第35話「うたた寝の間に」
「こんにちは、木槿にアスク。元気そうで良かったけれど……そちらの2人はどなた?」
「こんにちはミカさん!この人達は……ん?」
小さな会議室で、テーブルの上に置かれたパソコンの液晶にレイズの姿が映った。
月鉱の椅子に座っている彼女の後ろでは、窓から見える星空と地球が輝いている。
「(生ける芸術とはこの方の事であったか!!!!)」
「(美しさを表現したいのに世界一綺麗より上の語彙が無い……!!)」
パソコンの正面に座っている木槿とアスクの後ろで胸を抑えているコリウスと一葉にレイズは首を傾げた。
「だ、大丈夫?苦しいの?」
「も、問題ありませんぞ!!!!」
「はい!!全然問題ありません!!!!」
息を荒くしながら胸を抑え続ける2人の前で、木槿が淡々とパソコンの操作を行う。
「コイツらもL.E.R.Iの研究員だ。ただし、あんたの姿を初めて見たから衝撃を受けているんだろう。俺も地球であんたほど美しい人間を見たことはない。」
「そうなの?それは……嬉しいわね。」
レイズが小さく笑った後に、木槿が画面へ表示した情報を読み取っている。
「深夜の高速道路上でライボットの暴走事故……日付は1月22日……まさかコレは?」
「申し訳ない、アスクを回収した道中で研究員の1人が裏切った。アスク自身の活躍によりコイツを奪われる事は防げたが、裏切ったソイツ含め……2人の研究員と多くの民間人が"行方不明"になった。ソレは表向きに事故として処理された時のニュースだな。」
アスクの頭に手を置いた木槿の目を見ながら、レイズが少しだけ表情を引き締めた。
「裏切ったのはロベリア・クレマチスなのね?」
「その通りだ。」
「そう!アイツやっぱり危ない人だったよ。」
木槿とアスクが頷いていると、パソコンから青年の声が聞こえてきた。
「アスクを預けてからすぐに危険な目に合わせるとは呆れたぞ地球人!レイズ様に信用されている事がどれほど光栄で重要な事なのか理解していないのか!?」
「ん……?ロイヤー!?」
レイズの背後に立った銀髪紫目の青年が腕を組んで顔をしかめる。
「はぁぁぁぁ……っ!?」
「「「!?」」」
その瞬間、腑抜けたような声と共に一葉が倒れこんだ。
「えっ……な、何が起きた……?」
「月人の過剰摂取かもな。」
一葉を引きずりながらコリウスがパソコンに向かって叫ぶ。
「と、とりあえず私は一葉を休ませてきますゆえ!!後は任せたぞ木槿!!!!」
「おう。」
ドアを開けて会議室を後にしたコリウスが、首を横に振りながら呟いた。
「レイズ殿とはまた違った方向性で……ダ、ダイヤの砂浜を踏みつけても誰にも怒られなさそうなほどの美麗な容姿だった……。」
額を片手で隠しながら一葉が引きずられていく。
「……やばいですコリウスさん……。」
「どうした!?!?」
「……ビビっと……来ちゃったかもです……か、彼に……。」
――――――――
「なんとぉぉぉぉっ!?!?」
ドアの向こうから聞こえてくる大声にレイズが苦笑していると、ロイヤーがアスクの目をじっと見つめて嫌味たらしく口を開いた。
「なんだかお前のように元気な爺さんだが……地球にもいたんだな"インヘリット"。」
「?」
木槿がわざとらしく首を傾げた直後、レイズがこっそりと伸ばした月鉱が彼の足をつついた。
「(っ……そうでした……すみません。)」
「(気を付けてね、厄介ごとは1つずつ出していきましょう。)……ねぇアスク、あなたが地球へ行った後にロイヤーやチェッカ達にも事情を説明したの。一応納得はしてくれたんだけど、一緒に話をさせろと聞かなかったから……。」
車輪つきの椅子に座りながら回っていたアスクが死月鉱でテーブルと椅子を繋いで動きを止める。
「そうなんだ!……ロイヤー、確かに地球に来た瞬間トラブルに巻き込まれはしたんだけどね、僕は無事だよ!」
「何かに巻き込まれた事自体が問題なんだがな……!?」
「そうだな。それに加えてロベリア……あいつに協力して裏切りと奪取を援護していた奴が確実にいる。」
木槿がニュースにのせられていたライボットの残骸を拡大してレイズ達に見せた。
「このライボット、ロベリアが乗っていた物なんだ。専用のキーをどこかから入手している。」
「それだけじゃないんだよ!このライボットさ、すごいボロボロでしょ……?僕がマーナガルムで壊したんだけど……中にいたロベリア、死んだと思ったのに生きてたみたいなんだ!!」
残骸の様子を詳しく観察しながら、レイズがロイヤーと顔を見合わせる。
「この中に人がいた……?そして、この状態から生き延びているだと?」
「……ここから生き延びる方法、私なら分かるわ。」
アスクが身を乗り出してテーブルに体重をかけた。
「分かるの!?」
「『裂け目』よ。裂け目を使って逃げたのだと思うわ。」
「裂け目?」
木槿が自身の足に肘を置き、話を聞く事に集中するフリをした。
「アレか……!僕とリプラがね、ク……(リキンディーの事はまだ言わないでおこうぜ。)……都市で追いかけっこしてた時に、突然何も無い場所が裂けてソコから大きな狼が出てきた事があったんだよ!!」
「(あの大狼、そんな現れ方してたのか……。)」
ロイヤーが窓に座り込んで風に髪をなびかせる。
「その後に私も、裂け目を出入りする存在に何度か遭遇したわ。裂け目を操って仲間を狙った場所に出現させたり、いざという時には回収できるような敵がいると考えて良いかもしれないわね。」
「転送系の能力とは厄介だな……だが、転送させているのは人じゃなくて物の可能性の方が高そうだぞ。」
木槿がパソコンで検索サイトを開き、何かの記事をアスクやレイズ達に見せた。
「『旧世界の遺物』……?」
「遥か昔に存在していたと言われる超古代文明が後世に遺した様々な物の総称だ。ほとんどが今の文明レベルと変わらないような技術を使って作られた物品ばかりだが……中には未だ原理の解明ができていない物もある。」
「その中に生き物なんかを転送できる物があるという事なのか?」
「人が転送能力を持っているという可能性よりかは、とても現実的だ。」
記事を流し読みしながら木槿がため息をつく。
「一説では月人も旧世界の遺物に近いものなんじゃないかと言われている。」
「そうなの?」
「旧世界の遺物として見つかった本の中に天使の名前があったと俺の叔父、待雪が報告していたんだ。ま、月人の中にいない天使の名も本には載ってたがな。」
全員が首を傾げるか腕を組むか、またはその両方をしながら熟考しているとコリウスがドアを開けて会議室に戻ってきた。
――――――――
「戻りました!!一葉は熱を出したので休憩室で寝かせておいたぞ!!!!」
「……我々を見るだけで倒れるとは、地球人にとって月人とは何なのですか?」
「とても強くて綺麗らしいわよ?」
レイズの言葉を聞いたロイヤーが過剰に反応し、大きく頷いた。
「なるほど!あの地球人はレイズ様の美しさに耐え切れなかったのですね!!」
「……あなたが出てきた瞬間に倒れていたわよ?」
「従者が横にいれば主は更に輝く……ような物でしょう!きっと!!」
早口で話すロイヤーにコリウスが笑みを見せる。
「なんだか謙虚な方だな!!レイズ殿の隣に立てる者なだけあって、そなたも実に美麗な容姿をしているぞ!!!!美しい物は1つあるよりも2、3つあった方が全体が映えると私は思う!!!!」
「……私はこんな聡明なご老人にインヘリットと似ているなどと……なんて失礼な事を。」
少し微笑んで下を向いたロイヤーを見たアスクの魂が震えた。
「(月に帰ったら俺にアイツをいっぺん殴らせろ!!!!)」
「……少し話が逸れすぎたな。ロベリアが生き残った方法がその裂け目だとしたら、月でアスクや2人を襲った裂け目を使える連中が地球でもロベリアを使ってアスクを奪いに来た……って事になるか。」
「そうなるわね……。」
「どこでも現れる事ができてしまうなら逃げ場がない……下手をすれば今にでもココやその部屋に突然現れてくるかもしれない。」
「だが私達は無事だ!!という事は、指定の場所へ現れるために何か条件が必要なのではないだろうか!!!!」
「なるほど……確かに有り得る。では――」
周りやパソコンの向こうで4人が話している中、アスクが少しだけ体を揺らしている。
「(難しい話してるね、インヘリット。)」
「(その意見を肯定する事しかできねぇのがマジでムカつくぜ。俺も何の話をしてるんだかよく分からねぇ。)」
――――――――
会話が進んでいく中、アスクが眠気に頭を揺らしていた。
「――決まりね!」
「あぁ。」
「俺も賛成です。」
「私も賛成だ!!!!」
「「「「よし!!アスクにはライバーになってもらおう!!!!」」」」
「ふっんがっ!?」
突然大勢に呼ばれた事に驚いたアスクが周辺を見回すと、隣やパソコンの画面にいた全員がアスクを見つめている。
「……なんて?」
「会話に参加してこないと思ったら……寝かけていたのか!?内面的にも少しインヘ……鈍ってきたんじゃないか?」
「(コイツ俺がもう死んでるからって何でも言っていいと思っちゃいねぇか?)」
レイズがロイヤーを横目で睨んでから、アスクに語りかける。
「私達が決めたことを簡単にまとめるとね、あなたを狙う脅威が多すぎるからあなたに強くなってほしいの。でも練習を重ねるだけじゃきっと足りないし、いざって時に間に合わない……だから私達は『勇者が残した祝福』を利用することにした。」
「『勇者が残した祝福』?」
レイズの説明に合わせて、木槿が最小化していた記事をパソコンの画面上へ引っ張り出してきた。
「200年前に散らばった光の謎……ライバー化との関係?」
「200年前、1人の彩人が世界を支配する滅王を打ち倒した時から人々にとある性質が追加された。」
「その性質が『勇者が残した祝福』ってやつ?」
アスクが目をこすっている。
「そうだ。その性質によって人々は知名度によって自身が持つ力を成長させられるようになった。力の成長のために知名度を得ようとする者達を人々は『ライバー』と呼び始めた。」
「!!」
「ライバーとして世界中に拡散した自己顕示はソレを見た人々の心に火をつけ、中には彼らを観ることを生きがいとする者も増えてきた。これからお前はライバーとして多くの人々の心に残り……そして、そこから得た力で自分の目的を果たすんだ。」
次回 研究所編 終結。




