☆鳴☆
目覚めの悪い朝だ。とんでもない夢を見た。
いつもの鍛冶屋にあの天使が持っていた武器は参鬼のうちの一つではないか、と興奮気味に言われた。今は調べてもらっている。
そして、ステージに帰ってからマニに、
「噂を聞いた? 災厄が来るっていう」
災厄? そんなの聞いてない。
そもそもそういうのはあまり興味がない。
「いや、知らないな」
私は素直にそう伝える。
「そうか……」
残念そうな彼女に私は、
「詳しく教えてよ」
というと、それに喰らいついて
「うん、"黒"が降るらしい」
黒がふる? まったく想像ができない。
「ふ〜ん、なんかわからないや」
マニも良くわかっていないのか曖昧に頷いている。
「あ、でもね、次の私たちの派遣先に深い関わりがあるよ!」
そして今私たちは船の上に居る。
勝手に依頼を引き受けたのはどうでもいいのだが、まさか帰って休暇もなくこんなところに来ることになるとは。
何がバカンス堪能しておいで、だ。ふざけるのも大概にしてほしい。
マニはこの船に興味津々だが、この船は私たちも乗ったことがあるはずだ。マニは、いや居なかったか。
あれが最後の母の笑顔だった。写真も何も残ってはいない。
腹の底にドスンと黒い何かが落ちて深呼吸で整える。
思い出そうにも思い出せない。それは呪いのように私の行動を制限している。
別に母を恨んでは居ないし、色々なしがらみから解放されたとポジティブに捉えている。
なのになぜか後悔している。
深呼吸がそれらを散らばしてまだ痛い。後悔する必要など、無いのに。
「大丈夫?」
マニが私の沈んだ顔を覗き込んでそう言ってくれた。その時、船員が、
「酔ったのだろう。ゆっくり休んでいると良い」
ありがとう、と伝えて私は船の中へ戻る。
「お前もいるのか!」
船の扉を開けると目の前に居たのはともに戦場を走った仲間、イオアンだった。
その横にはラミエルが立っていた。
「久しぶり!」
私は少し嬉しくなった。
「アタイが来るほどの任務なんだ。さぞかし大変なのだろう!」
なぜ大変そうなのに嬉々としているのかわからない。まあ、強者も大変なのだろうけど。一旦そういうことにしておいて、
「なんか、変わった? ラミエルさん」
「『さん』をつける必要はない。あなたはもう馬鹿にされるような人間ではないんだ。対等だよ」
「そっか、ラミエルなんか変わったね」
ラミエルはなぜか顔をしかめたが、私にはもう何が正しいのかわからない。
「……まあそうか。より雷を使ったからかな」
ラミエルから感じるのは私と同じような感覚。そしてパウロにも似ている。
「足を止めさせてしまったな、すまない。もうすぐ着くだろう、部屋でゆっくり休むと良い」
私はイオアンたちに一礼して部屋に戻る。
ついに降り立ったリゾート地、ルミヤーナ。
ここは独立した国である。その名をルトナという。正式にはルトナ公国、つまり公爵統治の国だ。
雰囲気のいい街であり、多くの貴族らの別荘がある。
私もその街並みに衝撃を受けた。街の中心の噴水と時計塔。
中心にそびえ立つルトナ山がみえる。
さらに奥には大きな城も見える。あれがおそらくルトナ公爵の居城だろう。その城の近くに大きな塔もある。あれは特別な祭りとかで使うのかも。
等間隔で植えられた木は丁寧に手入れされ、生き生きと葉を伸ばしている。
というのに、ここの住民たちはそれを見ようとしない。顔を下に向けてただ歩く。
とてももったいない。
この国は国教を定めていないから、そういうところで皆が暗く見えるのかもしれない。こんなに白い街なのに。
「貴方がたは旅人ですか?」
一人、私に声をかけてきた。今回はみんな引き連れてきた。
「ええ、まあそうね」
そう言うと彼は接客用の笑みを浮かべて、
「この街では行動自由を保証されて居ます。もしお時間に余裕があるのなら、この街の魅力である中央篝火を是非見ていってください。旅人ということですので、間違っても森には近づいてはいけませんよ」
と教えてくれた。
「うん、大丈夫だよ。あ、でもこの国から森の調査を依頼されてきたんだけど……」
そういうと驚いて、
「え、貴方がたはステージ王国からいらっしゃったのですか?」
「ええ」
私はそう頷く。合点がいったように、
「なるほど、ではこちらに」
彼に案内されるがままに進んでいく。時折とても古そうな石柱が見えたが、そういう街のアクセントなのだろう。
とてもマッチしていて歩いていて楽しい。
何分歩いたかは分からないが、あっという間に着いたようだ。
「英雄様がいらっしゃいました」
ここはどこだろうか。
「ようこそ、ギルドへ」
嘘だ、こんなギルドあるのか?
ギルドというよりかは高級ホテルのような豪華さがある。
「貴方がたがイオアン様一行ですね?」
イオアンがリーダーらしい。
まったく情報がなくてさ、知らんかったわ。だから船が一緒なのかと理解する。
そして任務の内容報告に入った。
『増えすぎた氷鱗蜥蜴の駆除』
拍子抜けであった。当時だからこそ難しい任務ではあったが、高ランクとなった今では難易度はとても低い。
説明が終わると私たちは了承し、詳細な任務地を教えてもらった。そして、
「黒を灯せ。島を救うために」
「それは?」
「この島のお祈りのような言葉です。気をつけてください、のような感じでしょうか」
そういうものなのか。
その時、いきなり脳を圧迫されるような痛みが走る。電気のように私の中を記憶が駆ける。
空に浮いた身体。モノクロの世界。操る白黒の炎。二人の、影。
「大丈夫ですか?」
受付の人にそう聞かれる。
「少し、頭が」
「もしかして、『記憶流れ』じゃないですか? この島を訪れた人にまれに起こるとか」
「もしそれならそうなのかも。知らない思い出が……」
そういうと考え始めて、受付嬢が一つポツリと言った。
「私、始めて見たのであまりわかりませんが。もし気になるのなら記憶を思い出させるための専門技術がいらっしゃる施設をお教えしますよ」
そしてその詳細も貰った。
「ありがとう、いってくるよ」
「あ、忘れてました。これを持っていないと森に入れません」
そう言われて差し出されたのはペンダントであった。
それを首から下げてギルドを出る。
「オリヴィア、大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込んでくるヴェレーノ。
ピクピクと耳が揺れている。
「うん」
「そっか、よかった」
嬉しそうに顔をほころばせて、しっぽも揺れている。
「さあ行こうか」
イオアンの声で私たちの森の氷鱗蜥蜴駆除がはじまった。
森の前には明らかな結界があり、それに恐る恐る触れると水面にゆっくり指を沈めた時のような感覚であった。
森の中に入ってしばらくすると山のように氷鱗蜥蜴の死骸が積み重ねられていた。
「すごいね……、宝の山だよ」
捨てられている理由がすぐに分かった。
そのすべての甲羅に大きな傷があるのだ。
「これは雑に狩ったんだね、かわいそう」
確かに甲羅の傷は広く深い。屈んでよく見ると、ひび割れているし、中身がない。
「これは中身の肉だけ持ち帰って売ると言った感じだな」
それは、どうなのだろうか。倫理的にも、効率的にも。
「私たちも行こうか」
立ち上がって私たちは進んでいく。
そしてすぐに川を見つけた。氷鱗蜥蜴は水場を好むことは経験上分かっている。
「この辺だろうな」
イオアンは大弓を取り出して弦を引く。
もう見つけたらしい。慎重に弓を引き、矢を放つ。
それは容易く甲羅を貫通し、地面に刺さった。
「すごい」
マニが感嘆して声を漏らした。
「来るぞ」
え、と声を漏らす前にそれは目の前に現れた。竜だ。
まだ見つかっていない。イオアンは新しい矢を装填して頭を狙っている。
弦が放たれそれと同時に勢いづいた矢がその頭に命中する。
鮮血が水場にたれて川が赤くなる。
激しい咆哮とともに闇を吐いた。苦しそうな声を漏らしながら。
その闇は木々をなぎ倒していく。私たちは簡単に避ける。
「グルゥオォオ!!」
翼から大きな闇の塊が放たれる。
避けると、地面にクレーターが生成される。それだけの威力だ。
イオアンが避けながら槍でダメージを与えていく。直ぐに翼を槍が貫通する。
竜の翼に穴を開けたことで飛べなくなったらしい。
私も近づくが私が持っているのは鞭と刀と初期の直剣だ。大きな竜は地面に向けて闇を吐く。
そして体の下へと潜り込んで鞭を振るう。これ効いてるか?
鞭は基本人との戦いに向けて作られていてあまりこういう場面で使うものではないのかもしれない。
イオアンたちは竜のブレスを避けながら各々の武器で攻撃を与えている。
身長が足りなくて胴体に攻撃が与えられない。
どうしたら役に立てるだろうか。片刃剣なども比較的短く、リーチが広い竜には向かない。
どうすればいいだろうか。
「五輪能力 掃除屋!」
風の刃を撃つが分厚い鱗に阻まれてこれも決定打にはならない。
(サヴダシク、ルーヴァリック、いる?)
私はサヴダシクに話しかける。すぐに反応がきた。
(今ワタクシは忙しいのです。申し訳ありません)
すごい言い訳だ。
まあ良い、少し和んだおかけで天啓が下りた。
(手伝いますよ!!)
勝手に出てきたコイツはまぁどうでもいいといえばどうでもいい。
「聖遺霊 聖炎ノ溶戮」
ドロっとした炎が竜の上から降ってくる。
その熱さに暴れる竜だが、私は天啓に従って尻尾を切り落とす。それを頂戴してスキルで背中に飛び乗る。
飛ばなくなったおかげで背中にしがみつきやすくなっている。
どこに片刃剣を突き刺そうかと悩んでいると先客を見つけた。何かがぶっ刺さっているのだ。
それを握ってそのまま引っこ抜ために踏ん張る。
炎でただれた皮膚に触れる感覚はとても気持ち悪い。
ただ痛いのは分かるから早めにとどめを刺してやらなければならない。
スポンと引っこ抜けた槍を仕舞ってその傷口に武器を突き刺しそうとする。
グッと心が痛むような感覚がして一瞬怯むが、仕方ないと自分に言って背中を斬り裂く。
黒色の冷気が噴き出す。それを見た瞬間なぜかとても魅了された。
(我慢して!!)
私の心の底から聞こえるその声は誰のものかわからなかった。
噴き上がりそうな欲望を無理やり抑える。
「本当に大丈夫なの?」
イオアンが私の背中を擦りながらそう言ってくれた。
「ごめん、竜の背中思ったより酔っちゃった」
「ハハ、竜酔なんてなかなかないぞ」
深呼吸をして落ち着かせる。
「これは?」
マニが私が左手に握っている槍を見て聞いてきた。
少し落ち着いてきたから、
「これ、竜の背中に刺さっていたんだ」
ふーん、と返事をして、
「さすがだね、お姉ちゃん。よくあんなやつを倒したね」
目をキラキラさせてマニはそう言った。
「マニたちのおかげだよ。竜の囮になってくれていたから」
そう言うとマニがムスッとして、
「え、それバカにしてる?」
といった。それがイオアンのツボに入ったのか大声で笑った。そしてひとしきり笑ったあと、
「よし、氷鱗蜥蜴狩りに行くか!」
と言った。
そして竜の死体を回収してから再び氷鱗蜥蜴退治に向かうのだった。
記憶流れ
はるか昔の記憶が想起される、この島独特の人体異常。
ひどい痛みとともにそれは流れる。濁流のようなそれは前世の記憶とも言われている。
思い出したくない記憶なのに思い出そうとするのは人間らしさだろうか。きっと思い出して良いことなど無いのに。
鳴槍
12種類の妖器の一つの原核となる武器。
この武器はまだ未完である。故に槍となっている。音を発することで突き刺した状態だと体内を破壊する。
それはもがき苦しむような痛みである。それを完成させたとき、それは黒き炎を宿した欠けた月となる。
槍の時でも十分強かったが。




