☆槍☆
氷鱗蜥蜴を目標数倒した。
胸に刺さったトゲは抜けずにいるが、ましになってきた。
その死体もまた回収してギルドに持って帰る。
何やら騒がしい。ゆっくりと扉を開ける。
「────だ!! 人が死ぬ可能性のあることをお前はしたんだぞ!!」
響き渡る怒声は受付から聞こえてくる。慌てて駆け寄って、
「喧嘩はやめてください!! 何があったか教えてくれたら私たちが救出しますので!!」
と言った。
「そうだ。何があった?」
イオアンも続いてそう聞く。すると怒声を受けていた人が、
「……良かった────」
とぼそっと呟いた。それはとても安堵している声色だった。
「この方々ですぜ!」
椅子に座っていた男がズカズカと歩いてきて怒っている男性に言った。
コイツ今までビビっていたな? 足震えてるで?
「は────?」
何が何やらわかっていない怒っていた男性。
「イオアン様御一行ですよね、無事でご帰還できてよかったです」
受付嬢は泣きそうな表情でそう言った。
「そうだが、なぜアナタはこの方に説教をしていたのだ?」
「この受付が竜のことを教えなかったと言う話を聞いたのです。とても危険なやつなのでもし何かあったらどうするのだ、と」
ほう、なるほど。
「竜っていうのは?」
「はい、黒竜カンです」
黒? なんかそれっぽいのは倒したな。
「はるか昔からいる竜で、背中に刺した音の武器で少しずつ倒すという消極的なことしかできなかったそうです」
チーム全員と目が合う。みな思っていることは一緒らしい。
「なんか竜は倒したよ」
「え?」
ここにいる全員の目が点になっている。
「外来てもらっても良い?」
状況がよく分かっていない彼らを外に連れ出す。そして仕舞っていた竜の死体を出す。
ズドンと大きな竜の骸が道を占領する。
「え……?」
驚愕していたが、すぐに、
「騒ぎになるので仕舞って!!」
男に言われて再びしまう。
「失言でした!」
コイツ忙しいやつだな。しかしコイツが『黒竜』か。かっこいい名前だ。
べつに『ですます』なんて要らないのだが。私だってまだ子供だし。
「英雄様方、国に報告してもよろしいですか?」
『イオアン様御一行』から『英雄様方』か。ふむ、まったくいい気持ちだ。
「してくれて構わないよ」
イオアンが許可を出す。そして顔が一気に華やいでいった男。
「感謝します、では任務お疲れ様でした!!」
いそいそと何処かへ行った。そして受付の人が深々と頭を下げて、
「ご無事でなりよりです。私の不手際で危険なことになってしまったこと心より謝罪いたします」
「いや、倒してしまったから問題ないよ」
そして目で私に合図を送ってきた。
「これが氷鱗蜥蜴です」
氷鱗蜥蜴を提出する。
「ありがとうございます」
量に驚いていたが、助っ人が来てサクッと数え終えた。
「これが報酬です。すべて銀貨です。金額はひとり400枚が8袋。後で竜の報酬が来ます」
ドサッと置かれたお金の山。たくさんの袋に大量に入っている。イオアンが一つ取って、
「アタイはこれで十分だよ。竜の報酬はあんたらで山分けしな」
銀貨をしまっている。
「ちなみに竜の報酬はいくらになりそう?」
私がそうきくと、受付の人は何かを取り出してそれを見せながら
「氷鱗蜥蜴の10倍の報酬は堅いですよ」
と教えてくれた。
「金額はどうでも良いんだ。アタイはこれで十分すぎる」
すごい欲のない人だ。強いのはそういうのもあるのかもしれない。
ここにいるのは私、マラ、マリ、ヴェレーノ、マニ、パウロ、イオアン、ラミエルの8人。
それで8袋なのだろうか。ただ私たちの陣営が6人を占める。そうなるとかなり不平等じゃないか?
「ラミエルは何個ほしい?」
一応聞く。するとラミエルは
「悩む必要あるか? ここに8人なんだから一人一袋が妥当だろう?」
と即答した。
「わ〜い!!」
嬉しそうにマラも一つ取り隠れて中身を見ている。
隠れる必要ないよ? 魔力感知で全部バレてるよ。
「それでいい?」
そして揉めることなく報酬を分けたのだった。
「報酬はどうでもいいんだが、一応聞いたほうがいいんじゃないか? まあお前に任せるがな」
ラミエルが私に向かってそう聞いてきた。それは槍のことだろう。
「そうだね。あの、これ竜に刺さってたんですけど」
槍を取り出して見せる。
「貰っちゃっていいんじゃないですか? たしか"戦った魔物の武器防具を含む全てのものは貰っていい"と大陸法に書いてあったはずですし。あなた様に任せますよ」
よく槍を見ずにそう言ったのは数えるのを手伝っていた助っ人だ。この人の名前はカウンというらしい。
ありがとうと言って槍をしまう。
「っと、次の任務のお願いしても良いですか?」
それにピクリと反応したイオアン。
「なんだ?」
コイツが強いのって無欲だからじゃなくて戦闘好きだからじゃない?
「塔攻略……いや違いました。これです」
出された紙を読むと『堕霊の討伐願』と書かれていた。
「堕霊はご存知ですか?」
「うん」
うっかり私が答えてしまった。
「よかったです。この国でちょくちょく発見される中位堕霊の討伐願です。最近は下位堕霊の発見例も増え、その討伐で精一杯なのですが、さらに上位個体が現れたのです」
なるほど、上を討てということだ。そう言ってくれればいいのに、と思ったがよく考えれば堕霊は常識外の存在だった。
「いいだろう」
尊大な態度でイオアンが受注する。
「感謝します。これが対堕霊特攻用のスキル伝書です」
そんなのあるのか。便利な国である。そして2人で、
「黒を灯せ。島を救うために」
といった。なんかむず痒い気持ちを抱えてギルドを出る。
そしてわたしたちは堕霊がいるという場所に来た。
そこは古い遺跡がある場所だ。山に近いが、塔の反対側だ。
街の中にもあった塔が乱立していてはるか昔にここに人が住んでいた跡がある。
蔦に覆われた石柱はまだ白さを保っている場所もあるが山に近づくほどに黒くなっている。
その色のコントラストがとても雰囲気に合う。
みんなで歩いていくといつの間にか広場のようなところに居た。
「来たんだぁ」
ゆっくり現れたのは中位堕霊だろう。
「みんなぁ、出ておいでぇ」
ゆっくりとした口調で指を鳴らすと周りから同じような強さの中位堕霊が現れた。
「もう呼ぶか」
現れたのは自信にあふれた堕霊5人。私たちは覚悟を決めてスキルを発動させるのだった。
公爵が住まう居城の息子の私室で。
頬に走る激痛に耐える一人の少年。
「何度言ったらわかるんだ!」
公爵の怒号が響き渡る。公爵の名をランカ=ルトナと言う。この島を統治するその人だ。
「ごめんなさい……」
恐怖に震えながらただそういうことしか出来ない少年の名はゲネミン=ルトナだ。
「礼儀も、作法も、戦闘も、政治も、芸術も!! お前には何も出来ない」
メイドもまたいつ公爵の怒りの矛先が向くかわからない恐怖を抱えている。
全てを掌握する彼を怒らせればどのような処罰を受けるか、わからない。
「本当にダメなヤツだ。穢れた魔法使いがなぜ生まれてしまったのか」
母はストレスであっという間に他界した。死因は自殺だった。
それで酒と煙草に溺れた公爵は全盛期の見る影もない。今は公爵を止められる人物など居ないのだ。
「おい、コイツにまた一から教えろ」
メイドは一斉に礼をして公爵は満足げな顔で部屋を出ていったのだった。
参鬼
3つの鬼の武器をまとめて呼称。それぞれ鬼の名を冠するが今はよく分からない。
知りたいならこの武器を打った鍛冶師の国に行くと良い。
遠くともその真価をとくと見たのだから。




