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13

 学校が終わってすぐに私は病院に向かった。お見舞いに行くと結城君と約束したから。病室に向かおうと歩く。ロビーを通り過ぎる時、後ろから声をかけられた。


「音無さん」


 ふりむくと結城君が待合席で座っていた。


「結城君。もう立ち上がって大丈夫なの」


 驚きつつも結城君の隣の席に座る。近い。その距離感が恥ずかしい。


「うん怪我は大したこと無かったんだ。検査も終わって退院手続きを待ってるところ。行き違いにならなくてよかったよ」

「大したこと無くてよかった」


 その時、結城君が私の手を強く握りしめた。びっくりしたが、その手が震えていることに気がつきとまどう。


「よかった来てくれて。また会えるか心配だったんだ。もう帰ってこないんじゃないかって」


 結城君が心配としてくれた。それがとても嬉しかった。昨日私は居場所がないと嘆いていたけれど、こうして待っててくれる人がいたのだ。


「制服着てるって事は学校に行ったんだよね」

「う、うん」


 そこで結城君は声を潜めて、顔を近づけて言った。


「妹さんに家出したって聞いてたから心配してたんだ。もう家に帰ったんだよね」

「結城君どうしてそれを……まさか……越境の事も……」


 静かに頷く姿を見て震えた。麗花をかばい立てしていた私にも、なにか罰が与えられるのだろうか?


「大丈夫。通報する気はないし、音無さんは悪くない。悪いのは君の妹だろ。音無さんは何があったんだ。家出するなんて何かあったんじゃないか? 悩み事なら僕が聞くから」


 結城君の言葉が体の奧まで響いて、私は幸せな気持ちになった。誰かに気遣ってもらえるなんて、今までなかった。その優しさだけで十分だ。


「ありがとう……でももう大丈夫」

「そうか」


 結城君はそっと手を離して、少し悩むような表情をした。言いにくそうに何度か躊躇った後、結城君はぽつりと呟いた。


「あのさ……あの時、テロに襲われる直前、男と一緒に歩いていただろう。家出している間アイツの所にいたの?」


 その言葉に含まれる意味に気づいて、私は顔が赤くなった。


「ちがっ……くないけど、結城君は誤解してる。別に鏡弥と私は何にもない」

「鏡弥って呼び捨てにしてるんだ。やっぱり仲いいんだね」


 穏やかそうに見えて、どこか静かな怒りをたたえた結城君の姿に戸惑った。どう説明すれば良いんだろう。私は必至に考えてありのままを話すことにした。


「えっと……マキさんっていう、女の人がやっているお店に泊まらせてもらったの。鏡弥やその弟の優弥もそこに泊まってて、だから二人きりとかそういう事じゃないから」


 私のたどたどしい説明を、結城君は黙って聞いていた。それからしばらく沈黙した後、おもむろに口を開いた。


「その店に僕も連れてってくれないか?」


 血の気が引く思いがした。昨日あそこには結城君を傷つけたテロリスト達がいたのだ。そんな所に連れて行ったも良いのだろうか?

 とまどい口ごもる私の様子に、苛立つように結城君が迫る。


「連れていってほしい。頼む」


 そこまで言われると嫌だとは言いにくい。それに……あの人達に直接謝らせれば良いんじゃないだろうか。怪我させてすみませんって。


「うん。わかった」

「じゃあ、行こうか」

「え……行くって今すぐ?」


 頷く結城君に戸惑う。なぜ結城君はこんなに強引なのだろう。何が彼をそうさせてるのだろう。

 そんなやりとりをしていた私達の目の前に中年女性と若い女性がやってきた。


「海斗。手続終わったから帰りましょう」


 中年の女性がそう呼びかけた。きっと結城君のお母さんなんだろう。だとすれば隣の女性はお姉さんだろうか。


「母さん。悪いけど先に帰ってて。ちょっと寄りたいところがあるんだ」

「何行ってるの! 怪我したばかりなのに」

「医者も、もう異常ないって言ったし大丈夫だよ。母さん心配しすぎだ」

「何言ってるの、母さんがどれだけ心配したと思ってるのよ。春乃に続いて貴方までって……本当にどうしてうちばっかり……」


 今にも泣き出しそうな結城君のお母さんの肩を、お姉さんが抱きしめた。


「母さん。海斗は私と違うから。無事だから、好きにさせてあげましょう。ほらお友達が来てくれたみたいだし」


 そう言ってお姉さんは私の方を見た。優しい微笑みを浮かべて母親を説得し、二人は去っていく。

 その時ふと気がついた。お姉さんは左足を引きずるような歩き方をしていた。まるで鉛を引きずっているかのようだ。その仕草が私はひどく気になった。


「ごめん、心配性な親で」


 結城君に声をかけられて慌てて顔を上げる。

 

「ううん。仕方ないよ。いきなりテロリストに襲われるなんて、不幸な事故があったんだもん」

「行こう。案内してもらえる?」


 私は頷いて結城君を連れてRhapsody in Blueへと向かった。

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