☆実験☆
ギルドマスターに何故か呼び出されたのだが、心当たりがないわけではない。
でも違うと思いたい。
「ヴェラの洞窟に潜ってほしいそうですよ」
だけどこういう時は往々にして肩透かしを食らうものだ。
今回もまた然りという話だ。
「うちのギルドは何でも屋ですか?」
あ、やべ。思ってたことがつい口から出てしまった。
元来ギルドとは国から独立した国民防衛団体だ。なのに国からのお願いが私に回ってくる。
「そうじゃないんですが……」
ギルドマスターも困っているようだ。他のギルドではここまで国に扱き使われることは少ないそう。
恐らくここが貴族の統治だというのも絡んでいると思う。というのも、この国で三つある国の直接管理外の地域なことと、この地域唯一のギルドということもある。
三つの貴族、それぞれマーサ家、ルミーナ家そしてキスラ家。それぞれが各々の名字を冠する地域を管理している。
それ以外の土地は完全に国が直接完結しているのだが、国のために献身した祖先がいるということで自治が認められた。
国として民の安全は守らねばならないため、ギルドを通して安全を図っているのだろう。
「でも、今回はマーサ家の領土じゃないですよね!?」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるギルドマスター。
「うちのギルドが一番近いですから……」
焦って言い訳をしているようだが、そんなことはない。少なくとも一つは近いところにギルドが設置されていたはずなのだ。
「いや、無理ですね。アナタのチームの実戦経験をやはり育てるべきだと思いましたからこの仕事を請け負ってきました」
観念したようにこの依頼の裏事情を語ってくれた。
「というのも、武勲をあげてくださった貴方がたは今後は英雄の一人として謳われるでしょう」
嬉しいこと言うじゃんスか。
「さらに今後の有事の際にはきっと声がかかります。となると腕を鈍らせぬわけにはいけないのです」
すげぇわかりやすい。なるほどね。
「わかりました。明日から向かいます」
そしてこの任務を請け負うことが決まったのだった。
国が乗っ取られた。戦争の敗北、そして軍の殲滅。
私の出る幕はなかった。
「シャイターン様、どこいきましょうか……?」
暗がりで私に声を掛ける女性。顔が敵兵に割れている可能性がある彼を連れてステージに行くのは愚かだろう。
だが生き残ったのは私達2人だけだ。さらに言うなれば別に未練などカケラもない。
国が崩れてもどうでもよかった。
「どこ行こうか?」
私は染み付いた『隠密会話』で会話を続ける。
『隠密会話』とは目的の人物とだけ情報交換をできる特殊信託。
「アーガとかどう?」
アーガ。少し遠いという欠点はあれどアリだ。
自分たちの実力を完全に隠せば安らかな暮らしを営める。
だが、致命的な問題点がある。それは難民に該当しているということだ。
つまり、出身国が不明な状態で引っ越しなどすれば常に警戒されるだろう。入国できるかすら怪しい。
だけどヴェラの国民だと言うと難民であることを条件に入国許可が下りる。そのかわり、武装は禁止で没収そして廃棄される。
いま、ヴェラに優しいのはステージのみだ。
ステージは難民保護が手厚く毎日の食料や日用品の配給、住宅の賃貸など。
さらにギルドに加入すれば身分証明をしてもらえる。
「いや、ステージだな。やはり」
そう結論がついた。
「ステージですか……? あの国に頼るのですか?」
彼女は反対のようだ。まぁ無理もない。
幼少期から叩き込まれたステージの悪口を鵜呑みにしているのだから。
「仕方あるまい」
私が命令すれば彼女は従うはずだ。だけどもう私はそんなしがらみを投げ捨てた。放棄したのだ。
だから今日から彼女は友人だ。
「貴方様に従います」
思ってたものとは違ったが、彼女がついてきてくれるならそれで良いというわけだ。
私たちはステージに向かって歩を進めることにしたのだった。
今回は4日にかけた遠征になりそうだ。ステージが宿を用意してくれたおかげでかなり楽に旅ができそう。
さてと、準備も整ったし出発するか。
「うぅ……、早すぎなぁい……?」
早朝に相変わらず弱いマニが目をこすりながら荷物を背負っていた。
朝と言うには早すぎたのかもしれない。時刻は3時半。徒歩移動だから少し早くでたほうが良いと考えたのだケド。
「そんなことないよ。さ、いこう!」
マラたちは早く準備が整ったようで外で待っていた。
獣の姿になっていた彼らに声を掛ける。
「今日は歩いていこう。いつも乗せてもらってるからね」
そう言うと、衝撃を受けたかのように固まった。
あら? どうしたんだろ。
「わかったよ」
人の姿になったマリが私に近寄って言った。
マラとマルも渋々と言った感じで人化してくれた。
ん、もしかして考えすぎだった?
「明日は遠慮せずに乗ってね」
私の耳に囁くマリは心の底から言ってそうだ。
「良いの?」
「もちろん」
驚きだ。良かった、迷惑かと思っいるのかと勘ぐりすぎたみたい。
危ないようなことはなく、目的地の洞窟のあたりに来た。山の麓の洞窟らしいが見当たらない。
登ったり降りたりして探し回るがどこにもないんですケド。
と思ったら怪しいところを見つけた。おそらくこの下だ。
「遅かったね」
いきなり声をかけられてびっくりした。
カタナに手を掛けるがその人の顔を見て驚いて固まる。
「トートさん!?」
この人派遣するってどんなダンジョンだよ。
「ふむ、ずいぶん活きが良いお友達だね」
一瞬理解できなかったが、上から降ってきた白い塊でその意味を知った。
「マラ!?」
トートは良い動きで攻撃を避ける。
「その人は仲間だよ!!」
私の言葉でようやく止まる。
そして物陰からマリとマルが飛び出して、
「仲間だと思ってたよ? いや、ホントに」
「そうそう、マラ早とちりしすぎぃ……!!」
いや、明らかに目が水泳してる。
彼らもいいタイミングで襲おうとしてたのだろう。連携がうまくなってる。
そしてさらにマニがやってきて何事もなかったかのように、
「助かります」
トートを知っているはずのマラたちがどうして襲ったのかは分からないが、確かにすごい怪しいことには違いない。
「さぁ、入るわよ」
なぜか何も触れずに洞窟探索が始まった。
拍子抜けもいいところ。
暗い洞窟の割には明らかに人の手が入っていて日記も落ちていた。
スキルの炎を暗闇に点在させる。何とか本を読める明るさになった。
その日記にはこの洞窟の大まかな地図とここでの実験についてのものだった。あて先は試験者。
十数分で読み切ったが、胸糞の悪い話だった。
『不貞の子』という機械の話で内容は戦闘搭載の機械は人間のような知性を持てるのかというもの。人工知能とでも形容しようか。
つまりは人間らしい機械を作るためにいろいろ画策していたらしい。
その骨組みとしてナニかを利用したというわけだ。そのナニかに関する詳しい記述はないが、その素材は引き取ったものということだけはわかった。
そして何人か派遣されたが、殺されてしまったそう。
そこからは狂ったのか文字が読みづらくなり、内容も支離滅裂になっていた。
紙はしおれていて毎日綴っていた日記の日付も飛び飛びになっていき、最後は楽可巻きのようになって完全に読めなくなってしまった。
「つまりこの辺りか……」
心当たりがあるのは地面の下の扉。同じ様な仕掛けが城にもあった。
そしてソレは当たり、扉を見つけた。
錆びついた蝶番いが嫌な音を立てながら封じ込められていた空気が解放される。
カビの匂いが鼻を刺す。鼻をつまみたくなる衝動を堪える。
「臭いわね」
顰め面になりながらマニが呟く。
「あら、そう?」
私たちが中に入るのを躊躇しているとトートはサクサクと歩を進めていく。
諦めてハシゴを降りて暗闇を照らしながら入っていく。
黒くなった血がところどころに染み付いてハエがそこら中にいる。
羽音が鬱陶しくなってきてみんな燃やし尽くして前へ進む。
壁には『警戒必須』『口外禁止』『ためらうな』『引き返すなら今のうちだ』などとなぐり書きされていた。
その警告を無視して進んでいくとすぐにいろんなものが置かれた少し広い場所に出た。
腐った死体は数えられないほど変形し、肉片になっていた。
今まで以上の腐臭が襲う。
そして複数冊の本ともう一冊の日記が机の上に置かれていた。
内容はより正確な実験内容の話だ。だけど専門用語が多いせいで全く理解できなかった。
ただ、分かったところだけをみんなに説明する。
「ここは機械の実験場。機械を複製して戦争での投入を期待していたようだよ。だけど相性のいい武具の実験の最中に間違って『煌聖』というものを持たせたらしい」
変形可能な光の武器。
「そして呼び名は『ザカート』。彼らは私たちの国との戦争の切札として前々から、詳しく言えば数年前から用意してたんだって。だけど、慌てて戦争が始まったせいで使えなかった」
とんでもない奥の手があったそうだ。
ここにあるすべての書物を一応収納しておく。
「私たちは大丈夫」
マリが覚悟を決めたように言った。
「どっちにしろ、行かなきゃでしょ……」
少しビビってるマニは覚悟を決めたようだ。
「じゃあ、いくか」
大きな扉を押し開けたのだった。
煌聖
光を放つ武器。
悪を引き裂くとされ、憎しみによって増大する。
バーダの者から盗んで持ってきたこの武器は何人たりとも扱えなかった。
機械にならば使えるのではないかと言う妙案に従って持たせたらしい。その実験は成功した。
とても醜い武器である。だけどそれは今もなお唯一の主に従い続ける。




