☆灰と燻り☆
私の急ぐ歩は思っていたメイドではない、私たち姉妹を驚かせた彼女によって止められた。
「……あの……」
私の肩に触れようとした手が逡巡のあと空を撫でるように留まる。
「……なに?」
私は振り向く。
「探して……ほしいの……です……、"捨て子"……のオリーサを……」
『捨て子』? 『不貞の子』だけじゃ飽き足らず?
ほんと、頭にくる。
「3階の……何処かから……、ずっと……哭き声が……聞こえるのです……。哭き止むことは……無く……、でも……3階の……門番のせいで……私たちも……自由に……行動できず……」
「3階の門番?」
フィヤルナが口を開いた。
するとメイドはフィヤルナを見て、
「……ルナ……様ぁ」
「その呼び方もうやめてよ。ボクには"フィヤルナ"って名前を得たんだ」
「承知……致しました……。フィヤルナ様は……3階に……行ったことは……ありませんよね……?」
フィヤルナは人差し指を顎に当て考えている。
「無いね」
驚いた。いつからいるんだコイツは。
「ここに来たのは2年前くらいかな。堕霊の雰囲気を感じたから」
2年居て探索適当すぎないか?
「いやいや、だって3階には堕霊いないし、妖器あるとしたら1階の裏庭だよ? わざわざ行く必要ないし」
すごい剣幕で反論してきた。
「それに、『鵺』は妖器じゃないし」
「「「え」」」
私だけではない。マリもマルも、ヴェレーノも、ルーヴァも、マニもパウロも。そのすべての声が重なった。
「妖怪武器だよ? 妖怪兵装なら防具も入るかもしれないけどさ」
盲点だった。さらにフィヤルナが続ける。
「それに『鵺』はいろんな妖器の寄せ集めなんだよ。足は『八岐大蛇』で、兜は『天狗』や、『姑獲鳥』の外套。手は『猩々』。ただ、『姑獲鳥』と『猩々』の武器はみつかってないんだよ」
少女のように胸を張って自信満々にそう教えてくれた。
「サヴダシクとセレイアは知ってたの?」
私がフィヤルナと同格の二人に聞く。
「知ってたわよ。だって常識だもん」
悔しい。自慢げにニヤニヤしているセレイアから視線を動かしてサヴダシクと目を合わせる。
「私も存じ上げておりましたよ。ただ、その、まあ」
ダメだった。彼女もまた常識だと思っていた派閥にいる。
「まあ良いや。無理に『鵺』は集めなくていいのね」
私はため息とともにそう言った。
「いいじゃない、探索楽しいし」
どこに楽しい要素があったのだろうか、いや無い。全く、全然、完全に。
「……あのっ!!」
いきなり会話の中に響くその声で全ての記憶が引き出される。それに、そんな声出たのかと驚いた。
忘れてたわ。"捨て子"オリーサね。
「ごめん、ごめん。きっと見つけてくるよ」
「……はい、よろしく……お願い……します」
そしてようやく本来の目的の部屋に向かう。
ドアを勢いよく開けて、
「君をなんて呼べばいい!?」
私は部屋の掃除をしていたメイドに問うた。
「私、ですか?」
「うん、メイドが近くに二人いるせいで呼び分けに困る!!」
そう言うと彼女は目を丸くして、驚いていたがすぐに真面目な顔になり、
「"灰ノ使者"と当初は言われてましたが」
教えてくれた"灰ノ使者"にお礼を言おうとしたタイミングで、
「あ、名前つけようとしてる!!」
部屋に入ってきたマニ。その声でハッとした。
「違う、誤解だよ!!」
簡単に疑念は晴れずしばらく弁明を続けた。
何とか若干の曇りくらいまで立て直した。本題に入ろう。
「ねぇ、この実験にでてくるメイドって貴女?」
そう聞くと"灰ノ使者"は、
「部分的にそうですよ。ご飯は"くすぶりメイド"が行ってましたが、清掃は"灰ノ使者"が担当でした」
「くすぶりメイド?」
「はい、廊下に居たさっきまであなた方が話してらっしゃった方です」
ああ、あの人にも二つ名があったのか。
「それでなんですか? 咎めに来たんですか?」
彼女の眼光が鋭くなる。
「いや、この実験をしていたのは誰かを知りたくて。『甘美の者 イノース』、だった?」
そうマニが聞くと彼女は、
「すみません、それについて私は存じ上げません。ですが、そもそも人じゃありませんでした」
マリとマルが目を見合わせている。
「言われてみれば人間がそんな生きられるわけないか」
マリの言葉に珍しくパウロが反応した。
「『移魂』を使えば人間でも何とかなります」
『移魂』? そう思ってたら、
「『移魂』は魂を別の肉体に移植することよ」
セレイアがわたしの耳元でそういった。耳がくすぐったい。
「でもそもそも人じゃないとなると、魔物か、堕霊か」
誰かの言葉の返事が返ってくる。そして、"灰ノ使者"が答えてくれた。
「『神』でしたよ」
刹那、空気が凍った。
またしばらく週一に戻します。ごめんなさい!




