第53話「未来都市」
ブライツに管理されている都市の1つが、龍妖彩列島の正中にある。
ビルの側面、看板、空中に漂うホログラムなど、至る所に在るネオンとモニターが彩っているこの未来都市の道路を、1台の護送車が走っていった。
「……すご……キラキラピカピカだ!!何なのココ!?!?」
「ブライツシティ・cDFC、我々が管理する中で最もライバーの居住率が高い都市だ。」
「どこもかしこも光だらけなのに、いくら見てても全然目が痛くならないし眩しくない……これが噂のKLED技術!不思議です!!」
一葉とアスクが後方ではしゃいでいる中、オーダーが運転席にて端末をいじっている。
「ここからはオートパイロットが港まで運転する。私も後方へ移らせてもらおう。」
「えっ?……あっそうか、ブライツシティの中じゃ認定された車は自動運転しながらハンドル離せるんですよね。」
「そうだったのか!?!?」
護送車の前と後ろを分けていた扉を開け、入ってきたオーダーがはしゃぐアスクの隣に腰を下ろした。
「そうだ。プレイン、サンフロム、帯集などをはじめとした有名企業の乗り物は大体認定されているはずだから、今度運転する機会があったら試してみると……ん?なんだ?」
裾を引かれたオーダーがアスクへ目を向けると、アスクはオーダーの持っているパッドを覗き込みながら首を傾げていた。
「『W'sRF』……って何?」
「地球中の文化や技術が1か所に集う、地球最大の祭りだ。」
オーダーのもう一方の隣に座っていた木槿が欠伸をしながら呟く。
「地球最大!?……の祭り?」
「正確には、信仰や食などの文化が集う『HPF』……地球で活躍する多くの著名アーティストが集う『RHF』……そして前回のW'sRFから追加されたばかりの、ライボットなどの工学的な技術が集結する『RTF』……この3つの祭りの総称が『W'sRF』だ。」
「ふむ……つい去年にもやっていたような気がしていたが……もうそんな時期か!!!!」
都市の様々な場所に掲載されているW'sRFの情報を読み取りながら、アスクが鼻を静かに鳴らしていた。
「そもそも祭りって何……ん?……あっ!!八美!!!!」
「NWニュースにゲスト出演した回の切り抜きか、アレは中々良かったな。」
ビルに映る映像の中で、八美が華麗なダンスを披露している。
少しの間目を輝かせていたアスクが、記憶を輝かせてから目を見開いた。
「……はっ……そういえば僕のライバー活動ってこれからどうなるの!?!?」
「ん……?君がライバーをやっているのか?アソコから押収した物の中に2人分の配信用設備があったとは聞いていた……片方は酷い品質の物ばかりだったそうだが。」
「ソレって……木槿さんがアスクさんに買い与えたやつですね。」
「……。」
ひとりでにハンドルが回り、護送車は交差点を左折していく。
「我々の研究チームが君達との情報交換さえ無事に終えることができれば、またすぐにライバーとして活動できるようになるだろう……設備の方はまぁ、木槿にすぐ買い替えさせる。」
「はははは……あ、そういえば……ガーベラ・バスクエダという方をご存じではないですか?もう片方……酷くない方の設備、きっと彼女の物だと思うんですよ――」
パッドが座席に落ちた。
消えたオーダーが香水の残香だけを残し、護送車から飛び出す。
アスクだけが飛び出した彼女の姿を目で追い、木槿だけが彼女の行く先を見つめていた。
「「!?」」
混乱するコリウスと一葉が、壊れた護送車のドアを見つめている間に木槿がアスクから死月鉱のナイフを受け取る。
オーダーを追いかけるために、黒髪の男と銀髪の少年は護送車から飛び出した。
「あっちに何かいる!!オーダーが先に気づいたみたい――」
「いいや気づいたのはお前が先だ!気づいたお前を見て、お前よりも早くオーダーが動いた!!」
護送車から飛び出す彼らを見た者達は、ソレがオーダーの味方だとは思いもしなかったのだろう。
携帯を取り出し、カメラを向けながら人々が叫ぶ。
「犯罪者が逃げ出したぞ!!」
「誰か!ブライツ呼んで!!」
「護送に同行してる隊員は何やってんだ!?!?」
「……僕達って中で待ってた方がよかったんじゃない!?」
「いいや良いんだ、これで良い!!」
車の隙間を通り、一点を見つめながら走るアスクへ木槿がついていく。
アスクの目に映る『完璧に仕上げられた魂』が『完全な形の魂』と接触している。
直後に前方で発生した衝撃波が、空中に浮かぶホログラムを少しだけ揺らした。
「あーもう!進みづらい!!」
「焦るなよ!車のミラーでも壊したら更に面倒な事になる!!」
進むアスクの前を、突然開いたドアが塞いだ。
「っ!?」
「止まれ犯罪者め!!正義のライバーとして貴様らの蛮行を許すわけには――」
「どけよモブカス!!!!」
アスクに追いついた木槿が足を突き出し、勢いよく閉じたドアが偽善者の手を挟み砕いた。
「ぎゃぁぁぁぁ!?!?」
「行くぞ!スリエル的にセーフだよな、今のは!!」
「うん!アイツはなんか良くない奴だからセーフ!!」
曲がったばかりの交差点を戻り、2人が進んだ先で煙が立ち込めている。
「……。」
立ち止まったアスクが煙の奥を見つめている隣で、木槿が周囲へ睨みをきかせた。
「あいつナイフを持ってるぞ……!!」
「黒髪黒目……だけど、隣にいる奴は……銀髪紫目……おいブライツまだかよ!?」
「ひ……め、目があって……きゃぁぁぁぁ!!!!」
「木槿!?!?アスク・スーリエル!?!?……何故来た!!」
消え始めた煙の奥で、赤い瞳が2人を見つけた。
「オーダー、ソイツの目を見せてくれ。」
「……目だと?」
オーダーによって地面におさえつけられた青年が啜り泣いている。
「やっと……助かった……。」
「?」
オーダーが青年の首元を掴み、その面をアスク達へ見せつけた。
「「!!!!」」
「紫目の……模様つき……!」
身体を仰け反らせながら、紫目の青年が大粒の涙をコンクリートに落としていく。
「お、俺……元々オレンジ色の目だったんです……!!部活から帰ってたら、突然誰かに攫われて……気づいたら、よく分かんない所に居て……鏡があったから、見たら、目が……こんな……怖くて……助けてほしくて……とりあえず走って……ココで、騒いでて……。」
「なんだと……!?」
「……アスク、そういやまだ話してなかったな。ロベリアは、アイツと同じような目に変わってた。月人の……天使種に。」
「は……!?!?」
木槿達と青年を数回交互に見つめた後、オーダーが青年の体を起こして2人の方へ歩いていく。
「髪や目の色の後天的な変化……決して起こり得ない事象のはずだが……とにかく、ついでに君にも本部へ来てもらおう。私が担当するこの2つの事案には、偶然にも深い関係がありそうだ。」
「は、はい……ありがとう……ございます……。」
「え……よく見たらあれ、オーダーじゃないか!?」
「本当だ……あの2人、オーダーの仲間だったんだな。」
「やば、通報しちゃった……虚偽通報で私が逮捕されちゃったらガン萎え~。」
「おい……通報したって聞こえたか、今。」
「うん、聞こえたけど……?」
人だかりの中から聞こえた単語に、木槿がオーダーと目を合わせた。
「お前が居ない時……通報のあったブライツシティには誰が来る?」
「……恐らくアイツが来るな。急げ、アイツは疑問をその場で解消しないと気が済まない性格だ――」
「あぁ、その通りだぜオーダー……『B.2 リプロダクション』現着だコラ!!!!」
荒々しい声がビルの上から響く。
オーダーと木槿に並び立てる、数少ない者の1人が荒々しくビルの壁を駆け下りてきた。
「人は、俺を万色と呼んでいた……分かるぜ、分かるぜ……お前が死神部隊の隊長だった奴だろ!マジで黒髪黒目が俺らに張り合ってきてたのか!?イカレてんな!?!?」
肩で風を切り、木槿へ近づくリプロダクションの前へ青年を掴みながらオーダーが立ちふさがる。
「……やめるんだリプロダクション、これから彼らも我々に加わり、今度こそ正式な仲間になるんだぞ――」
「黙れ!!お前な、俺が……俺達がコイツに何度苦しめられてきたか知ってんだろ!!!!」
「……木槿、この人に何かしたの?」
「コイツは元々反政府、反ブライツ側の人間だったんだ。法律違反である髪の全染めやカラーコンタクトをつけて、実力を偽りながら色んな場所でヤンチャしてたんだが……そのうち政府の怒りに触れてな、俺とオーダーに追い詰められた結果、更生活動の一環としてブライツへ入れられた。」
リプロダクションに睨まれながらも、オーダーが無駄のない動きで彼女の行く手を阻み続けていた。
「ふーん……悪い人って感じはしないんだけどな。」
「そうか、まぁ根は真面目なんだろう。ブライツとしてしっかり働いてなきゃナンバー2なんてなれるわけないしな……おい万色良かったな、コイツ曰くお前は悪者じゃないそうだぞ。」
「あぁ!?そんなガキに何が分かるってんだよ!!!!お前やオーダーじゃあるめぇ……し……!?!?」
アスクの首元にある宝石を見つけたリプロダクションが大口を開ける。
「オメーか!アレの持ち主!!」
「そうだ、彼はアスク・スーリエルといってな。死神や仲間と共に本部へ護送していたのだが……少しトラブルが起きたので、この方も本部へ連れていく事にした直後に……君が来た。」
オーダーとついでに青年を睨みつけてから、ゆっくりと彼女の横を通り過ぎたリプロダクションが、アスクと木槿にも鋭い視線を向けた。
「(常に不機嫌な女インヘリットって感じだ。)」
「(地球って破天荒で声がでけぇ奴が意外と多いな……俺ぁもう故人だがよ、没個性になりそうで心配だぜ。)」
「なぁアスク君、やはり君は妖人のように何かの気配が見えるのか?私よりも早くこの方の存在に気づいていたようだが。」
「は?この紫目銀髪で、加えてまだガキのコイツが!?お前より早く????」
乱暴に頭を撫でてくるリプロダクションの手にちょっとした懐かしさを感じながら、アスクが溜め息をつく。
「気配っていうか……魂とか殺気が見えるんだ。」
「へー、なんか面白ぇーなお前……オーダー、コイツも弟子にすんのか?オメーにはもうマジカルガールがいるんだからよ!コイツは今から俺の弟子、子分な!!!!」
「万色……悪いがお前が思ってるよりアスクは重要な存在なんだ。もしお前が手合わせで間違えて殺してみろ、隕石が地球に500万は飛んでくるぞ。」
リプロダクションの手首を掴んだ直後、彼女が腕を振り払うより少し先に木槿がその手を引っ込めた。
「隕石ねー……やっぱ宇宙人なんだな!にしちゃ地球人とそっくりすぎねぇか?……なぁ、お前どこの星からやって来たんだよ?やっぱ火星か?水星?木星?大穴で太陽――」
「あ、あの……!」
話を遮られたリプロダクションが、大きく舌を鳴らして青年を見下す。
「……んだよ……俺の邪魔したんだ、下らねぇ事ほざいたら顔消し飛ばすからな。」
「すまないな、リプロダクションはこういう奴なんだ……消し飛ばそうとしてきたら私が絶対に止めるから、遠慮せずに話すといい。」
「す、すみません……その……君を見て……思い出したんです……俺のこと、拉致った奴らの……中にも……い、いました、銀髪紫目のリーダーっぽい、目に模様がある女……の子?が。」
リプロダクションを除く全員が互いの顔を見合わせ、リプロダクションだけが不機嫌そうに腕を組んだ。
酷く震えた声で話し続けている青年の目の中で、模様が回り始めていた。
「た、確か……一緒にいた仲間から……こう呼ばれてました……『マリーゴール――」
青年の魂の奥で、月人の少女が笑いながら目の模様を回す。
その気配に気づいたアスクとリプロダクション、オーダーが目を見開いた。
刹那、青年の目が裂けるように弾け、道路を鮮血が彩る。
「「「な……!?!?」」」
滝のような血涙を、かつて目玉が入っていた穴から零しながら青年の体が震える。
「……また会おう、支配者……の……幼子……達…………。」
気の抜けた声を出して倒れこんだ青年の死体を抱えたまま、オーダーが強く歯を食い縛っていた。
人々が作り出す阿鼻叫喚のような声の数々に他の者達もまた、険しい表情に顔を歪ませている。
「……何が……起きやがったんだ!?何者だあの野郎は!?!?」
「口封じか。あの目、そんな機能もついているんだな。」
「……記憶の奥……一瞬だけ見えて……その名前、聞こえたぞ……『マリーゴールド・ガブリィエル』!!!!」




