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 雑居ビルに入った古びたBar『Rhapsody in Blue』。そこについた時、僕は意外な気持ちになった。音無さんのイメージとあわなかったからだ。

 準備中の札を無視して重い扉開けると、最小限の光だけの薄暗い店内が見えた。


「おや? 結花戻ってきたのかい。鏡弥達と喧嘩したって聞いてたけど。それにまたお客さんが増えたみたいだね。うちはBarで未成年の来るような所じゃないよ」


 にやりと笑った女性がカウンターの奧から声をかけてきた。ボブカットの美人な女性に音無さんは照れくさそうに話しかけた。


「ごめんなさい。マキさん。ここに来たいって頼まれて……」

「まあ営業時間までだったらいいよ。優弥と鏡弥は二階だから、かってにしな」


 マキと呼ばれた女性は僕達を無視するように仕事に戻った。そろそろ日暮れも近い。Barの営業開始直前なのかもしれない。長居して迷惑をかけるのは悪いだろう。

 僕は音無さんとともに二階に向かった。


 ここに来たいと言ったのは僕だ。あの時音無さんが楽しそうに一緒にいた相手に嫉妬した。ただそれだけの身勝手な思い。しかし会ってどうするつもりなのか。

 何も決めてなかった。


 二階の個室の扉を開くと、中には二人の少年がいた。そっくりの顔をした二人の少年は明らかに双子であろうと思えた。『越境』してきたのだろう。

 ただ片方は健康的で精悍なのに対して、片方は病的なまでにやせこけて弱々しい。比べて見るからこそ、その対比は痛々しいほどだった。

 病的な少年はベッドから身を起こし、驚いた表情をしていた。


「結花ちゃん戻ってきてくれたんだね。よかった」

「結花」


 二人の少年が音無さんの名を呼ぶ。しかし音無さんは彼らの視線を避けるように、僕の背中に隠れた。


「今日は……藍田くん達いないの?」

「ああ……あいつらは元々別の場所を拠点にしてるからな。昨日は俺が呼び出したんだ」


 藍田……というのは、あのクラスメイトの藍田だろうか? なぜここで彼の名が出てくるのかわからない。


「結城君に謝った方が良いと思ったの。怪我は大したこと無かったけど、凄い危ない事したんだし」

「結花」


 精悍な顔をした少年の方が、怖い顔をして近づいてくる。僕はとっさに音無さんを背に庇い、睨み付けた。


「コイツの前でばらすな」

「でも、でも、結城君は被害者なんだよ」


 自分に関係する事の用だが、まったく蚊帳の外で事情が飲み込めない。ふとベットに横たわる少年を見ると、悲しげな目をして口を開いた。


「鏡弥。結花ちゃんの言う通りだよ。彼には聞く権利もあるし、僕らは謝らなければいけないんだ」

「優弥!」


 鏡弥、優弥と呼び合う名にふと既視感を感じた。


「もしかして氷室優弥なのか? 隣のクラスの」


 彼は弱々しい笑みを浮かべて小さく頷いた。麗花が探していた氷室優弥に、まさかこんな所で会えるとは思わなかった。しかもこうして見ると彼の様子は尋常でない。


「麗花が探してた」

「みたいだね。昨日会ったよ。彼女は鏡弥を追いかけてた。僕を手がかりに鏡弥を探してたんだ。でも僕らは会いたくなくて逃げてた。でも昨日必要に迫られて会った。だから君の役目はもう終わりだよ」


 優弥の簡素な説明に納得したわけではなかった。ただそれ以上彼らの事情に興味が持てなかった。それよりも自分が誰に何を謝罪されなければいけないのか。そのことが気になった。


「謝るってどういう事なんだ?」


 一瞬緊張が走り、静まりかえる室内。三人の誰が口を開くか、押しつけあってるみたいだった。結局最初に口を開いたのは優弥だった。


「僕が話す。二人とも部屋から出ていて」

「優弥。また、おまえ……」

「鏡弥だと喧嘩になりそうだし、結花ちゃんは僕達ほど事情を知らない。それに彼が怒ったとしても、病人に手を出すような人じゃないでしょ」


 優弥は穏やかに微笑みながら、しかし冷静に計算をしていた。彼の言葉に逆らうことができなかったのか、鏡弥は不満げに、音無さんは不安げに、部屋から出て行った。


「どうぞ。座って長くなるから」


 言われてベットサイドの椅子に腰掛ける。隣のクラスで接点などほとんど無かったが、それでもこれほど痩せ衰えて不健康そうな奴いただろうか? と疑問に思う。


「結城君。君のクラスに藍田君っていう男の子がいるだろう」

「いるな」

「彼が『ブレイカー』というテロリスト集団の一員なんだ。君を昨日襲ったあの『反双子分割居住法』のテロ組織だ」


 聞いた瞬間、体中の血液が沸騰するような、瞬間的な怒りがこみ上げた。それが表に出てこなかったのが不思議なくらいだ。


「意外に冷静だね」

「冷静じゃない」


 怒気を孕む声が思わず口から漏れた。


「そうみたいだね」


 僕の怒りを受けてもなお、穏やかに微笑んでいる氷室優弥という男に、不気味ささえ感じた。

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