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☆朱に惚れる☆

久しぶりに森の中に入った。

 あの炎の蛇で偽造工作をしたことが懐かしい。

 そういえばわざと服を汚したせいで生じた支払いに給料のほとんどを持っていかれたんだっけ。

 

「パウロ、戻ってもいいよ。あまり入りたくないだろうからね」


マニがそう言ったが、


「大丈夫です。わたくしは……」


ふっとパウロの服が光った。

 続きを言おうとしたのだろうが、そのまま口を噤んだ。

 私は俯いたパウロの頭を撫でて歩みを止めずに洞窟に入った。

 散乱していた資料はあらかた片付けられて、暗かった部屋は電気がつけっぱなしだった。

 机を指でなぞると、はるか昔に私が書いたメモがあった。『ここは、危険。なんらかの不法実験の痕跡あり』

 感慨に耽る暇もなく、開けっぱなしの蓋から地下に入っていく。なんでこんなところにいい思い出が詰まっているのだろうか。

 カビの匂いもだいぶマシになっている。清掃でもしたのかもしれない。

 ハシゴになんか頼らずに飛び降りる。この程度なら無傷で降りられるから。

 黒く染み付いた血がまだ残っているが、そこまで気にならない。

 ハエも居なくなっているし、比較的最近まで人が出入りしていたのだろう。

 ここらへんに書いてあった文字も消えかかっていて、ほとんど読めなかった。

 下に降りれば降りるほど胸騒ぎがひどくなっていた。

 黒き炎があるのか。いつもの似た感覚だ。


「パウロ、マル、黒き炎を感じる?」


私は堪えきれずにそう聞いてみた。いや、マルは居ないんだった。


「この感覚はやはり、そうなのかもしれません」


パウロがそう言ってきた。


「そういうことなんだね。私たちの『黒』が共鳴してるみたい。となるとやっぱり、黒く染まったスキルを使う人がこの先いるみたいだね」


私がそう言うと一同に緊張が走った。

 いつの間にかパウロと戦った部屋に出ていた。そこで一つの資料を拾った。


『スキルの研究   協力光律(こうりつ)委員会


最近色々なことがわかってきた。

スキルは複数の人で詠唱することで威力が上がることだけでなく、魔力の根源についてなどだ。

複数人で発動するスキルのことを【協律能力】とした。そしてある一定を超える10人を超えて発動することで町一つを破壊できるような威力だそうだ。

これは戦争の終止符として使えるだろう。今後、ロニを含め模擬爆撃をしていく予定だ。

本番の日時は未定。同じ魔力量、同人数で軽い爆撃をする。方法だけでなく、慣れのためだ』


それを読んで、機密文書だと直感で理解した。燃やしてしまおう。

 そう思って蝋燭の炎に当てる。触れたくないのか、一瞬炎が揺らいだ。

 仕方なく押し付ける。纏わりついた炎が灰を吐いた。

 

「じゃあ、あの隠し部屋に行こうか」


その部屋の事実を伝えるのを忘れていたのに隠し部屋は開けっぱなしになっていた。

 そこに入ると血の匂いが鼻を撫でた。何度も嗅いだ、不愉快な匂い。


「あなただね」


マニがさっと敵に攻撃を放った。

 だがそれは簡単に避けられた。やはり神といえども無詠唱では限界があるようだ。


「おいで。ルーヴァ、トルン、サヴダシク、セレイア、フィヤルナ」


そう言うと5人が出てきてくれた。

 

「ふわぁ……、君が私たちに活躍の場面を提供してくれるの? わかってるじゃない」


素敵な笑みを浮かべ太った男に告げたのはセレイアだ。


「わ、私がやりますよ! 星異物(スキル) 雷ノ摂理(プロヴィーデニエ)」


雷が飛び散って鎧を貫いた。

 

「堕霊(サタン)……、黒……。神言(スキル) 黒・(オニキス)襲末ノ異炎(・エンデフランメ)」


部屋を黒い雷が覆う。そこら中の水槽が割れて魔物が解き放たれた。

 

「神言(スキル) 黒・(オニキス)襲末ノ異炎(・エンデフランメ)」


さらに私たちを狙った雷が降るがそれを避けることはそんなに難しくなかった。


「神託(スキル) 黒・双雷(オニキス・サラート)!!」


パウロがスキルを使ったが、男の雷に阻まれほとんどダメージにならなかった。


「聖遺霊(スキル) 聖炎ノ溶戮(プラーミャ)!」


炎の手が男の足を掴んだが、男は痛みを感じないのか気にしていないように見える。


「制圧は無理! 殺すよ」


黒き炎をまとわせた片刃剣を首筋をねらって振り下ろすが片刃剣に防がれた。

 赤い刀身。私の片刃剣と良く似た刃文。わかった、あれは『参鬼』の一つなのだろう。

 最後の一振り。見るからに一番大振りなその片刃剣は私の心をくすぐった。

 ただ純粋に欲しい、そう思った。


「堕落能力(スキル) 黒・料理屋(オニキス・メゼ)」


ぼうっと燃える黒き炎を眺める。


「故夢(スキル) 月魄屏(シノトバリ)」


フィヤルナが紅い膜を貼ってくれた。

 これで無理やり突っ込んでもよさそうだ。

 思いっきり振りかぶって、右足を切り落とす。そのまま左上に振り上げて左足を付け根から切り離した。

 そして崩れた身体に馬乗りして片刃剣を突き刺した。

 内側から黒き炎を生み出したことで倒した。

 男が握っていた片刃剣を取る。重厚感のあるそれをようやく握れた。

 刃紋を人差し指でなぞる。本当にきれいだ。

 遺骸から離れてこの場を探索してみることにする。

 探索しながら、さっき解き放たれた魔物たちを試し斬りがてら倒していく。

 よく斬れるし、範囲もまた申し分ない。黒き炎ならエンチャントできるようだ。


「これ、私もらっていいかな?」

「ほとんどオリヴィアさんが単騎で討伐したし、文句なんか言わないよ」


フィヤルナがそう言ってくれたから、この武器は私が預かろう。

 

「今夜はこの子と一緒に寝ようかな」

「ダメだよ。いつもベッドから武器落ちてるじゃん」

「いいじゃん、鞘にしまうから!」


一歩も引かないマニ。何とか説き伏せねば。


「お願い、今夜奢る!!」

「ダメ、引かないよ」


ぐぬ……、負けそうだ。だがここで押さねば、一緒に眠れなさそうだ。


「1週間、担当するよ。掃除も全部」

「足りないね」

「…………一ヶ月」

「もっと」

「一ヶ月半」

「まだね」


強い、2年間寝てたうちに鍛えたのか。


「────何でもするから!!」


はっ、伝家の宝刀を使ってしまった。いつの間にか口走っていたのだ。 


「聞いた? みんな」


やばい、そう言ったマニもセレイアもニヤニヤしてる。


「……そろそろ行きましょう」


そう助け舟を出してくれたのはサヴダシクだった。頼りになる堕霊(サタン)である。


「行こうよ」


そうして話題をなんとか終わらせることができた。

 この部屋を漁ると多くの資料があった。 『末子(まっし)』と名乗る人物が当時人間だったパウロを連れてきたというものもあった。

 まとめると、"実験者"が関係しているようだ。

 さらに、"実験者"によって魔物が生み出されたことがわかった。

 それはマニが見つけてきた資料だ。『人間動物交配実験』そう銘打たれた束は何百年も前のものだった。


『戦争用として生物を生み出すよう、話をもらった。そして辿り着いたのは人間と神を交配させて魔力を持った人間を生む。神なら皆、魅了の力を持っているから、簡単にクリアした』


とんでもない実験を企てていたようだ。

 そんな父の血を引いてなくてよかった、そう思ってしまった。


『そして出来たその子の生殖細胞と動物を交配させる』


日記のように書かれたそれはとても悍ましい内容だった。


『次にそれを培養し、野生化させる』


それも完成したのだろう。


『それを魔物とした』


そして、最後に。


『全てを覗くものよ、知りたかったのはこれだろう?』


その文を読んで後退りした。ぶつかった本棚から本が溢れた。

 その本は、『トート日記』。

 死んだ、彼女の日記だ。


『バスが正式に加盟した。いつでもここでバスを殺せる。しかも魔物の正体がバスの父が作った生き物だなんて笑える』

 

そうか、彼女は最初から。苛立ちが加速していく。

 

『【不貞の子】と書き換えて洞窟の入り口に置いておいた。長らく起動していなかった帝国の子を起こした。研究員が死んだ』


淡々と書かれたそれに吐き気がする。当てつけだったのか? わざわざ、"不貞"なんて言葉を選んだのは。


『戦争が終わった。バスをそろそろ呼ぼう』


彼女は全部決めていたのか。

 全部知っていたのか。クソみたいな人間だ。この紙が手元にあるだけでキレそうだ。

 仕方なく仕舞って、マニに話しかけようとする。


「クソ親父、絶対殺す。野生化なんかする必要ないのに」

「……そうだね」


私たちは着実に、事実に辿り着いている。

 目的もはっきりしてきた。


「妖器を見せに行こう」


そして私たちはここを出るのだった。




茜ノ慟刀(アカオニ)


夕暮れの中、夜と昼をつなぎとめるような大きな刀。参鬼の一つ。丁寧に彫られた文字は『紅鬼』。

 それは未だに力を帯び続けている。ゆえに、エンチャントは出来ない。

 大きな花の茎ような柄は確かな優しさを持っている。それは光を求めているように。

 この武器はとても大きく故に重い。それは殺す責任である。怒りなどを持たずにただ単純に守ってほしいという祈りが見える。

 それは一時的に持ち主をオニとする力に見える。精神喰らい(ココログライ)がまた姿を現すのだ。

 黒に落ちた巨漢は朱に縋ったのだ。なぜか、私にとてもにている気がする。

 とても虚しい、殺しの末路なのかもしれない。

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