第32話「知る者、知らぬ者」
「先程見つけたライボットの残骸といい……どうやらそれなりの実力を持った者同士での戦闘が起きたようだな。」
朝日が照らす崩れた料金所の前でオーダーが腕を組んでいる。
「宇宙から送られてきた何かを……その中身を知っていた勢力が奪いあったのか?」
「そりゃ厄介だ、オレ達が知らねぇ事を知ってる組織が何個もあったらブライツの面目なんか丸潰れだぜ?」
地面に転がった空薬莢を蹴飛ばしながらB.2は唾を吐き捨てた。
「宇宙に繋がる証拠を見つけられればまだ何とでもなるだろう、慎重に調査を……ん?」
料金所の壊れたゲートの間を通り抜けて、反対側から料金所を見たオーダーが一瞬で姿を消して、料金所の電光掲示板に刺さりながら煌めいていた何かを手に取った。
「銃弾ではない……?」
料金所の上で手に取ったソレを太陽に照らしたオーダーが目を見開く。
「アメジスト?……いや、別の何かを感じるな。」
「ん?何か見つけたのか?」
オーダーが手にした死月鉱の欠片の端をつまみ、自分の指に死月鉱の先端を当てた。
「……!!」
死月鉱の欠片がいとも簡単にオーダーの皮膚を切り、赤色に染まる切り傷を見た彼女が歯を食い縛る。
「あまり野放しにしていていい問題ではなさそうだ……!!帰還するぞB.2!コイツを解析する!!」
「は?突然どうしたってんだよ……あぁ?……お前、まさかソレで怪我したのか……?『旧世界』の遺物刀を使っても、髪すら切れなかったお前がっ!?」
料金所からB.2の横に飛び降りたオーダーが来た道の方角へ姿を消す。
――――――――
時が経ち、高速道路や料金所の破損が工事中に発生したライボットの暴走によって起きたものだと世間に報告され、世間のほとんどが出来事の存在すらも忘れ始めていた頃。
一見、発電所か工場のようにも見える施設の中でアスクは真っ白な部屋の中央に立っていた。
「始めるぞ、いいか?」
「いつでも大丈夫だよ!」
部屋の天井についている監視カメラから聞こえてくる木槿の声にアスクがサムズアップをした。
直後に部屋の壁が大きく開き、奥にあった空間に潜んでいた大量の何かがアスクに向かって急接近し始める。
機械がついた1輪のタイヤのようなソレには小さな銃がついており、ソレらの半数がアスクに近づきながら銃口から黄色いプラスチック弾を放った。
「ふん!」
飛んでくる弾と迫り来る機械に対してアスクが素早く死月鉱の巨大な板を展開し、ソレを振り回した。
死月鉱の板によって弾き飛ばされたタイヤ型のロボットが壁に激突した直後、赤いライトを点滅させながら動きを止める。
残るロボット達が今度はアスクを包囲するような陣形をとった瞬間、板を畳んだアスクが手の中で死月鉱を輝かせた。
「【走行装甲球】!!」
死月鉱の球体が白い空間の中を駆け回り、撥ね飛ばされたタイヤ型ロボット達が赤いライトを点滅させていく。
「終了だ。」
木槿の声を聞いたアスクが即座に走行装甲球を解除して着地を決める。
辺りを見回した後にアスクが無言で目を輝かせながら監視カメラを見ると、木槿ではなく一葉の嬉しそうな声が聞こえてきた。
「全機、赤点滅!無力化ラインコンプリートです!!」
「よっしゃ!!」
白い空間の中でガッツポーズをしたアスクを見下ろしながら笑う一葉の横で木槿がマイクのスイッチを切っている。
「2日で行けるとは思わなかったな。最初こそ飛ばしても動いていたりライトがつかなくなったりする奴がまばらにいたものだが。」
「何かを覚えるのが得意なんでしょうね!前に輸送車の中でグリップを握らせていた時も6本目くらいで壊さずに握れるようになっていましたし。それにしても……ココってA.S.Oの本部だった場所ですよね?私達が元々いたL.E.R.Iの方はどうなっちゃったんですか?」
白い空間の壁から現れた階段を登るアスクを見つめながら一葉が首を傾げた。
「あっちは既にロベリアに位置が透けてるからな。部下共と上層に頼んで最低限の設備だけをこっちに移してもらったんだ。A.S.Oが無くなった後は使われていないだけで、電力や水道にガスの線は生きていたからこれからは此処がL.E.R.Iの拠点になる。」
「……ココもバレたら?」
「さぁな、ブライツ本部の地下にでも行くのかもしれない。」
「えぇ……。」
アスクが階段を登り終え、扉を開けて木槿達と同じ部屋に入ってきた。
「よくやった。」
木槿がアスクの前に歩いて拳を出すと、アスクがそっとグータッチをした。
「本当にこんな短期間で地球人と触れ合えるようになるなんて……あ、なんか涙が。」
ハンカチで涙を拭い始めた一葉を見たアスクが慌てて彼女へ駆け寄る。
「なんで泣いたの!?また僕が何かしちゃった?大丈夫……?」
「人は嬉しくなっても悲しくなってもな、感極まると涙が出てきてしまうものなんだ。」
「そ、そうです……。」
目元を赤くしながらハンカチをしまった一葉の横で、アスクが胸を撫でおろしていた。
「そうなんだ……そんなに嬉しかったの?僕が力加減できるようになった事。」
「もちろんですよ!いやなんか、それに加えて妹が初めて歩いた時の事も思い出しちゃって……。」
再びハンカチで顔を隠し始めた一葉を心配しながらも、アスクが木槿の裾を引いた。
「……そうだ、前はやっと時間の数え方とか覚えられたからさ……今日はその妹?っていうものが何か教えてほしいんだ。」
「いいぞ、それじゃあまず家族という概念を説明しなきゃな……。」
――――――――
「ふーむ……!!困ったな!!!!」
コリウスが荒らされた元L.E.R.Iの研究施設の中を歩き回りながら溜め息をついた。
「大分荒らされているようですね。」
「あぁ!!月人に関する資料がいくつも盗まれとる……!!!!ロベリアの仲間が入り込んだと考えるべきだが……いつ入り込むタイミングがあったのだ!?!?」
「D〜Eが原因及び実行犯を調査中、A〜C小隊は引き続き警備にあたっています。」
コリウスの後ろに追従する2人の隊員がライフルを周囲の部屋などに向けている。
「……アンデッドはロベリアとの接触が多かったF小隊にしかいなかったのだろう!?そういえば彼らは今どこにいるのだ?」
「2日前の段階でアンデッドにされていたF隊員2名の特定は完了していますが、隊長の命令によりまだ隔離中です……しかしですね……コリウスさん、ロベリアは既にライボットの爆発に巻き込まれて死んでいるはずです。死体が残っていてもソレが利用される事は無いはずでは?……今のあなたの発言や、隊長の命令からはまるでロベリアがまだ生きていると考えているような……。」
オフィスに入った死神部隊の隊員がデスクの下や陰を警戒しながらコリウスに囁くとコリウスは腕を組み、床の続く先を見つめた。
「木槿もおおよそ同じような考えらしいがな……私にもまだ……ロベリアが死んだとは思えておらんのだ!!!!」
「受け入れられていないだけでは?隊長にも人間らしい一面は残っていたのかもしれないっすね。」
コリウスの背後を警戒していた隊員が少しだけ笑いながらそう言った直後、デスクの陰を警戒していた隊員のライフルが彼の方へ向いた。
「口を慎め!隊長に舐めた口をきくような奴は死神部隊には不要だ。」
「っ……!?申し訳ありません!副隊長。」
「まぁまぁ落ち着け!!まだ何かが潜んでいるのかも知れんのだぞ――」
「……2人共、前を向いて。」
副隊長と呼ばれていた死神隊員が廊下の先へライフルを構えた。
十字に交差した廊下に何かの気配が近づいてきている。
「ん……!?」
床の上を這いずりながら資料がゆっくりとコリウス達の前に現れた。
「なんだありゃ……。」
突然、十字の中央で資料が止まり、コリウス達の方へ資料についていた付箋の先端を向けた。
その瞬間に資料の下から黒く小さい生物が大量に這い出てきて、コリウス達に向かって押し寄せ始める。
「……そんなの蟻かぁぁぁぁ!?!?」
「なんだアリゃぁぁぁぁ!!!!」
「逃げろぉっ!!!!」
振り返って駆け出す3人が立っていた廊下を蟻の大群が作り出す黒点が染めていく。
換気扇からも現れた蟻が3人を追いかける群体に加わる。
「この蟻ども、確実に操られている!!ま、まさかやはり……!!!!」
「生きておる……!!ロベリアはまだ生きているぞ!!!!」
「やばいライフルで撃っても意味ないっすよコレ!!
どうしますか!?」
老体のコリウスが息を切らし始めた頃、副隊長が顔を隠していたマスクを投げ捨てた。
「副隊長!?」
「ゼェ……何を……するつもりだ!?!?」
「もう少しペースを上げて奴らを離せ!!あと2m離すまで踏ん張るんだ!!!!」
長い牙を見せた副隊長に背中を叩かれながら、コリウスが呼吸を整えて足を上げ続けた。
「ひ……ひっひっふぅっ!!!!」
「お産かよ!?!?走りにも効果あるんすかソレ!?」
「分がらん!!!!」
「黙って走らないと餌にするぞ!!!!」
十分な距離が開くまで残り1m。
「申し訳ありません副隊長!!冷静さを欠きます!!!!」
「そんな事報告せんでいい馬鹿者!!!!……あと少しですコリウスさん!!合図をしたら2人とも奥へ飛び込め!!!!」
「り、了解したぁぁぁぁっ!!!!」
3人が廊下に書かれていた黒い線の模様を6本見送った瞬間、副隊長が地面に当てた手を軸に回り素早く振り返った。
「飛びこめぇ!!!!」
「うぉぉっ!?」
「ぬぅっ……!!!!」
地面に倒れ込んだ2人の背後で、副隊長と相対した蟻の大群が廊下を黒く染めてきていた。
「【断片ノ竜、火臓顕現】!!!!」
副隊長が口を開き、蟻の大群に特徴的な長い牙を見せつけた直後彼女の喉奥から赤い光が溢れ出す。
「うぉぉ、すげぇや副隊長!!」
炎が一瞬の内に蟻の群れを包んで、ソレらを炭の塊に変えていく。
「竜人……しかも部分的な竜化もできるのか!!!!」
施設のスプリンクラーが作動し、動かなくなった蟻の死骸の中で燻っていた煙が消えていく。
「コレでも木槿隊長を仕留めるのは無理でしたがね。」
「「えっ!?」」
スプリンクラーが濡らした廊下を歩いていく副隊長の後ろで、コリウスが腰を抑えながら立ち上がった。
「木槿にそれを撃った事があるのか!?」
「はい……東戦争で少年兵として扱われていた時に彼の排除を命令されていたんですが、失敗してしまって。その後、戦後に行く先を無くした所で死神部隊の再編成時に隊長に拾ってもらったんです。」
「へぇ……そんな戦いしてるんだったらそりゃもう舐めるとか出来ないっすわ、さすが不死身の死神隊長……。」
少しだけ顔を後ろに向けた副隊長が、コリウスを支えていた隊員を睨む。
「今度空いた日にお前と手合わせしてくれないか聞いてみよう。」
「えっ?無理無理!俺じゃ死んじゃいますって!!」
廊下を進む3人を、1匹の蟻が監視していた。




