12★家長
私がこの世界に来て、最初に出会えたのが小鳥であったのは奇跡だろう。
何が奇跡なのかと言うと、小鳥然とした小鳥である小鳥に出会えたのが奇跡なのだ。
自分でも何を言っているのか良く分からない。
言い換えるなら、小鳥と言う単語で表現出来て尚且つ実像と想像に大きな相違が無いのが奇跡だと言う事だ。
そう思う程に、この世界で出会う動物は私の既知の動物から掛け離れている。
灰色の異形然り、棒人間然り、一つ目然り、目の多い小鳥然り。
私と棒人間が見つめ合うのを邪魔する様に現れた白い炎は、白い小鳥の形へと収斂した。
だがその細部は私の知る小鳥とは異なる点が多い。
まず目に付くのはその目が多い事だ。
顔の右側面に十数個あるその瞳は、その全てが連動して動いている。
そして足は三本生えていて、翼の関節が四つもある。
その翼は殆ど羽ばたいていないのに、その身体は宙に浮かんでいる。
「お父さん」
白い小鳥は私を見てケーと高い声で鳴いた。
別に歪んでもいない小鳥らしい鳴声だ。
その鳴き声に何やら修羅場になりそうな意味が聞き取れた。
「息子なのか娘なのかが気になる所だね」
「僕はお父さんとは性別の概念が異なるよ」
私の投げ掛けた疑問に対して、即座に返答が得られる。
この辺りのレスポンスは本家小鳥に似ている。
白い小鳥改め我が子は全く羽ばたかずにくるりと宙返りをした。
「お母さん以外は敵でいいの?」
「そうだね」
お母さんがどれを指すのかは分からないが、取り敢えず頷いておく。
私の敵にならないのならそれで十分だ。
「排除する」
力強い鳴き声と共に確固たる意志を乗せた宣言が下される。
同時に、我が子の瞳から黒い閃光が無数に射出された。
閃光の照射は一瞬で、音も無く多くの一つ目を貫いていた。
閃光の通った痕跡は指程度の太さを持つ穴となって残り、一つ目達は少量の血を噴きだした後に爆発した。
爆発したと表現したが、それは爆発とは全く異なる現象であった。
例えば右腕に痕跡が残った一つ目は右半身が消滅したのだが、その過程は細い穴に周囲の肉が吸い込まれる様にも見えた。
穴にその周辺の肉が吸い込まれ、後には何も残らないのだ。
そして終始無音であった。
消滅を免れた残骸が雪に落ちる音と共に、数十の一つ目が死んだ。
一拍置いて生き残りの一つ目達がざわめく。
その気持ちは良く分かる。何なのだろうなこの展開は。
生き残った一つ目の行動はほぼ二分された。
逃げるか、立ち向かうか。
立ち尽くした者がごく僅かだった辺り、非常に勇敢で訓練された者達だったのだと思う。
どの選択肢を選んだ所で、数秒後には誰一人立っていなかったが。
この世界で小鳥の形を持つ者は圧倒的強者であると言う決まり事でもあるのかも知れない。
と言う事は、逆説的に灰色の異形は小鳥の一種だったのかも知れない。
飛んでいたし。
そんな訳あるか。
さて、煩い一つ目の集団は全滅したのだが、未だ問題が山積みである。
「終わったよ、お父さん」
一つは私の肩にとまり嬉しそうに頭を擦り付けて来る我が子をどうするのか。
「……■■■■。■■■■」
一つは我が子が殺さなかった棒人間。我が子的にはこれがお母さんである様だ。
性欲が無くなったと言うのに所帯持ちになるとは夢にも思わなかった。
取り敢えず我が子の頭を撫でてやる。
よくやった。
我が子は嬉しそうに目閉じて、ケーと高い声で鳴いた。
我が子は戦闘能力が高い事も素晴らしいが、それ以上に話し相手になれそうな点も好評価である。
棒人間は本格的に用済みかも知れない。
食べるか?
私が視線を向けると、考えが顔に出ていたのか棒人間が一歩後ずさった。
先程頭部にあった薄紅色の瞳は消え去っていた。
何だったのだろうかあれは?
「お母さんも褒めて」
「■■■■……■。■■■■、■■■■■■。■■■■■」
小鳥が一鳴きして棒人間の方に飛んで行った。
棒人間は恐る恐ると言った様子で小鳥を受け入れ、慈愛に満ちた所作で撫でた。
語り掛けた言葉は全く意味が分からなかったが。
……片親と言うのも情操教育上よくないかも知れないな。
と言うより私にこの世界に則した教育が行えるとは到底思えない。
我が子は棒人間に託した方が良いのかも知れない。
そもそもの話だが、あれは私の子なのかと言う問題もあるのだがね。
例えば刷り込みと呼ばれる現象がある。
卵から生まれた雛が最初に見た物を親と認識すると言う現象だ。
我が子はその形が小鳥であるのだから、刷り込みが発生したとしても何の不思議も無い。
それに外見だけ見れば小鳥の子である可能性もあるのだ。
小鳥はこの場にはいないが、ひょっとしたら目に見えない卵を産んで行ったのかも知れない。
もちろんこの世界の常識は私の常識とは異なるのだから、いつの間にか私と小鳥或いは私と棒人間が交尾に相当する行為を行っていた可能性もある。
それに、直感的にはこう思うのだ。
これは我が子であると。
論理的な証拠は無いけども。
「賑やかな事になっておるな」
頭上から歪んだ鳴声と共に小鳥が降りて来た。
小鳥は私の頭の上にとまると、炎を吐いた。
雪の上に置いたまま存在を忘れていた一つ目の腕が、こんがりと焼かれた。
「食べるのだろう?」
小鳥が私の肩に降りて来て、小首を傾げながら問い掛ける。
「当然」
私は一つ目の腕を手に取ると、炭化しかかった皮を剥いで齧る。
味も食感も普通に肉だった。
面白味の欠片も無い。
「どうだった?」
「■■■共の大半は消し炭だ。持ち帰るのを忘れたが、ここに来たのであれば丁度良かった」
私が遠征の成果を問うと小鳥は愉快だと言って笑った。
取り敢えず愛想笑いをしておいた。
固有名詞が分からないので笑い所が良く分からないのだ。
ふと見ると、我が子が棒人間の後ろに隠れてこちらを伺っていた。
その視線は小鳥に向けられている。
「おっと、怖がらせてしまったようだな。お主はニンゲンと■■■■■とが■■した新たな種だな?」
小鳥はそう言って私の肩から飛び立つと、黒い閃光に抉られた倒木の上にとまった。
我が子は恐る恐ると言った感じで棒人間の後ろから出て来ると、私の目では追えない速度で私の胸に飛び込んで来た。
受け止めた私は後ろ向きにひっくり返り、両足を天に向けた間抜けな体勢で空を仰いだ。
胸元に張り付いて怯える我が子を両手で包んで、よっこらせと声を出しながら起き上がる。
その様子を見ていた小鳥はひとしきり笑ってから、天に向けて虹色の閃光を放った。
それはこれまで見た閃光の中で最も眩く、どこまでも太い閃光だった。
数十秒閃光を天へ放ってから、小鳥は神妙でありながらどこか皮肉気な雰囲気の目で笑った。
「山守りの務めを果たせ」
小鳥は棒人間に向けてそう言った。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!?」
「しばらくこの山を貸しておいてやる。覇権は我の物だがな?」
棒人間と小鳥が何か話しているが、色々な意味で内容が分からない。
「どう言う事?」
私は我が子に問い掛ける。
我が子は十数の瞳に私を映して、誇らしげに教えてくれた。
「お父さんが山の王」




