☆密入国☆
目を覚ました時には拠点に居た。
痛みはないし、目立った外傷はない。
そういえば治してもらったんだ、と思い直す。
「おはよう」
枕元に座っている美女に目が合う。
寝ぼけいるのかと思ったが、確かに美女だ。
「あっ……、イオアンさん〜!?」
あんな人いただろうか。
黒い髪は薄ら灯りに照らされてとても神秘的だった。
イオアンを呼んで戻って来る。
「気分はどぅ?」
体中の疲労は影もなく、気分もいい。
「大丈夫です!」
良かった、と安心したように微笑んでいる。
「さっきの人は……?」
決起集会にいただろうか?
申し訳ないが全く記憶にない。
「あぁ、彼女は敵だよ」
その言葉に幸せそうに寝ていたマニが目を覚ます。
「敵……?」
枕元にあった武器ではなく異次元収納をしていた鎌槍を取り出す。
「どういうことですか?」
「どういうことも何もそのままだよ」
彼女はイオアンの横でじっとしている。
「彼女を招待したんだ」
彼女は戦いには不向きなドレスを着ている。
だがちゃんと武器を持ち、戦えるようだ。
まぁ、彼女が決めたことだ。私がとやかく言うことではない。
そもそも敵陣営をスカウトする以上他の四人のリーダーたちは了承したのだろうし。
マニはようやく鎌槍を収めた。
「想いも寄らない奇襲を受けてしまったこと、そこに2人だけで派遣してしまったことを謝罪したい」
私は謝られるとは思わず焦る。
「いえ、とんでもないです。戦争ですので」
ここは敵地だ。
地形を知り尽くす敵陣営が搦め手を使うのは当然。
それを指揮官のせいにするのは違う気がしたのだ。
「そう言ってくれると助かるよ」
そう言ったイオアンにマニが、
「それについては私も文句ないわ。だけど本題はそれじゃないでしょう? 私達がねている間に何か決まったこととかあるんじゃないの?」
それを聞いたイオアンが驚いた後に口を開く。
「そうね。作戦が決まったからその説明に来たの。それは────」
決行日が来た。
サキエルが首都の防衛機構について調べていたらしい。
第一の作戦としてあった、一人が中から転送させるというもの。
能力断絶を持つ障壁によってそれは叶わなかった。
第二に敵を人数分狩って身ぐるみを剥ぎ、それを使って侵入するというもの。
時間がかかるということと、目立ちすぎるということで却下された。
最後に地面を掘る方法だ。
スキルカットとは言えども地面下は判定外だ。
だから時間はかかっても、確実ではある。
そんな時に敵陣営のマラッサが捕まった。
偵察員かもしれないが、利用できるのならば利用しようと言う話である。
と言うわけで、20名を護衛団としてマラッサについていかせる。10名を商団として、残りは地下から掘っていくことになった。
作戦の主要部隊は護衛団で、討つのは商団の予定だ。
私、イオアン、ケルビムは護衛団、マニ、セルフィムは商団、ラミエル、サキエル、アリエルは地面下部隊だ。
「健闘を祈る。其々己が為すべきことを為せ!」
そして3つの部隊に分かれた。
私たちのグループは門前にやってきた。
少ないが何団か列になっていた。
「其々の武器は異次元収納。あとは賄賂だな」
賄賂を渡せば早めに中に入れる。
実際はダメなので兵士に密告されることはないだろう。それが賄賂だし。
龍鱗は誰も思い出さなかったのか、もしくは下手に警戒されたくないのかの2択だが、私にとっては好都合だ。
戦争中に訪れる商人の数が少ないこともあり、すぐに私たちの番が来た。
ドキドキする。何度か深呼吸をして兵隊のところに行く。
「荷物を確認する」
私たちの上着を脱がせ武装を確認する。
皆が持っているのは短刀、小弓くらいだ。
リーダーが大剣を持ち、いかにも普通の武装をした。
「これは何だ?」
誰かの財布だ。少し血がついているのが気になったようだ。
「それは途中で襲われたのでその時血がついたのですよ」
納得して頷いている。
「何を売るつもりだ?」
「ですので、護衛です────」
イオアンが答えたのに重ねるように、
「ずいぶん高圧的ですこと」
マラッサが黒髪を靡かせて前に出てきた。イオアンも想定外だったのか驚いている。
「私の護衛よ」
設定を忘れたのだろうか?
他の人達もソワソワし始めた。
「貴女様は、マラッサ様!」
おっと、なかなかの立場があるようだ。
イオアンに習って跪いておく。
「失礼致しました。結構ですので是非お入りくださいませ」
あっ! 流れるような動きで賄賂まで渡してる!
「分かれば良いのだ」
なんとか首都に侵入できたがかなり目立ってしまった。
早めに宿を取って休もう。
適当な回復薬を荷物に放り込み、魔物の角や舌、骨も入れた。
それに武器は大抵隠し、小柄な武器と薄めの防具を着ただけなのだが、変に警戒されている。
「荷物を出せ!」
だからさっきから出してるだろって。
マニはイラッとしながらも従順に荷物を差し出す。
小さな鞄に適当に詰めたゴブリンの角が見つかったがそんなのはみんな持ってるだろうに。
「何を売る?」
てか誰だよ、この手押し車をたまたま持ってたやつ。
助かったけどたまたま持ち合わせているようなものではないだろ。
しかし、さっきから薬などを見せているというのにまだ隠していると踏んでいるようだ。
「本当は内緒だったのですが……」
サキエルが耳打ちをすると納得したように頷いて、何故か中に入れた。
「なんて言ったの?」
気になってそう聞くと、
「簡単だよ。シヴァ教について学びに来たと言ったんだ」
納得だ。
ヴェラのほとんどの人は夢中になってる宗教なのだ。
そう言われて悪い気はしなかったのだろう。
彼を尊敬し始めたのだった。




