☆試作の橄欖☆
大きな木が一本生えている。
「オリーブの樹なのかな……?」
そう炎の武器を握るマリが呟いた。
ブーメランのようなその武器はつい先程あげたもので、とても喜んでくれた。
「あれ……」
パウロが、誘われるように歩を進める。
「どうしたの?」
マニが彼女を追いかける。パウロは大樹に寄りかかる機械に触れた。
「41号、橄欖……」
パウロは腕に刻まれた文字を読む。
41の枝とはそういうことなのか。その機械が気になって歩み寄る。
ジメジメとした地面に私の足跡が残る。
そして大樹の木の近くまで近づくとひんやりとした空気に変わる。
だが、その機械がいきなり起動した。
ゆっくりと起き上がる。
「敵対個体を確認。カラダの損傷率──23パーセント。戦闘機能の許諾申請──成功。41号戦闘開始します」
ゆらりと起き上がり、砂ぼこりが入ってしまった関節から風が起こる。
その風はスキル由来なようで機械であるのにスキルを使えるようだ。
もしかするとパウロのような状況なのかもしれない。
撓る鞭が一瞬で頬を掠める。線状に傷口ができて血が垂れた。
痛みが走ると同時に強い殺意を感じた。機械から漏れ出るその感情は純粋に研がれていた。
「大丈夫?」
セレイアが私の頬を優しく撫でながらそう聞いてきた。
血を指先で撫で取り、彼女の深紅の舌に触れた。
セレイアはふわりと飛び立つように離れ、続く鞭の攻撃を避けた。
「故夢 幻夢弓」
いきなり放たれた数十の矢を軽やかに橄欖は避けた。
「獣力 白・焰刃!」
純白の炎が皆の武器を包む。
私の武器はそれを嫌うように火が消えた。やはり黒き炎以外は長持ちしないようだ。
「あなたはまだ動かないのですか? 故夢 生命断」
サヴダシクの言葉に慌てて私は走り出した。サヴダシクはフィヤルナに向けていったようだが。
紅い光があらゆるものを切り裂く。それでも橄欖はきれいな動きでそれを避けた。
「故夢 月魄屏」
そこに重ねるようにスキルを唱えた。
白いカーテンのようなものが私たちの身体を包み、さらに丸めたそれを弾丸のように何発も撃ち込んだ。
「偽物ですね。ホントに精巧な……、星異物 雷ノ摂理」
雷が橄欖を追い込むように落ちた。
「獣力 黒・甓黎!!」
黒色の尖った岩が地面から現れる。それでも動じずに正確に避けている。
どうしたら確実に追い込めるのか。
仕方ない、接近しようと思い、片刃剣を近づいて振るう。だが、簡単に避けられ隙のできた身体に鞭を入れられてしまう。
「神ノ御力 蒼・絢爛水舞!」
振り回される鞭を避けながらマニが一気に接近する。
「疑似能力 風恵勝」
鞭と同じ色の風の攻撃が撃たれて、マニは粘らずにそのまま下がった。
賢明な判断だろう。そのまま変に粘ると怪我してしまうかもしれない。
何かいいものはないかと考えていると盾を思い出した。
慌てて取り出して鞭の攻撃を防ぐ。
「獣力 朱・獣雷!」
私のしたいことがわかったのか、マリが武器を仕舞い援護に回ってくれた。
それはルーヴァも同じだった。
「聖遺霊 聖炎ノ溶戮!」
炎で盾では防げない風の攻撃を相殺してくれる。
「神託 黒・双雷!」
私に集中した橄欖に特大の雷が落ちた。
だが、ここまでの手数を踏んでようやく一撃。これをあと何回繰り返せばいいのか。
「故夢 幻夢弓」
セレイアが射った弓は美しい軌道で橄欖に当たった。
パウロのおかげで動きが鈍っているようだ。ようやくスキルを使う余裕が出てきた。
「堕落能力 黒・料理屋!」
黒き炎が乱立してそれに触れないように動くだろうから橄欖の動きを封じることができた。
より細く、より高密度に。黒き炎を圧縮していく。
「サヴダシク、私を守って」
「了解しました」
サヴダシクは射ちかけていたスキルを中断してこちらに駆けてきてくれた。
どうしても準備に時間がかかる。
マニも全力を出すようだ。
「神ノ御力 蒼水ノ大槍!」
水が集まり、一気に乱射される。地面は凹み、枝は折れ、壁には穴があいて。
「獣力 黒・甓黎!」
マルはブーメランを投げながら足場を作り出し、味方を補助している。
「神託 黒・双雷!」
その足場を飛んで避ける橄欖に黒い雷を落とすが今度は避けられてしまったようだ。
「獣力 朱・獣雷!!」
赤い雷が戦場を照らすが橄欖は範囲外まで逃れていた。
「疑似能力 風恵勝」
竜巻が起こり、それに伴うように風の刃が辺りを飛び交う。
私は全く避けない。
「故夢 生命断」
その全てをサヴダシクが撃ち落とす。頼りになるやつだ。
ありがとうすら言わずに私はただ魔力を圧縮し続ける。
まだあと半分。
味方の心配は要らない。彼らが死ぬはずがない。
吹き荒れる竜巻すらも気にしない。
私じゃない誰かが絶対に無効化してくれるから。
射ち漏れたのか一つの風の刃が私の腕を傷つけた。
でもそれしか射ち漏らしはなかった。さすがサヴダシクといったところだ。
「故夢 月魄屏」
切れかけていた防御を張り直してくれた。そしてトルンが現れた。
「星異物 雷ノ摂理!」
竜巻に思いっきり放った雷は弾かれてしまった。
「クソッタレが!」
そう絶叫してトルンは乱射している。援護射撃をしているサヴダシクは余裕がだんだんなくなっているのを感じてきた。
「獣力 白・焰刃!」
もう一度武器に炎をエンチャントし直しているようだ。
そして白く輝く武器を持って橄欖にルーヴァとマニが近づいていく。
「聖遺霊 聖炎ノ溶戮!」
「神ノ御力 蒼・絢爛水舞!!」
2人の息が合った攻撃を避けたようだが完全には避けきれなかったようだ。
そして準備ができた。
「堕落能力 黒・料理屋!!!」
黒き炎の光線が迸る。周りのスキルも、光もすべて吸い込んで。あっという間に橄欖の胸を貫いた。
「損傷許容量の超過を確認。自動修復──不可。戦闘の続行許諾申請──失敗。再度、続行許諾を申請──成功」
この場所に響いたのは戦闘続行の冷ややかな声。
「疑似能力 風恵勝」
もう一度放たれたそれはもっともっと凶悪になっていた。
二本の竜巻と風の刃。もう対処はわわかってるであろう人に協力をお願いしよう。
「トルン、行くよ!!!」
私がそう言うとトルンは私の方を見て何か呟き、すぐに正面を向き直した。
「五輪能力 掃除屋!」
「星異物 雷ノ摂理!!」
私の風が一つの竜巻を相殺する。
そしてトルンの雷もまた竜巻を消し去ってみせた。
そして疲弊した私たちに変わりマニたちが最後の一撃を狙いに行く。
「獣力 黒・甓黎」
マルのスキルを合図に皆が飛び出す。
「獣力 朱・獣雷!!」
「神ノ御力 蒼水ノ大槍!!」
「神託 黒・双雷!!」
三人の攻撃が一斉にヒットした。
そのまま倒れ音声が流れる。
「集積回路の破壊を確認。修復は完全に不可能。シャット、ダウン……」
私たちの勝利の宣言は無機質なものになってしまった。
試作機械の鞭律
試作機構体41号橄欖が持っていた武器。
翡翠のような美しい緑色の鞭は一瞬で人を傷つける。
風を砕きながら飛来する鞭は盾以外で防ぐことはできないだろう。
試作を抱えた機構国は試作を国外に渡し作り直させたものを国内に残したそうだ。
この鞭は私を2度傷つけた。本当に鞭が苦手だと再認識した。




