☆魅惑の絵☆
鍵を使う部屋がすぐ近くにあった。
いつものまま右に捻ってみたもののも開かず、左の方向に鍵を捻る。
解錠の重い金属音がして、ドアがすんなり開く。
中には3つだけ、大切そうに宝箱が置いてあった。
「あけていい!?」
「もちろん、いいよ」
ワクワクしながら聞いてきたのは意外にもフィヤルナで、私はそう答えてあげた。
彼女は3つの箱の前に仁王立ちして、少し経つと左の箱を選んだ。
右の箱はセレイアがいつの間にか開けている。
真ん中を開けようと思ったのだがルーヴァが蓋に手をかけていた。完全に出遅れたようだ。
「これ、『鵺』の胴装備だね」
フィヤルナが箱から装備を取り出した、セレイアにそういった。
っていうか、フィヤルナは背中に何かを隠してるみたい。
「なんかあったの? フィヤルナ」
そう聞くと彼女は嬉しそうに隠していたものを見せてくれた。
「じゃん!」
それは黒い刀身に羽のような波紋のある曲がった剣であった。
「わ、かっこいいね!」
私が彼女を褒めてあげると嬉しそうな表情を浮かべたフィヤルナに自然と笑みが溢れる。
堕霊であれ、やはり"嬉しそう"というのは可愛らしく見える。
「でしょう? それでさ、これ、僕が使ってもいいかな?」
そう聞いてきたフィヤルナに私が許可を出そうとしたとき、
「ちょっと、それは我儘なんじゃないんですか?」
そうサヴダシクが横槍を入れてきた。
「お姉ちゃん、ここではのびのびやってるみたいじゃん?」
言い返せなかったのかフィヤルナがそう言った。"サヴダシク姉ちゃん"だったんだ。ってことはフィヤルナが末っ子か。
「……だからなんでしょうか? 私はオリヴィア様に姉妹の中で一番に仕えましたよ」
「なにいってるのさ? オリヴィアちゃんが暴─────」
「黙れ」
今までにない強い拒絶の言葉がサヴダシクの口から飛び出た。
「あなたが介入していい領域じゃないのよ」
セレイアもフィヤルナを咎め、「ごめん……」と彼女も謝った。
重苦しい空気が辺りを包む。
「───あ〜、えっと。私は気にしてないよ……っていうか、あなたが見つけたならその剣は持ってていいよ」
私が口を開いてなんとか宥める。
「僕が持ってていいの!?」
満面の笑みで剣を抱きしめている。鞘ないのに大丈夫だろうか?
「あ、危ないよ……?」
口に出して制止しておこう。
「オリちゃん心配しなくていいわ。怪我するなら自業自得よ」
私の耳元でセレイアがそう言った。
「でも、優しいオリちゃんも尊いわぁ」
何かほざいているセレイアを無視して固まり続けるルーヴァに話しかける。
「それは……?」
彼が見つめる先には黒柄の鎌。
そして、柄の先端には、黒ずんだ腕が残っていた。
臭いはない。ずっと昔のものだ──。
「もういいよ、早く次の部屋行こう」
マリがそう言って、ハッとする。
なぜかとても長い時間立ち尽くしていた気がする。
「ごめん、行こ」
そう言って部屋を出た。
ルーヴァも思い詰めた顔をして私についてきた。
壁をなぞる様に少し進んでいくと凸凹とした何かが手に触れた。
炎がそれをすぐに照らした。
黄金の額縁。そしてこんな奥に飾るようなものではない、豪勢で力強くて、でも弾けてしまいそうな泡のような絵。
いくつかの島々が生き生きと描かれている。
タイトルは『雲架の橋立 (月港)』。
天に昇るような橋。満天の星空。儚げで神秘的な黒い髪の女性。自ら首に突きつけた星の、刃。
あっと息を呑むような表現と惨さ。それが一瞬で私の心をわしづかみにした。
抽象画のような、具象画のような。
目を離すことがもったいないと思える絵だった。
「美しい、絵だ」
マルのその言葉にひどく共感した。
その絵を目に焼き付ける。
「…………そろそろ、探索しなきゃね」
私がやっと声を出した。
大画の周りをうろちょろしてたら、少し変な地面を見つけてふと我にかえったのだ。
そこを照らしてもらい、指で辺りを触ろうとしたら、
「そんなところを触らせるわけにはいけません! さあ、私がやりましょう!!」
トルンがそう言った。
「いや、別に……」
「さあ!!!」
圧力に屈した。彼女の大きな声は威圧感はなく可愛らしさすらあった。
ほどなくして地面の一部が開き、はしごが顔を出した。
躊躇うことなくトルンは降りていき、シャンデリアに足を乗せた。
そのまま少しすると埃とともに帰ってきた。
「ありがとう。汚れちゃったね……。五輪能力 掃除屋」
トルンの頭に手を乗せてそう唱える。
すると彼女の汚れが綺麗さっぱり落ちた。だが、トルンは顔を紅くした。
「あ、何も言わずに髪に触っちゃった。ごめんね!」
思い当たる節があったのでそれを即謝罪する。
「い、いえ! ありがとうございます! おかげで汚れが取れました」
そう言いながら懐から仮面を取り出した。
鼻の長い、赤いお面。
それをおもむろに顔につけた。
「どうでしょう?」
上下逆につけた彼女が小首を傾げてそう聞いてきた。
笑いを堪えながら仮面を外して直してあげた。
「はぇっ!?」
彼女の声に私たちは笑いに包まれたのだった。
黒羽ノ外套
妖器の一部とされていた防具。鵺兵装の一部である。
黒い羽根で包まれるようなこのマントはとても軽い。
体を軽くし、滞空の補助や耐熱をしてくれる。
悍ましい妖怪は、私を守り、助けてくれるだろう。
大妖の鎌
大妖シリーズの鎌。従犬ネミの守る部屋の中にあった。
切り離された腕が、握り続けた武器。
もはや腕さえも武器の一部となっている。
犠牲を孕んだこの武器を握るには固い決意がいるのだろう。
脆い私には到底握られないから。
黒羽の曲刀
羽のような波紋のある曲がった黒い剣。
斬ると音がする。空を斬ると賛美の音が、人を斬ると苦悶の音が。
それは戦場を掻き回してゆくだろう。
黒羽は弓兵から始まった闇夜の騎士団だという。
そんなの私には耐えられないから私の翼は白くありたい。
赤面ノ岩顔
妖器の一つとされていた防具。鵺兵装の一部である。
岩のようなお面は誰にでもフィットして顔への攻撃を小さくする。
喜怒哀楽を知ることができ、雨に濡れなくなり雷もへっちゃらになる。
悍ましい妖怪は、仲間を守り、導いてくれるだろう。




