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URIEL【4つの神話と月人の双子】 ~ある日、大切な親友と離れ離れになった少年が身を投じたのはカラフルな電子海か、支配者を決める戦いか、永い過去の清算か……あるいはその全てか~  作者: リプラ
死月編「行かないで」

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第77話「まるで赤子のよう」

 耳障りな電子音が飛び交う。


「散開シロォ!一網打尽ニサレル!!」

「ア?……オ前ハ!最後ニ完成シタ俺カ?」

「ソウダ!俺ハソイツノ1ツ前ニ完成シタ俺ダ!!ソイツノ意見ハ尊重スベキダゾ!今ノアスク・スーリエルハナ、滅王ヲ一撃デ屠レルクライ強イ!」


 2E、そのマスプロモデル(量産型)には従来のものと比べて多くのレーザー発射口と、更に効率性を突き詰めたジェネレーターが搭載されている。

 それら1体ずつの費用は大型商業クルーズ船1隻に匹敵するが、世界の物資を滅龍教や新世界への信仰心によって独占しつつあったニューオーダーにとってコストなどいくらでも無視できるものであった。


「散開シタ所デ1体ズツ壊サレテ終ワリジャネ?」

「タダ逃ゲマワレトハ言ッテネェ……囲ンデ最大火力ブッ放スゾ!!」

「「「「ラジャ!!!!」」」」


 これまでに製造された2Eの総数は2330体にのぼる。

 今、柱の上に立つアスク・スーリエルの前で、残った2Eの全てが四肢と胴体を分離させた。

 両腕、両足、頭部、胴体、それぞれが2326個の殺意として縦横無尽に動く。


 あわせて13956個の殺意は1人の天使を包囲し、次々に蒼い閃光を放った。


 マリーゴールドによって作り上げられた最高の戦闘用人工知能が、同じく彼女によって設計された殺戮用のボディから、あまりにも致命的なレーザーを放つ。

 だがしかし正確に柱の頂上へ撃ち込まれたそれよりも速く、予測不能な軌道を描きながら死の天使(スリエル)は空を駆ける。


天使ノ輪(アウレオラ)ヲ応用シテ空ヲ走ッテヤガ――」

「包囲シテ撃ッタレーザー(光速)ヲ何故避ケラレルンダヨ――」


 アスクが天使ノ輪(アウレオラ)で作り上げた架空の足場の上で鎌と自身を振り回し、その瞬間に122体の2Eが頭部を半分に斬られ、機能を停止。

 2Eは人工知能として作り出されたその瞬間より、目標排除のために膨大な量の情報を学習してきた。

 だがアスクもまた、その身と守りたい物を守るため、様々な状況へ飛び込み学んできた。


 頭部さえ壊してしまえば他の四肢や胴体も動かなくなると以前の戦闘時の記憶よりアスクは予想しており、それは当たっていたのだ。


 落下していくパーツに囲まれながら彼の鎌は再び煌めく。


「クソ!トニカク頭ヲ遠ザケロ!!ナルベク他ノ部位デ攻――」


 死月鉱の煌めきは変形時に発生するものであり、先程122体の2Eを撃墜した際に鎌は煌めいていなかった。

 2Eが煌めきを認識した時には既に、ソレらを死月鉱の刃が包囲していた。


「木ノ葉ミテェナ……極薄ノ刃!?イツノマニ飛ンデ――」

「豪雨ヨリモ高密度ダロコレ!?コノ中デ頭逃ガスノハ無理ダゼ!!」

「足ニ死月鉱ツイテンダロ!!ソレデ弾ケ――」


 刃は風に揺られ落ちているだけではない。

 微かにその一部を爆発させ、確実に2Eの頭部を破壊するための軌道をとっている。


「フ、触レテナイノニ死月鉱ヲ操ッテヤガル!!ソウカコイツ今ハ天使ダッタ――」

「防ギキレネェ!足2ツダケジャ防ギキレネェヨ!クソ――」


 頭部へ近づくか刺さった直後に爆裂する刃が、確実に2Eを破壊し続けていた。

 一切の無駄なき破壊行動によって半数の2Eが堕ちたのとほぼ同時、アスクに向かって手足と共に数体の2Eが閃光を浴びせにかかった。


「喰ライツクゼ!!」

「俺ラノ相手シナガラ刃動カセンノカ?天使様ヨ!」


 アスクは自身を貫きにかかる片足を弾き、その間に作り上げた死月鉱の欠片を視界に映った2Eへ投げつけた。

 命中寸前、割り込むために待機していた片腕が頭部を庇い、砕け堕ちていく。


「ダメージコントロールダゼ!」


 機械音声をクリッピングさせ自身の耳を刺激してくる頭部と睨みあっていたアスクの背後で、2つの蒼い光は収束し放たれる。


「「【滅光ノ導ク道(収束スルチェレンコフ)】!!」」


 首を傾げるだけでソレを回避した彼の手の内で死月鉱の欠片は再び握りしめられ、2Eはもう一方の腕を待機させた。


「(マタ投ゲテクンノカ?確カニ防ゲル回数ニハ限リガアル……ソレデモコイツノ意識ヲ反ラセルナラ、ソレデイイゼ。俺達ノ反撃ノ礎ニナッテヤル!!)」


 2Eの予測通り、アスクは頭部に向かって死月鉱を投げた。

 そして待機していた腕もまた、しっかりと2Eと死月鉱の直線状へ割り込んだ。


 だがしかし腕を貫通し、死月鉱の欠片は頭部に刺さって爆発する。


 その爆風を背に感じながら、アスクは軽く前へ飛び出した。

 靴裏で弾けた死月鉱が彼の飛行を可能にし、再び弾ける事によって文字通り爆発的な威力のキックを生み出す。

 アスクが2E達へ欠片を投げ、蹴り飛ばし、指輪で殴り砕き、破壊を続ける中でも周囲で刃は舞い続けていた。

 その光景を観測した2E全体の思考回路が弾き出した、この先に待ち受ける1つの結果。


「「「「(勝テナイ……!?)」」」」


 撤退を図った53機の2Eは集結した刃の嵐によって切り刻まれ、突撃した26機の2Eはアスクの体術と鎌捌きによって撃墜されていく。

 勝利はおろか敗走すら叶い難い状況を、2Eのカメラはただ観測し続けていた。


 紫に輝く爆発と共に鎌を振り回し、淡々と破壊を繰り返していたアスクの動きが止まる。


 未だ暴れ続ける津波に全てのパーツと残骸は落ち、流れていく。

 彼へ向き続けていた死の気配は凪いで、アスクは大きく息を吐き出した。


「……終わったかな。」


 2325体の2Eはその頭部をアスク・スーリエルただ1人に撃破され、津波の中で瓦礫と混ざっていく。



 そして残った1つの頭部もまた、津波の中を舞い、自身の内部でデータを錯綜させていた。



「いや……頭1個だけ壊した記憶がない……逃げに徹したのかな。」


 柱の頂上へ舞い上がり、地平線の向こうまで津波が覆っている景色を見つめていたアスクへ、突如として1つの鋭く巨大な殺意が刺さる。


 2Eはこの瞬間、生まれ落ちてから初めて(マリーゴールド)の書いたプログラムの完全性を否定した。

 そしてそのほぼ全てを自身で書き直し、更なる進化を自身だけの力で遂げたのだ。


「戦イニ勝チ目ガ無カロート……逃ゲタトシテ帰ル所ガ無カロート……!!」


 自身と共に流れていた全ての手足や胴体と接続し、2Eはその全てを合体させ始める。

 流れる情報の量を減らし回路が焼き切れるのを防ぐため、ソレは1つの巨大な体にまとまっていく。


「ソレガドウシタ!!俺ハ『Ever(進化) Evolving(シ続ケルン)』ダ!!!!」


 奇しくも巨大な月人のような形にまとまったソレの中心で、2Eは最後の頭を使って叫ぶ。

 様々な経験や情報を基に計算した結果、彼は叫ぶべきだと判断したのだ。

 どうにもなりそうにない状況の中でも、ソレはまるで赤子のように戦おうとする。

 (マリーゴールド)以外を、(戦場)以外を知らぬソレは戦いにしがみつき続けるのだ。


「【蒼眼(ソウガン)(ロー)……Null(ヌル)Pawn(ポーン)王牙(オウガ)】ッ!!!!」


 2000を超えるパーツが蒼く光り輝き、柱の上へ立つアスクに向かって集中砲火を浴びせようとしている。

 その1つ1つのパーツがリミッターを完全に解除しており、死月鉱の粒を混ぜた滅光のレーザーを放つと同時に崩壊してもおかしくない状況であった。

 ソレを目にしたアスクは腰を低くし、靴裏と鎌の付け根を煌めかせる。

 同時にその光景を観測した2Eは白蛇街での記録を参照し、レーザーの収束を早めた。


「ヤロウトシテンノハ……孤独見下ろす(ハウルアンダー)満月(フルムーン)ダナ……?(ナゼ近距離デシカ使エナイハズノそれヲ……?)」


「……。」


 蒼いレーザーは幾千も放たれ、柱とその上へ居るアスクに向かった。

 四肢や胴体のパーツが次々に自壊し、その信号の消失を感知しながら、2Eはそのレーザーの行く先を見つめ続けていた。

 この攻撃の結果をただ、今までの何よりも望んだ。

 レーザーがアスクの眼前へ辿りついた時、彼の視界の外で死月鉱は光り輝き、弾ける。



「【孤独見下ろす(ハウルアンダー)満月(フルムーン)】……!」



 2Eの予測通りに繰り出されたソレは、幾千のレーザーと衝突する。

 そして、その全てを纏めて切り裂いた。

 斬撃は死月鉱と天使の輪(アウレオラ)によって遥か遠くまで飛び、光景を観測していた2Eの頭部へ迫る。

 近づく斬撃が放つ紫の光はあまりにも眩しく、2Eのカメラには何よりも白く映った。


「ナンデ……俺ヨリ……オ前ノ方ガ早ク進化スルンダ……置イテ……イクンダ――」


 津波の上に少しの間だけ現れていた巨大なメカ月人は、その身の半分を縦に割られ、倒れていく。

 粉々に砕け、分離していった多くの残骸は、その真下からは豪雨のように見えた。


 振り切っていた鎌を指輪の中へ折り畳み、アスク・スーリエルはためらいなく靴裏を弾けさせた。

 その目に明確な目的地など映っておらず、きっとまた何かと対峙するまで、最後には僕と対峙するまで進み続けるつもりなのだろう。

 ……おや?



 ――­­­――­­­――­­­――



 アスク・スーリエルが居る世界ではないどこか。

 そこで僕を睨む2人の女が居た。


「テメェが……まさか?」

「……メアーだな。」


 ……B.1オーダー、B.2リプロダクション。

 コスモス大陸へ現れた時、あまりにも邪魔だったので異空間に閉じ込めていたのだが……。


『まさか壊して脱出してくるとはね〜、空間を作った作り手への敬意とか無いのかい?』


「ねぇよ……おい、1つ確認させろ。」


 リプロダクションが赤い瞳をぎらつかせ続けている。

 怒りと動揺に満ちている。


「お前なんでメイド服着てんだ?趣味か?……それとも……お前の上­­­――」


『教えるつもり無ぇよ、君達にはね。』


「……次は私から、こんな芸当ができるなら何故今までやらなかった?」


 オーダーは凛とした様子で僕を睨み続けている。

 それでも、リプロダクションと同じくその赤い瞳には憤りが溜まっている。


『えぇそれ聞く?……だって、コレ使っちゃったら面白くないでしょ?でもね、あの時だけは使ってもいいかなって、使った方が面白くなるって分かってたからサ。』


 城の中とも、草原の中央とも、コスモス大陸とも、暗闇の中とも分からぬ乱れた空間の狭間で僕は小躍りする。


『……理解できたかにゃっ?☆』


 僕の心情を表したようなここで、あざとく首を傾げた僕が同時に獣の耳を揺らした瞬間。

 彼女らの殺意が最大化された瞬間。


 死月の中央へ放り出した。


「「!?」」


『見えてる~?いや見えてるだろうけど、そこ地球の成れの果てだから……ね?面白くなってるでしょ?君達がいなくなった”おかげ”で!!』


 背中を合わせ、歯を食い縛る2者の姿を見て、僕も思わず歯を噛み砕く。

 久しぶりに世界へ体を突っ込むのを辞め、滑らかに作ってもらった自分の頬を両手の指でつまんで引っ張ってしまった。

 ……何も面白くない。

 ただただ待ち遠しいんだよ。


 君に、早く来てほしい。

 会いに行きたい。


 残念ながら待つしかないので、その時が来るまで、このクソ気持ち悪い地獄を見届けて時間を潰すんだ。


 また、体を突っ込むんだ。


 残り香を、とにかくたくさん、深く吸い込もう……。

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