☆大妖と黒羽☆
水場だからなのかやけにヌルヌルしているタイル貼りの床の上を転ばないようにゆっくり進む。
「げぇ……、なんでこんなところに盾落ちてるの?」
人差し指と親指でつまむように持ち上げたフィヤルナ。
「見せて」
そう私が言うと彼女は慌てて持ち直した。そして彼女から受け取ったのだが、とても軽い。
見た目の重厚感の割に合わない軽さだ。
「え、ほんとに軽いの!? 持たせてよ」
ワクワク顔のマニに手渡すと、勢いよく盾が重力に吸い込まれた。
「……クッソ重いじゃん! なんで騙したの!?」
マニはお怒りの様子だ。だが、重くはないはずだ。なんなら、"羽"のように軽い。
「え、そんなはずないよ」
私は紙を拾うように容易く拾い上げた。
マニは私を化け物を見るような目で見てきた。
「それあんたが使いなよ」
尊敬と恐れが混じった声が耳に留まる。
「うん、そうするよ。私、盾うまくなっちゃうかもよ?」
「怪我しなきゃいいよ」
その自然な言葉が簡単にマニの口から出ることを愛しく思う。
それ以外は特になく、隣の浴場にも入る。
暖簾をくぐり抜け、先ほどと同様に歩いてみると、今度は浴槽の中に弓が落ちていた。
「弓……? 弓……、セレイアいいよ」
「私?」
弓といえば彼女だろう。
「あんたスキルも弓でしょ?」
「っ!! 覚えていてくれたの? なんて尊い……」
いちいち大げさなやつだ。
弓を押し付けて私は少し外れたタイルを足でずらしてみる。
なんとそこには少し広めの空間が広がっていた。
その時、隙間からの光に誘われたのかいきなり尖った口が飛び出してきた。
反射的に武器を抜いて横に振るうが当たらなかったようだ。
「ルーヴァは照らして。よし行くよ」
ルーヴァの炎が部屋を照らす。
飛び降りて先ほどいきなり襲ってきた大型の獣と向き合う。
聞いたことのある叫び声。
慣れてしまった血の匂いはもう感じない。だが、人が腐った臭いと、幾重にも重なり溜まった糞尿の臭いだけは鼻腔を殴ってくる。
「今、楽にするよ。堕落能力 黒・料理屋」
片刃剣は黒き炎を纏って光を拒絶する。
咆哮の後の攻撃を避けて首を狙う。
ブニョブニョとした感覚が剣越しに伝わる。
セレイアの弓の合いの手で怯んだ隙に私は思いっきり首を落とした。
固まった糞が石のように弾けて、原型を失った人の死体に当たる。
この部屋から飛び出る。鼻が曲がりそうだった。
後を追ってセレイアが出てくる。
「弓、大切に使うわ」
「うん、そうするといい」
セレイアの言葉に私は頷いてそういった。
浴室を出て少し廊下を進むととても暗い部屋があった。
ルーヴァの炎ですら照らせない、真っ暗な部屋。
「ここ床あるのかな────あ、あるわ」
右足をゆっくり部屋に入れて優しく何回か床を叩く。
少しづつ床をふむ足に力を入れて床が崩れないことを確認した。
「暗いと探索もできないよ」
そう呟くマニに、セレイアが、
「暗い?」
と聞いた。暗いだろう? 何も疑問に思うことなどないというのに。
「サヴダシク、暗い?」
確認するようにセレイアがサヴダシクに聞いている。
「いや、まったく暗くないです。見づらくも、ないですね」
どういうことだ。マリとマルは目を細めて部屋の中を確認しようとしているようだ。
こそっと見えるか聞いてみたが"見えない"と言われた。
「パウロみえる?」
「すみません、いろいろ試してみたのですが何も確認できませんでした」
「いや大丈夫」
マニとパウロの会話からパウロも見えてないらしい。
「ってことはフィヤルナ見えるの?」
「うん、見えるよ。案内しようか?」
私たちは顔を見合わせて頷いた。
フィヤルナ達の案内のおかげで案外さくっと行けた。
一歩一歩が怖かったのは言わないでおこう。またバカにされてしまう。
収穫と言えば盾か。さっきの盾と比べれば小柄だが、同じ紋様が彫られていてこちらのほうが使い勝手がよさそうだ。
ということでこの盾も貰っておいた。いや別に他の人が持っててもいいんだよ!? でもマニは重いって言うし、マリもそう。それにルーヴァもトルンも重いって言ってた。
パウロとマルは持てたが要らないようだ。なら貰おうということだ。
まったく、仕方ない奴らだなぁ。誰も使わないならワタクシが有効活用させてもらいますよっていう話だね。
部屋の奥には扉があってそこから先は普通に炎で照らせた。何だったんだろう、という原因追及はすぐにやめることになった。
なんと次の部屋は武器が散乱していたのだ。
皆の顔が華やいで武器を漁っている。
すぐに私が弓矢を見つけてトルンに渡す。
「これ使っていいよ」
そう言って渡すと彼女は、
「そんな、貰えないです」
と、首を横に振りながらそう言った。
「いいよ、使ってほしいの。お願い!」
私がそう頼むと彼女はあたふたとしながら、
「あ、ありがとうございます……」
といって頭をさげた。
「受け取ってくれてよかったよ。……そんな羨ましそうに見てどうしたの」
そう聞くとルーヴァが物陰からそそくさと出てきたので、しょうがなくずっと足元にあった特別そうな鞭をあげる。
ふわふわだったから持っておきたかったのだがこの際仕方がない。
彼は嬉しそうにそれを受け取っていなくなった。
「オリヴィア様」
肩をちょんちょんと突かれ後ろを振り向くとサヴダシクが居た。
「これどうぞ」
そう言って手渡されたのはもう見慣れた刃紋のある剣。
剣か、最初に使って以来かもしれない。
「いいの?」
剣を眺めながら聞く。
「もちろんです。私からの贈り物とでも思っていてください」
「ありがとう……」
鞘と一緒に持っておく。
片刃剣じゃ足りない時がいつか来るかもしれない。
それ以外に特別そうな武器はなく、皆が拾った武器もなかった。
そして下へと繋がる階段を見つけた。
長い階段を降りきると少し広めの空間があって、そして外につながる扉がある。
「これ……」
扉の左右どちら側にも炎の形をした武器が落ちている。燃える羽と、怪しく燃える牙。
それをマリとマルにあげて、外に出るのだった。
黒羽の大盾
羽のような紋様のある美しい盾。
守ると音がする。自分を守れば大地を揺らすような低い音が、他人を守れば海原を揺らすような高い音が。
それは仲間を死地から庇うだろう。
黒羽は人の目から逃げる姑息な集団だったという。
人の目から逃れたくなるのは、私だけではないようだ。この盾も、目線を遮ることにも使えるだろう。
黒羽の弓
羽のようなデザインのある美しい弓。
弓を放つと音がする。弦の音は味方を鼓舞する音が、空を貫く音は敵を畏怖させる音が。
それは戦場を混沌へと誘うのだろう。
黒羽は音を求める奇妙な集団だったという。
戦場という轟音が響く場所で彼らはただ美しい音を求め続けた。
安らぎの音を求めるのは普通のことなんだと、思えた。
黒羽の盾
羽のような紋様のある美しい盾。
守ると音がする。自分の心を守れば優しい音が、他人の心を守れば力強い音が。
それは絆を守ってゆくのだろう。
黒羽は星音国の秘密の組織だという。
黒い力を持つ人は純真に仲間を庇うのだろう。私もこの仲間と一緒にずっと旅したい。
大妖の弓
大妖シリーズの弓。真っ暗な部屋の先にあった。
大きな獣のように強い弦から放たれる弓は猛毒を宿している。
敵と忠誠を貫かんとする意思は今の持ち主も昔の持ち主も変わらないのかもしれない。
もしかすると、私は戦闘から遠ざけたかったのかもしれない。
そうだったら、私は本当に自己中だ。
黒羽の剣
羽のような波紋のある美しい剣。
斬ると音がする。首を斬ると耳を突き刺すような高音が、スキルを斬ると耳を飽和するような低音が。
それは戦場を掻き回してゆくだろう。
黒羽は音を愛する女性で結成された集団だったという。
全てを理解するというのは決めつけ、立場を押し付けるということになる。
羽を休めただ一人でいるよりも私は仲間と一緒に居たい。ただそれだけ。
猫ノ尾鞭
猫の妖怪の尾を使ったと言われる武器。妖器ではない。
鞭なのに扱いが簡単で風の斬撃を放つ。
この武器は誰のものだったのか。
わかるのは、この盾の持ち主が二度と装備しなかったということだけだ。
私なら拾いに来るが。こんな触り心地が良くてずっと撫でていたい武器はないから。
黒羽の炎
羽のような刃紋のある美しい二振りの剣。
武器の形を変えると音が鳴る。繋げると空を切り裂く重い音が、離すと空を縫つなげるような柔らかい音が。
それは戦場を掻き回してゆくだろう。
黒羽は明るい中を生きる者たちを殺める暗殺者だったと言う。
明るい中を生きていた、過去の私にはもう戻れないことを知った。
大妖の炎
大妖シリーズの武器。二振りのカタナとブーメランを行き来できる。
ごうごうと燃える刃は優しさであろうか。
赤い炎を再び出すことは叶わぬと知っていても私はそれを願ってしまう。
だから私から遠ざけたのかもしれない。
美しい炎に照らされる仲間を見るほうが辛いと言うのに。




