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「え……あの、その……」


 険悪な雰囲気に怯え、飲まれ、声が出ない。マキさんはいないのだろうか? 助けを求めて店の中を見渡すがマキさんの姿は見あたらない。


「音無……結花の方だよな。今の話聞いてたのか?」


 藍田君は笑顔のまま近づいてきた。見知った顔のはずなのに怖い。麗花と藍田君と鏡弥以外にも、同じような年代の少年少女達が沢山いた。

 みんなどこか怖い空気を身に纏って、私の事を見ている。何を言えばいい? どうすればいい?

 分からなくて怖くて震えていたその時、人だかりを抜けて優弥がやってきた。


「みんな怖いよ。結花ちゃんが怯えてるじゃないか」


 優弥だけは、なぜだかこの集団と違って、柔らかい空気を醸し出している。その異質とも言うべき柔らかな空気が、いっそ不気味でさえある。

 なぜこんなわけのわからない集団の中で、こんなに優しく微笑むことができるのだろうか?


「今のどこまで聞かれてたのか知らないが、不味いだろう。優弥」


 軽薄な笑みを浮かべながら、でもどこか恐ろしい雰囲気の藍田君との間を遮るように、優弥は私の側に近づいて手を差しのべた。


「僕が結花ちゃんに話す。結花ちゃんを巻き込んだのは僕のせいだし、僕は部外者だから、結花ちゃんも安心できるだろう」

「どういう事?」

「説明するよ。ついてきて」


 正直わけがわからない。

 優弥は戸惑う私の手を取って、ゆっくりと歩き出す。みんなの視線を感じながら私達は二階へ向かって、優弥達の個室に入った。

 私に椅子に座るように勧めながら、優弥はベットに座った。二人っきりになると、少しだけほっとした。大勢のプレッシャーにさらされた、あの場の空気にどれほど自分が恐怖していたことか、思い知った。


「マキさんは?」

「いないよ。彼らがいる間はマキさんに出かけてもらってる。マキさんは何も知らない、関わらないって立場で、彼らを事実上黙認してくれてるんだ」


 彼らというのはあの恐ろしい集団のことだろうか?


「びっくりしたでしょう。ちょっと荒っぽい奴らでね」

「誰なの? あの人達」

「テロリスト」


 優弥の言葉に私は椅子から転がり落ちそうな程驚いた。とたんに思い出す昼間の出来事。目の前で倒れた結城君の姿……。


「まさか……昼間の爆竹投げ込んだの……」

「そう。藍田君達『ブレイカー』の仕業だ。そして越境した二人、麗花と鏡弥は『チェンジ・ザ・ワールド』という向こうのテロ集団さ。どちらも『双子分割居住法の廃止』を目的にしている。彼ら二つのグループは利害の一致から協力体制をしいてるわけだ。まあ鏡弥は今回の作戦のやり方が気に入らないみたいで怒ってるけどね」


 まさかこんなに身近にテロリストがいただなんて信じられない。スカートの裾をぎゅっと掴みながら、俯いて声を絞り出す。


「優弥も……テロリストなの?」

「僕は違うよ。でも鏡弥が越境したのは僕のせいなんだ。そして鏡弥を追って麗花ちゃんがやってきて……。僕のせいで結花ちゃんに迷惑かけてごめん」


 優弥は表情を曇らせて謝っていた。でも誰のせいとかかもう関係ない。彼らが結城君を傷つけた、彼らに怒りを感じる。


「ひどいよ! 結城君にあんな怪我させて! ひどい」


 怒りにまかせて私は部屋を飛び出した。まだ店内には大勢の若者達がたむろしていたが、その間を縫うように走り抜ける。


「結花!!」


 鏡弥の声が聞こえたが、私は振り返りもせずに、店を飛び出した。せっかく仲よく慣れたのに……。居場所が出来たと思ったのに……。


「結花!」


 今度は声だけじゃなく、腕を捕まれた。掴んだのは麗花だった。振り向くといつも自信たっぷりの態度なのに、なぜか困った様な顔をしていた。


「あの……アイツを傷つけて……ごめ……」

「目的は果たしたんでしょ! だったら帰ってよ! もう私の前に現れないで!」


 私は麗花の手を振り切って走り出した。また行き場を無くした私は家に帰るしかない。


 夜も遅くなったというのに、両親ともに帰ってきていなかった。二人ともいつも忙しくて帰るのが遅い。だから毎晩夕食を一人で食べるのが当たり前で、いつもの事で。


「マキさんや優弥や鏡弥と食べた食事は美味しかったな……」


 思わず涙と共にこぼれる言葉。一人じゃない。それはとても幸せなことだった。

 でもテロリストだという事実は受けいれがたくて、心の中にずしりと心の重荷となって私を苦しめる。

 せっかく手に入れた居場所だと思ったのに……。止めどなく流れ落ちる涙を止められなかった。


「結城君大丈夫かな……」


 明日学校が終わったらお見舞いに行こう。それに普段の温厚な結城君らしくない、激情の理由が気になった。


 どうして彼らはテロなんてするんだろう。みんな仲よく暮らす方法はないなのかな。

 大粒の涙がとまらない。今日の夕食は塩味が効きすぎだ。ぽろぽろと泣きながら食べる食事は味気ない物だった。

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