Ⅳ
ただし、ここに思わぬ落とし穴があった
というのも肝心のその叔父は自身の功績により身を立てた者
生まれ持った身分としては高位貴族の出でもなく、家督を預かる立場にすらなかったのである
当然婚姻に対する考え方もそれを申し込んだ側の貴族たちとは乖離しており、同時に彼がたいそう姪に甘かったこともある
故に、それは分家の人間が決めることではなく本家の当主こそが決めるべきだという心算であり、そのことを社交界にて広く貴族たちに伝えていたのだ
しかし、ここでもまたファーレインと彼らとの認識に食い違いが生まれることとなってしまった
ファーレインとしてはあくまで『直接そちらに話を通してくれ』といった程度の話でしかなかったのだが、他の貴族家のものたちからすればそれは『かの聖騎士卿たる人物よりも上位の者の婚姻であるため、それ相応の相手でなければ到底認めることはない』との宣言に受け取られてしまったのだ
そのため、本来であれば互いに益がありリスクラッド家と家格が釣り合っていたはずのものたちが多く辞退をすることとなってしまった
そして当然のことながら、自領やそこに住まう民たちを愛するシリアは領主を続けるつもりであり、決して誰かにその役目を押し付けるような真似をしようとはしなかったのもある
かの聖騎士卿が出した条件に我こそはというような───そんな高位の人物であればあるほど地方の田舎領であるメイフェルベリーなどという僻地へと赴くことを厭い、またわざわざ婿入りをしてまで年端も行かない女性領主の補佐の座に収まることを認められなかったのである
肝心のシリアのもとまで届いた縁談話はそのほとんどが自領のためにならない条件のものばかりであり、当然見合いのための顔合わせが上手く行く訳もなく……結果、その全てに断りを入れることとなった
これを受けてシリアは自身にはあまり令嬢としての魅力がないのだろうと認識し、それ以降はその分の責務を自らが国や領地に尽くすことで果たそうと決めたのだというのが何とも皮肉な話である
おかげでここ最近では縁談話よりも商談や取引話、領内の整備などに力を入れていたわけであり、王都へと出仕することを決めたのもその側面が大きかった
───がんばろう
自らの足で
民たちと同じ視点で歩いてみなければ、本当の気持ちは理解できないというのは彼女の父の教えである
実際に今日これからの王都を歩く経験が何かの役に立てばいいと思いつつ、シリアはこころの中で小さく気合いを入れた
ちなみにこれは余談なのだが、
その社交界での『宣言』によって普段から姪御の話ばかりするのだという噂の聖騎士卿が、どれほどその人物を耽溺しているのかというのも知れ渡る結果となったことでシリアのみならず彼自身の縁談すらもさらに遠のいてしまったのだが、
それらの情報を国内で諜報活動を行っていた者たちに聞かされてなお当の本人は「むしろこれで余計な女性たちに煩わされることなく思う存分シリアを愛でる事ができる」などと喜んでいたというのだからもはや筋金入りである




