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バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
二章

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第三十二話:炭火と、街の匂い

朝から、北側広場が賑やかだった。

バッハが台を組んでいた。エルミが布を張っていた。マレクが炭を並べていた。ルードが木の皿を積んでいた。

アンばあさんが全体を見渡した。

「いいねえ」


「始めましょう」



火を起こした。

炭を並べた。串焼き台を置いた。鉄板を置いた。

しばらくして、匂いが広がった。

最初に来たのはトールだった。

「ケンジさん!! 開いてますね!!」


「開いています」


「何がありますか」


「森鳥の串焼き、キノコと野菜の串、鉄板焼きです」


「全部ください!!」


「一つずつどうぞ」


トールが串を受け取った。一口食べた。

「……うまい!!」


「ありがとうございます」


「炭火だからですか」


「そうです」


トールがもう一口食べた。

「なんか違いますね、普通の串焼きと」


「火が安定しているので肉の旨味が引き出されます」


「難しいことはわかりませんが、うまいです!!」



人が集まってきた。

冒険者が来た。街の住人が来た。子供が二人、鉄板焼きを覗き込んでいた。

「これ、なんですか」


「粉を焼いたものです。肉が入っています」


「食べられますか」


「どうぞ」


子供が一口食べた。目が丸くなった。

「おいしい!!」


マレクが「まあそうだろう」と言いながら次を焼いていた。

野営地の客も何人か来た。革鎧の旅人が串を受け取りながら言った。

「昨夜は焚き火台で温まれてよかった。今日もここで食えるとは思わなかった」


「またいつでも来てください」


「ベルタ、いい街だな」

旅人が串をかじりながら広場を見回した。


ゴルドが来た。串を一本受け取って、一口食べた。

「……うまいな」


「ゴルドさん、珍しく来ましたね」


「ゲオルクに引っ張られた」


後ろにゲオルクがいた。

「俺が食いに来ると言った」


「そうでしたね」


ゲオルクが串を受け取った。一口食べた。

黙っていた。

「……鉄板の甲斐があったな」


「ありがとうございます」


ゲオルクが「まあ、そういうことだ」と言って串をもう一本取った。



昼を過ぎた頃、広場にお土産の屋台が並んでいた。

魔石を並べた屋台があった。大小様々な石が並んでいる。装飾品として売っているらしかった。

ジンが屋台の前で止まった。

「……おかしい」


「どうしましたか」


「この石、音が変だ」

ジンが並んでいる魔石の中から、二つを指差した。


「この二つ、同じ音がしている」


屋台の店主が「そうですか、きれいだから並べておいただけですよ」と言った。

手に取った。二つの石を交互に見た。

同じ音。何かがある気がした。でも今はまだわからない。

帳面を取り出した。メモを取った。


「これ、いくらですか」


「二つで銅貨十枚ですよ」


「いただきます」


ジンが「……何のために買ったんだ」と聞いた。


「まだわかりません。でも気になるので」


ジンが「……そうか」と言った。



夕方、火が少し落ち着いた頃、マレクが小さな瓶を持ってきた。

「できたぞ!」


「タレですか」


「ああ。試してみろ」


串に塗った。一口食べた。

少し止まった。

「……いいですね」


「だろう」

マレクが自分でも一口食べた。

「野菜と果実を発酵させた。甘みと酸味が混ざってる。串にも鉄板焼きにも合う」


「開店に間に合いましたね」


「当たり前だ」

マレクが瓶を閉めた。


「来週からタレか塩か選べるようにする」


「楽しみにしています」


ブロンが「遅かったか!!」と走ってきた。マレクが「まだある」と言った。ブロンが「よかった!!」と言った。



人が帰り始めた頃、アンばあさんが隣に来た。

「ケンジさん、今日はどうだった」


「よかったと思います」


「みんな喜んでたよ。野営の人たちも来てたねえ」


「炭火があると温まれますから」


しばらく黙っていた。


「寒いねえ」


「そうですね」


「こんな日はゆっくり温まりたいよ」


少し止まった。


「お風呂に入りたいですね」


アンばあさんが振り返った。

「そんな貴族じゃあるまいし!」


「湯船のことです」


「湯船?」


「お湯に浸かる風呂です。故郷にありました」


「そんなのがあるのかい!!」


「はい。男湯と女湯に分かれて、みんなで入ったりしていました」


「な、なんてことを!!??」


「普通でした」


「普通!!??」

アンばあさんがしばらく絶句していた。


「庶民も入るのかい」


「みんな入っていました」


「……貴族だけじゃないのかい」


「公衆浴場に来た人が手桶でお湯を浴びるのとは違います。大きな湯船にお湯を張って、そこに浸かります」


アンばあさんが少し考えた。

「……それ、炭があればできるのかい」


「大量のお湯を安定して沸かせれば、できると思います」


アンばあさんがしばらく黙っていた。

「そういえば公衆浴場やってるミゲルさん、もう結構な年でねえ、この前腰をやったって言ってたよ」


炭火を見たまま黙った


「……ケンジさん」


「はい」


「また変なことを考えてるね」


「そうかもしれません」


アンばあさんがにこっと笑った。

炭火が静かに消えていった。


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