☆深雷ノ五輪☆
アーガという国を通るルートを採用して長い時間をかけてダラニに遠征していた。
そして今、アーガの首都ルラにいる。
すこし遠くにメラー湖が見える、大きな街である。
ここで一泊し、またもう半分の距離を進む。
「きれーな湖だね……」
感嘆のため息を漏らしてマニが言った。
ここはルラの景色を一望できる場所、ルラの高塔という場所である。
塔というとまあ人にはいろいろな記憶を保持しているもんで。
私もたくさんの経験をしてきて? 数多の思い出をフラッシュバックするわけ。思い出したくもない記憶たちが箱の中から飛び出しちゃって。
あの塔に戻るためにいま冒険しているというのはかなり皮肉を感じる。
忘れないようにしまっておこう。私の身体を媒体に黒き炎が暴れぬように。
「───ほんと、綺麗な湖」
私がそうつぶやき、少し目を閉じる。
二度と失いたくない。
炭と化した心は黒き炎に燃やされて黒色の灰になってしまうだろう。
この湖を、濁さないように。
暗澹たる雲を、暗澹たる泥濘を、私が受け入れて。そして、死んでしまおう。
はるか遠くできっと。
美しい湖面が、ただ私の鈍色を映しているのだろう。
アーガを抜けてまた森の小道を進んでいた。
「しぃ」
人差し指を唇に近づけてマニが注意を促す。
その後すぐに雷鳴が轟き、一人の女性が現れた。
「私は『深雷ノ五輪』。我が信徒の国に貴様が入るのは都合が悪いのだ」
鋭く私を睨んでそう言った。
(あれ? いつもあんなにあやふやな人なのに)
久しぶりにルーヴァの話を聞いた気がする。
あまり戦闘は得意ではなく、浄炎の使い手であるためあまり人を殺すのには向かない。
そのためこの前の革命にはほとんど参加せずに作戦を練ってもらっていた。
(魔塔から続いて五輪がでてくるんだね。オリヴィア様、あなたやっぱり変な運命に縛られてるようだよ)
そして私を睨む雷はただ刀を握っていた。
「星遺物 雷ノ摂理」
いきなり飛んできた雷の玉は私のカタナでなんとか弾く。
「……そう。懐かしい────」
大きな瞳を一度閉じ込め、そして、凛々しい表情になる。
刀を振り、ソレに雷が纏わりつく。
「まあいいわ。今の私には、何ら関係がないもの」
「なにが懐かしいの」
遅れた私の質問には答えずに攻撃が放たれる。
「獣力 焰刃」
「獣力 黒・甓黎」
「神ノ御力 蒼・絢爛水舞」
ヴェレーノの焔を纏ったマルの黒岩が『深雷ノ五輪』に向かって飛ぶが、うまくかわされる。
その後すぐに避けた隙を狙って水の刃で攻撃を狙うが、それもまた当たらなかった。
「神託 黒・双雷!!」
パウロの黒色の雷が『深雷ノ五輪』を追いかける。
「堕落能力 黒・料理屋!」
私も負けじとスキルを使う。
悍ましい黒色の炎を見たとき、『深雷ノ五輪』は驚いたように動きが鈍る。
「神ノ御力 蒼水ノ大槍!!」
空から雨が降ってくる。その雨粒が細い線を描き、槍に形を変える。
「っ……」
『深雷ノ五輪』は慌てて、
「星遺物 雷ノ摂理!」
と、スキルを唱える。
私は『深雷ノ五輪』に飛んで近づき、
「解呪」
呪いの言葉を全て私が、私だけが受け入れる。
だって私は掃除屋なんだ。ゴミ箱であり続けるんだ。
もうずいぶん前、これを発動させたことがある気がする。誰かと、出会ったとき、悪意を摘み取ったときに。
なぜだ。なぜ、ここまで歯が立たない?
ありえないんだ、私は星神様の言うことに従い続けていた。
彼の言葉何一つ間違いなんてなかったのに。
私は、なにも、疑わなかったのに。
なぜ今更星神様の顔が汚れて見える?
まるで、星じゃなかったかのような。
────『剣欄 朱雷ノ星鳴』─────
マニと、マリの剣戟が後ろで響く。
「来い」
たった一言『深雷ノ五輪』は呟いた。そして、小さく唱える。
「星異物 雷ノ摂理」
なにがあったのか全く見えなかった。
朱い雷が見えて、そのあと金属音が鋭く鳴った。
「解呪、感謝する」
初めて見えた蒼い刀。
「いや、たまたま気がついたんだ」
私はそう言って微笑む。
「あんた、あれ耐えるんだね。いいよ、全力で行く」
あれ!?
「ちょっと─────」
「獣力 朱・獣雷」
なにをやってんだ!
これ以上敵対する必要はないのに。
「神ノ御力 蒼・絢爛水舞!!」
こいつまで!? 水の斬撃が『深雷ノ五輪』に向かって飛んでいく。
「星異物 雷ノ摂理」
そうなるよね、わかってたよ。
針のように鋭い雷がマニに向かってまっすぐ飛んでいく。
「やばっ!」
マニはスキルをシールド状に発動させ、水の膜で雷の多くを防いだ。
「堕落能力 黒・料理屋」
私は諦めてスキルで黒き炎の人形を生み出し、それと私の位置を交換する。
首を腕で拘束し、首元に刀を突きつける。
「もうやめよ。疲れたから」
そう言うと『深雷ノ五輪』は頬を赤らめた。
なんでだろう、と逡巡したがすぐに思い当たる節があった。
「あっ、ごめん! 苦しかった!?」
拘束するためとはいえ首はよくなかった。そりゃ赤くなるもんだ。
「……いえ、そうでは────」
私の腕にゆっくり指先を当てる『深雷ノ五輪』。柔らかい指先が擽ったい。
「ただ……」
そう言い、でも次の言葉になかなか続かない。するとずっと気まずそうに黙っていたルーヴァが、
(やっぱ彼女純粋だね。ってか気まずくないよ、助力が必要ないくらいに数がいるじゃん)
(私のオリちゃんよ。こんなのには渡さないわ)
セレイアは自信満々に言う。私が恥ずかしくなるじゃん。
そのあとサヴダシクが私に、
(また住人増えるのですか? もう十分騒がしいのですが……)
と伝えてきたが、セレイアが煽るように、
(さっきまで楽しそうに『駒返』をやってたじゃないの)
と言うと、
(お姉様は黙っててください!)
慌ててサヴダシクは早口で強烈な視点でそう言った。
お、なんだ? 面白いゲームがあるのなら誘ってほしいのだが。
(どうする? いつも通り『札合』に移るか?)
(いつも通りじゃありません!!)
いや、そうじゃないか。咳払いをする。何をやってんだ、こいつらは。
人がいろんなことをしている間に遊んでいたとは。
「あの、お名前は存じ上げておりますので、その、もしよろしければ……」
忘れてた。
(安心しな。たぶん住民増えるわ)
私がそう伝えるとサヴダシクは黙ってしまった。
(良いわね。また賑わうわ)
(僕は、黙ってようかな……)
やっぱこいつらは置いておこうか。
「私はオリヴィア。あなたの名前は?」
「えっ!? あ、えと、な、ないです……」
不安なやつだ。視線は常に下を向いていて緊張を感じる。
「トルン、でどう?」
そう言うと顔を勢いよく上げ、笑顔になった。
「ありがとうございます──……お返しと言いますか、あの、これを……」
トルンが刀を差し出してきた。
「妖器を集めてらっしゃるのですよね? これ、妖器でふ」
噛んだな? 噛んだね。
差し出された刀を受け取り、でも、
「申し訳ないよ」
「はぇ!? わ、私が持ってたからですか……?」
とんでもない誤解を生んだか?
「そうじゃないよ。アナタが愛用しているのはなんとなくわかったから、それを奪うのはっていうこと」
「そんなっ! あなた様に持っていただけるなら喜んで差し上げます。私もついていきたいですし……!」
そういうことなら……、と受け取る。トルンは刀に宿っていたみたいだ。
「────黙ってみてたらあんた。洗脳でもしたの?」
「え!? 違うよ!!」
マニは私を睨む。そんな目で見ないでほしい。
「流石オリヴィア様ですね……。セレイア様に続いて、ですか」
パウロは感嘆の声を漏らす。
いや、その前に横の水の神様を停めてもらってよろしくて? 今にも殺されそう。
「マニぃ、落ち着いてよ。オリは女たらしなんだよ」
それはちょと違う……。
フォローになってない。
「何を言ってるんだ、マリ」
猫から人化しながら欠伸をしつつ、ヴェレーノが、
「天使たらしで悪魔たらしでもあるぜ。女性だけじゃなくて皆メロメロだ」
こいつまでか。だから火に油をたらすな。
この場は次の街で晩御飯の奢りということでなんとか落ち着いたのだった。
星異物 雷ノ摂理
異なる星のスキル。神しか出入りできぬ星のものらしい。
この星に訪れた彼女は優しくこの世界を支配した。
だが、甘い悪意に襲われ、天使になった。
いつか故郷に帰られることを願う。森の国、マカル・ラシに。
鋭夜片ノ闘刀
昏い月夜の底の武器の異名。参鬼の一つ。
丁寧に彫られた文字は『黒鬼』。
高い技量を必要とするが、獣だろうと、悪魔だろうと一太刀で切り裂くだろう。
昔の持ち主は崇高なる悪魔の長で、直下の部下の亡骸を武器化してもらったもの。
鍛冶師がオニを見て武器にしたとき、何を考えたのか。
三体の堕ちた竜の逸話か、はたまた悪魔を討つ手段か。
この武器はとても魅力的で、それは運命と呼ぶに相応しい。
命喰雷ノ呪刀
蒼い空に泳ぐ武器。参鬼の一つ。
丁寧に彫られた文字は『蒼鬼』。
強き信念を必要とし、それは天使や、神に特効を持つ。
昔の持ち主は遥かなる神で、己を倒すために所有していたとされる。
彼女は幻言に惑わされ、配下に堕ち、そして雷を扱うようになった。
彼女の優しさは、いつか光に隠れてしまった。
世界観に似つかわしくない説明文になってしまったので以下に説明を書きます。
駒返────オセロのようなボードゲーム。それぞれの魔力の結晶で塗り替え合う。
札合────カードゲームであるトランプの大富豪のようなものをするためのもの。この大陸、スツェーナ大陸でも愛されている。
2026/04/08、不自然な会話文を訂正しました。




