☆刺客☆
久しぶりのこの背中だ。安心感が違う。
アゴーン森林への道のりはそんなに長くない。多分、2時間もあれば着く。
地図を広げてどの辺りでお昼ご飯を食べようか考える。目的地に近すぎるわけにも行かないし、ちょうどいい草原でもあったらそこで食べよう。
ヴェラへの遠征のときに貰った絨毯を野外用にすれば土に座る必要がない。完璧過ぎる。
そこから何十分か経った。すると大きめの草原に出た。バーン草原である。
バーン草原は首都ステージを含めたエリアで今いるのは首都から少し離れた場所。
ここでもぐもぐタイムとしよう。
「そろそろ休憩しようか」
私がみんなに聞こえるようにそう言う。
マラとマリはゆっくり減速して背中を下げる。お礼を言って集めておいた薪に火を付ける。
これまた探索してたら見つけたお皿や鍋を用意する。
ドロボウなんて失敬な。良いか悪いかを聞かなければ大丈夫。まぁ事前に『だめだ』って言われていた場合はもちろんダメだけどね。
余った竜の肉を調味料に浸してそのまま鍋にぶち込む。
そして煮込んだら完成だ。
マニが興味深そうにずっと私の料理を見ていたが後半は飽きたのかマラたちと遊んでいた。
「出来たよ〜!」
みんなを呼んで絨毯の上に座らせる。
お皿に盛った料理を配ってみんなで食べた。
バーン草原はアゴーン森林と面していてあと三十分もあれば着くはずだ。
食べ終わったお皿をスキルで洗って乾かす。『料理屋』は便利である。
「さぁ、出発しよう!!」
今度はマラとマルに乗らせてもらって目的地に向かう。何やら三人で言い合っていたが、落ち着いたようだ。
やはり無理をしているのだろうか。歩いていったほうが良いのか……?
でもそれを聞いたら三人は口を揃えて『乗って!』と言っていた。
しかし、直接だと言いにくいか。次は歩いて行こう。
そんなこんなを考えていると頬に葉っぱが当たった。もう森の中に突入していたようだ。
「そろそろだよ」
先行を行くマリがそう言った。
ヴェレーノも人化し敵の雰囲気を察知したみたいだ。
「静かに」
マニがそう言って草の中に入って行く。
背中から下りてマニの横に行くと旅人を襲う複数のゴブリンが居た。
私は思わず草陰から飛び出してカタナを振るう。あの片刃剣はまだ少し早い。
一人のゴブリンの首を斬り落としたが、他は避けられた。
「あ、ありがとう!!」
後ろの旅人は貧相な武器しか持っていなようで、ゴブリンに決定打を与えられていなかったようだ。
確かに少し硬い気もする。
「早く後ろに下がって。マラ、この人の防衛をお願い」
「おーけー!」
元気な声でマラが旅人を掴んで森の出口に走っていく。
前のゴブリンは水の四つの刃のついた投げ武器を使ってくる。
初めてみたその武器は小さく、だけど対人用のようだ。
「掃除屋!」
カタナに風を纏わせる。そしてその勢いで二人倒す。
丸太をそのまま持ちやすくしたような太い棍棒を振り回される。
その隙をマニが背中を斬り裂く。
ヴェレーノがさらに一人を爪で搔き殺す。
マリとマルは2人でサクッと残りを倒した。
あら、強くなりすぎたかしら?
討伐の証拠としてゴブリンの頭を持ち帰らなければならない。仕方なく頭を収納して旅人の元へと行く。
「ありがとうございました!」
頭を深々と下げてお礼を言ってくれた。
「それにしてもとても強いお方ですね!! ランクにも納得です!!」
その言葉に少し照れる。
「そんなこと無いですよ。武器のおかげという側面もあるので」
私がそう言ったら私の腰を見て、
「確かに素晴らしい武器だ思います。妖器かと思いました」
あ、多分そっちじゃない。今回使ったのは今までの武器と同じヤツだ。
だけど確かに強い武器なのだろう。なにしろ城の奥に大事そうに仕舞ってあったモノなのだし。
「ちなみに街ってどの方向にあるのでしょうか?」
その言葉に一番最初に反応したのは意外にもマリだった。
「一緒に行く? ね、オリ? 私たちは乗せていってもいいよ」
それはアリだ。圧をかけているのか後ろのマラとマルに視線を送っている。
「私は良いと思うよ」
「よろしいのですか? ぜひ!」
と言うことなのでマリに私が乗り、マラに旅人を、マルにマニが乗り込んだ。
すぐに目的地に着いた。首都ステージの近くであろう。
「で、どうするの君は?」
マリが私を下ろして旅人にそう聞いた。どういうことか一切わからない。
『どうするの?』とは何だろうか。
「ほら、早く言わないとコロすよ」
いきなりの発言に注意しようとすると、
「バレてたんですか。その宝刀、返してください」
周りは暴れてもいいと判断できるほどには広い。
私の片刃剣を指差してそう言うとなるとヴェラの貴族か何かなのかもしれない。
「コロさないように、時間を稼いでくれ」
私はみんなにそう言ってギルドに連絡する。
応援が来るまでに拘束して連行しなければならない。
だが人数が多いということも考えると苦戦はしないだろう。
「信託 恩雷の誓い」
周囲に雷がおちてくる。それを避けつつ近づいていくが隠していたのであろう弓も追撃してくる。
偏差の攻撃の雷と真っ直ぐ飛んでくる弓矢の回避が大変だ。だけど、それだけ。
「掃除屋」
飛んで逃げつつ弓矢を撃つ向こうを風で動きを制限する。
戦闘経験は少ないようだ。
「信託 恩雷の誓い!!」
焦っているのが雷の動き方でよくわかる。
やはり貴族のようで実戦投入などされずに模擬戦しかやっていなかったようだ。
模擬戦も良いのだが、やはり緊張感に欠ける。
とくに貴族相手ならわざと負けてあげるということもよくある。出来試合と言うやつだ。
「掃除屋」
雷を風が巻き取って掻き消す。
「なんで……」
『なんで』か。まさか言われる立場になるとは思わなかった。
『なんで』ということは思考を放棄しているのを意味する。ヴェラの預言者に味方の一人が確か同じ言葉を吐き捨てていた。
「なんで、とは?」
マニが歩み寄ってそう聞く。
「そこまで、強いんだ」
強いのは分かっていたはずだ。だって目の前でゴブリンを倒してみせたのだから。
だけど彼は私に刃を向けた。数的な不利だってあるのに。
「『なんで』だっけ? 私には守るものがあるし、戦うしか無いんだ」
私に重ねるように叫ぶ。
「アンタは貴族だろう!? ステージの中でも高貴なはずだ!! なぜ血みどろな戦いに身をおいている!!??」
「私のスキルは貴族にそぐわないようだからね」
「はは……、どこの国でもみんな貴族とやらは醜いようだな……」
どうやら彼にも嫌な過去があるのかもしれない。
少しの沈黙のあとすぐに警備隊がやってきた。
彼は連行されたが私は訴訟の権利を放棄しておいた。だから極刑とはならないはずだ。
彼の言葉が頭をグルグルと回る。
「帰ろうか」
なんとか絞り出したその言葉にみんな頷く。
静かな帰り道だった。
妖器
世界に十二種類ある武器のカテゴリー。
魔物や幻影に特効を持つ。
それぞれを作った鍛冶師は同じとされている。
鍛冶師の死後、模倣するために持ち帰った弟子がいたが複製することは叶わなかった。
その後戦争により各地に散らばったその武器たちは今もまだ主を待つ。




