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バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
二章

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第三十一話:炭が、街に来た日

朝、食堂が静かだった。

アンばあさんが隣に座った。お茶を二つ置いた。

「ケンジさん、ガドさんから仲間を失った話、聞いたかい」


「少しだけ」


「詳しくは聞いてないんだね」


「はい」


アンばあさんがしばらく黙っていた。


「昔ね、大切な仲間がいたんだよ。イレーナさんも、レモさんも、ガドさんも、私も。みんな同じ場所にいた」


「……そうですか」


「その仲間を失ってね。それがそれぞれに未だに残ってるんだよ」


少し間があった。


「ケンジさんはね、その仲間に似てるの」


少し間があった。

「だからかな」

アンばあさんが笑った。

「みんな、あんたを放っとけないんだよ」


それ以上は言わなかった。



ギルドに向かうと、扉の前が少し騒がしかった。

荷車が止まっていた。


どすん、という音がした。


ブロンが地面に大の字になっていた。


ポウがにこにこしていた。

「またやった!アハハ」


トールが「ブロンさん!?」と言った。ゴルドが「……また懲りずに」と言った。


ルウが腕を組んで立っていた。

リアがルウの前に立っていた。

「……前より重心が下がっている」


「少し掴めてきた気がします」


「気がするだけだ。もう一度」

リアが頷いた。


ティエが荷車の傍らに立っていた。ジンが走り寄った。

「来たのか」


「炭、持ってきた。今回が最後だ」


ジンが少し止まった。

「……最後?」


「次からはあの二人に任せる」

ティエが腹に手を当てた。

「しばらく森を離れにくくなる」


ジンが「……そうか」と言った。


「字の方はどうだ」


「まだだ」


ティエが頷いた。それだけだった。


その時、ガドが扉から出てきた。


ポウがガドを見た。

「あのひとつよそー」


ガドがポウを無視した。

「ケンジ、客か」


「炭を届けに来てくれました」


ガドが頷いて、中に入っていった。

ポウが「無視された!」と笑った。

ブロンがまだ地面に倒れたまま「俺もつよいぞ!!」と言った。

ゴルドが「お前は今倒れてるだろ」と言った。



ティエが帰り際に言った。

「もう一度持ってくる。二人で来る」


「わかりました。待っています」


荷車が動き出した。ルウとポウがその後ろをついていった。

ポウが振り返った。


「またくるー!」



ゲオルクの鍛冶場に向かった。

扉を開けると、作業台の上に台が二つ置いてあった。

串焼き台だった。鉄の棒を格子状に並べた形だ。それから鎖を編んで作った網が一枚あった。鉄板も一枚あった。


ゲオルクが腕を組んで立っていた。

「できたぞ」


「ありがとうございます」


「鉄板は苦労した」

ゲオルクが鉄板を手に取った。

「盾と同じ技術で作ったが、平らにするのが難しかった。多少凸凹があるが使えると思う」


「十分です」


「鎖の方は食材には向かなかった」


ゲオルクが鎖の網を手に取った。

「焚き火台に使ってくれ」


「ちょうどいいです」


ゲオルクが少し目を細めた。

「まだ試したいことがある。焚き火台はもう少し待ってくれ」


「わかりました」


ゲオルクが「まあ、うまくやれ」と言って金属に向き直った。



マレクの店に向かった。

扉を開けると、マレクが石板を抱えていた。

「遅かったから石板を準備してた」


「鉄板ができました」


マレクが石板を下ろした。

「必要なかったな」


「なめんじゃねえ」

マレクが振り返った。


ゲオルクが立っていた。

いつの間にかついてきていた。

「まさか武具より難しいとは思わなかったぞ」


マレクが「そうか」と言った。少し口元が緩んでいた。

「まあ座れ」


炭を火にかけた。串焼き台と鉄板を置いた。

森鳥の串を並べた。キノコと野菜の串も並べた。鉄板に粉を溶いたものを流した。肉を乗せた。


しばらくして、煙が上がった。

少なかった。火が安定している。揺れが少ない。

肉が焼けてきた。


一口食べた。


マレクが黙った。しばらく何も言わなかった。

「……まじか」


「どうですか」


「火が違う。肉の味が違う」


ゲオルクが腕を組んで一口食べた。

「……うまいな」


鉄板焼きも試した。粉に肉を挟んで焼いたものだった。

マレクが一口食べた。

「……これはタレが欲しいな」


「開店までに仕上げます」


マレクが「任せろ」と言った。目が変わっていた。

ゲオルクが「俺も食いに行く」と言った。


「もちろんです」



試食が一段落した頃、扉が開いた。

ルウとポウだった。

「届けに来た」


荷車に炭が積まれていた。

「ちょうどよかった。試食していってください」


ルウが少し止まった。

「……問題ないか」


「どうぞ」


ポウがすでに串に手を伸ばしていた。

「あつい!アハハ」


ルウが「焦るな」と言いながら一本取った。一口食べた。

黙っていた。

「……問題なし」

少し止まった。

ルウがもう一口食べた。


思わず身構えた。

何も起きなかった。


「……どうかしたか」


「いえ」


ポウが「おいしいー!」と笑った。


お土産の包みを用意した。


「ティエさんとソルさんに持っていってください」


ルウが受け取った。


少し間があった。

「……一つ聞いていいか」


「どうぞ」


「字を習いたい」

ポウが「わたしも!」と笑った。


「ティエさんとソルさんに相談してから来てください」


「了解」


「ジンも字を習っています。競走になりますね」


ルウが少し目を細めた。

「……負けない」


ポウが「わたしもー!アハハ」と言った。



二人が帰った後、マレクが串を一本手に取った。

「屋台、来週出せるか」


「出せます」


「タレは開店までに仕上げる」


マレクが炭を見た。

「ヴェタ家の炭、もっと仕入れたいな」


「話してみます」


外が明るかった。

屋台まで、あと少しだった。


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