインで遠距離は魔法って感じだね〜」


【魔法も使えるのか!ならソロで大剣なのも納得………か?】

【いや納得できないだろwww】

【しかもこの子早く触れるように腕力に全振りしてます】

【????】

【女子にあるまじき脳筋だ】

【嘘だろ】


「誰が脳筋だって?」


【おい、誰だよ言ったの】

【ひえっ】


 リスナーさんとお喋りしながらストーンゴーレムを狩り続けてどのくらい経っただろうか、そこそこの経験値を乱獲することができていた。今日も順調…………と思っていたその時。ポケットに入れていたスマホが震える。


「あ、ごめん!電話でます」


 そうリスナーさんにことわりを入れて、虫型のドローンを操作し音声を切る。


 携帯を見ると、「山吹紫織」と書かれてあり、ドキッとした。

 そう。「紫織」は私の可愛い可愛い、世界一愛する弟の名前。一瞬にやけてしまうが、紫織から電話をかけてくることなんて滅多にないから何かあったのでは………と少し不安になる。


「紫織?どうしたの?」


「お、お姉ちゃん………」


 スマホから聞こえる紫織の声は震えていて、憔悴しているようだった。

 その声を聞いた刹那、冷や汗が噴き出る。


「大丈夫!?何かあったの!?」


 思わず声が大きくなってしまうが、嫌な予感が抑えられない。

 唐突な展開に、脳みそがまだ追いついていないのかもしれない。


「お姉ちゃん………今ダンジョン…だよね…?すぐ帰って来れる?お願い………」


「わ、わかった!すぐ帰るから……家だよね?」


「うん……」


「急いで帰る!!そのまま家にいて!!」


 家にいると聞き、少し安堵する。居場所がわからないよりはマシだ。なにがあったかわからないが、とにかく急いで向かわなくちゃ………!

 電話を切り、急いで配信を閉じる。悠長にリスナーさんに「配信終わりま〜す」なんて言っている場合ではない!


 転移石で1層の入り口まで戻る。スキル「敏捷S」を使い、全速力で家へ向かう。

 入り口にいる人々からなんだなんだと視線を受ける。私は気にせずダンジョンを出、市街地を駆け抜けた。


 


 息も切れ切れになり、喉から血の味がする。そんな状態でやっと私たちの住むアパートに着いた。震える手で、勢いよくドアを開ける。


「紫織!!!!!!」


 そこには___廊下にしゃがみ込む少女の姿があった。…………え、誰?


「あ…………お姉ちゃん……!」


 少女は私を見るや目を見開いて、私の方へとてとて、と駆け寄ってきた。


「おねええちゃぁん!!!!」

「ふぎゃっ!?」


 少女はそのまま私の胸へダイブ。私は後ろにのけぞりながら少女を受け止める。あったかい……。

 ………ってちょっと待って。今この子、私のことお姉ちゃんって……………いやまさかね。まさかこの可憐な少女が紫織なわけ……


「女の子になっちゃった………!!」


 うん、紫織でした。

 紫織は私に抱きつきながら上目遣いでそう言った。あまりの破壊力に___はたまた、全力で走ってきたからか__私は血を吐いた。


「ぐふ………」

「お姉ちゃん!!???」


 この命、守らなくては………………。

面白かったら星5、面白くなかったら星1、正直な評価をお願いします!今後の糧にしていきたいです!

よければリアクション、コメントしてもらえるととても嬉しいです!

当作品をよろしくお願いします!

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