第57話「法外認定対象」
「港やシティなんかは未来的な見た目でしたけど……本部はなんだか違いますね。」
「この本部タワーだけは200年前のブライツ設立からずっと残っていますからね。改修や修繕も必要に応じてある程度行っていますが、それも面影をなるべく消してしまわない程度にされているんです。」
ブライツ本部の中央にある巨大なタワーの中、どこか古臭さを感じる装飾や壁、絵画を見つめながら一行は進んでいく。
1人の人間を大きく描いている絵画の1つ1つの下にはネームプレートが置かれており、歴代のB.13からB.1達の名が刻まれていた。
金髪碧眼の男が腰に剣を差し、頭上に輝く光へ手を伸ばしている絵画の前で木槿は足を止める。
「先代のB.1か。」
「オーダーさんの師匠、ダンデライオンさんですね……そういえば、彼とあなたは何回か遭遇した事があるんですよね。ブライツシティでRAGEと死神とBRIGHTsが三つ巴になった時や、確か……ルルイエでも――」
「ねぇ!!みんな今すぐ来て!!!!」
アスクが絵画の前で絶叫する。
コリウスが最初に彼の元へ駆け寄ってから、絵画を見つめて目を見開いた。
「……まさかこの方が……そうだと!?!?」
頭を縦に振り続けながら、アスクが絵画を指差す。
深緑色の髪をなびかせながら、剣に埋め込まれた翠の宝石を見つめている女の絵の下には『初代B.1 エルピーダ』と書かれたネームプレートが置かれていた。
「?……初代B.1をご存知なんですか?」
「ご存知も何も……こんな所にもいたのか!!」
「見てください!初代B.2とB.3も、髪と目が深緑色ですよ!?まさかこの方達は……!!!!」
「分析完了。初代B.1、B.2、B.3も月人である可能性が高いようだな。特に初代B.1は、アスクと面識があるようだ。」
数秒の硬直の後、B.13がB.7の肩部装甲を強く掴んだ。
「えっ!?てことは、まさか初代B.1達って今も生きて――」
「……分析完了。7秒後に警報が鳴る、指令室まで急げ。」
「警報?」
絵画の前で騒いでいた一行がB.7の言葉を聞いて静まり返る。
「……了解!」
溜め息をついてからB.13が走り始めた直後、絵画や人々を照らす照明が赤く染まって、それからすぐに耳をつん裂くような音量で警報が本部全体へ鳴り響いた。
「(ほんとに7秒くらいできた……。)」
「本部で警報が鳴るって事は、大事件でも起きたのか。」
「そうです!B.13以上の力が必要な事案が起きない限り、本部で警報が鳴る事なんてないですから!!」
巨大なエレベーターへ乗り込んだ後、B.13の押したボタンが青白く光る。
高速で動くエレベーターが数秒のうちに数十メートル上がった後、スムーズに停止した。
「……?」
首を傾げたアスクの前でエレベーターが開き、その目の前に広がった景色を見た彼が転びそうな勢いで首を大きく傾ける。
「あれ!?出た場所が違う!?!?」
「(そっか、アスクさんエレベーター乗るの初めてだったっけ……白蛇街の旅館でも階段ばっかり使ってたな。)」
多数の大小様々なモニターが壁を埋め尽くしながら赤く光っている。
その下で機械を操作し続けている人々の間に、B.13とB.7が駆け寄っていった。
「B.7、B.13が来たぞ。何が起きた!?」
「西彩のパピリオン市中央にて大規模な爆発が複数発生!死傷者多数、現地に居合わせた隊員によると『ピューパッド』と彼女が率いる手下達が破壊活動を開始したと。」
「『不可視の怪盗ピューパッド』が?盗んでばかりだった奴が……目的は何だ?」
「パピリオン市の映像、出ます!」
モニターの先で、ビルや家屋が次々に崩壊する。
崩れたソレらから発生する爆発や炎の勢いは、既に赤い照明に照らされているこの空間を更に赤く染めてしまいそうなほどに激しい。
「(……この閉じて開いたら場所変わってるヤツも、あのでっかいティレヴィのコトも、今は聞いてる場合じゃなさそうだ。)」
「どうも、ようこそ指令室へ……貴方がアスク・スーリエルさんですね。」
奇妙な気配を感じたアスクの横で、黄緑髪の男が身をかがめて彼を見ていた。
「そうだよ!そういう貴方は……。」
「ライムです。一応、ブライツのトップ……そしてL.E.R.Iのトップでもあります。せっかく来ていただいたというのに、慌ただしくて申し訳ありません。」
「ライムさん、お久しぶりです!林藤一葉です……あの、西彩で何が?」
黄緑髪の男『ライム』がモニターを見つめながら腰に手をあてる。
「不可視の怪盗ピューパッドが、手下を率いてパピリオン市内で暴れ始めた。美術館に侵入したわけでもなく、何かを盗み出すわけでもなく……何故かただひたすらに人の命を奪い始めている。」
「……おい!!アレ!!!!」
コリウスが指差した先、モニターに映るビルの残骸の上で、長い尻尾が黒煙を振り払う。
「ピューパッド……なのか……?」
「ち、違う……目の色が違うぞ!?」
建物の崩れる音に紛れて、隊員の声が聞こえてきていた。
「ぎゃっ……!?!?」
尻尾を揺らめかせていた影の背後から、銀色の触手が飛び出て隊員の1人を貫く。
「エリック!!……本部!本部に要請!!今すぐピューパッドの『法外認定』を……!あがっ――」
モニターと通信機、両方から聞こえる声は酷く震えていた。
その裏から聞こえる獣の唸り声のような音と、揺らめく金属音にアスクが目を見開く。
「アイツ……まさか。」
「ブライツシティにいたアイツと同じ状態のようだな、月鉱まで扱えるとは。」
木槿が腕を組んで何かを考えながら、彼の背後へ回り込む。
「……?」
「行かなきゃならない場所があるんだ、後は任せたぞ。」
エレベーターに乗り込む木槿に、アスク以外は誰も気づいていないようだった。
閉じたエレベーターを見つめながら首を傾げるアスクの背後で、オペレーターの1人が叫ぶ。
「龍の地支部から出動したB.12が現着、ピューパッドと交戦を開始した模様……法外認定の要請、B.12からのもの含めて3件に達しました!」
「……ねぇ、法外認定って何?」
アスクに尋ねられながらも、ライムがオペレーターから受け取った通信機を握りしめる。
「ふむ、まずはコチラを……今より『不可視の怪盗ピューパッド』と彼女が率いる怪盗団に所属している者達全員を『法外認定対象』とする!!各員、これ以上の被害の拡大を許してはならない!今この場で、確実に対象を無力化せよ!!!!」
「ピューパッドおよび怪盗団の法外認定化、完了!データ共有されます!!」
「……!B.12苦戦!?応援要請しています!!!!」
「空軍アイギス中隊から、ピューパッドのみ通常兵器を受けつけていないという報告が……!」
爆炎や瓦礫に埋もれていくパピリオン市をモニター越しに見つめながら、ライムがアスクの頭に手を乗せる。
「『法外認定対象』……それは『何としてでも止めなければならないと認定された存在』です。生死は問わず、傷の有無も勿論のこと……どんな手を使ってでも、どんな結末になっても、被害の拡大を止められたならそれで良し。法の保護から外された存在、それが法外認定対象です……そして――」
「?」
ライムが通信機の中身を開き、取り出した子機をアスクの耳につけた。
「この法外認定対象の制圧、あなたに任せたいと考えています。」
「「「「!?」」」」




