表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

1話 「恋は気から」

これは綴が悪い。

 「好きだ!付き合ってくれ!」

 

 校舎裏、下校を告げるチャイムが響く中、その音に負けじと声を張る。

 

 「えっと⋯⋯誰、ですか?」

 

 栗色の髪、短めのポニーテールがよく似合う女子生徒。その表情には困惑の文字が浮かんでいた。


 「しがない小説家志望だ。名乗る名は持ち合わせている、紙城と呼んでくれ。よろしく」

 

 「はぁ……?あの、入学式ですよね、今日。初対面だと思うんですけど?」

 

 そうだ、今日は高校生活最初の入学式。クラスの全員、顔も名前も知らないやつばかりだ。


 「それがどうした!愛を伝えるのに場所も時間も関係ないだろう?」


 と、勢いよく見ず知らずの女子生徒に力説する俺の名前は——紙城綴かみしろつづる、高校一年。

 

 将来有望な小説家になるべく、かれこれ様々なジャンルの小説を読破し、執筆も重ねてきたが……。

 

 その中でも唯一、俺にも書けない小説があった。


 それが——()()()()

 

 恋愛小説、又の名をロマンス・フィクション。男女間——今では男女問わず、登場人物同士の『恋』や『愛』をテーマに繰り広げられるその甘酸っぱく、時に苦い秀逸な物語は——。


 古今東西、世界中で人気のあるジャンルであり、小説を語るうえでは欠かせないものなのだが……。


 俺はどうしてもこの手の小説が書けないでいた。

 

 理由は明白。……経験がないからだろう。

 

 幼少期から本ばかり読んできたこの紙城、異性との接し方がまるでわからなかった。


 そんな男を好く女子など到底いるはずもなく、今日まで女友達すらできたことがなかった。

 

 ——それも今日までのこと⋯⋯。

 

 いずれは全ジャンルを書き上げるものとして、恋愛小説という王道ジャンル、書けないでどうするというのだ。

 

 経験がないなら?——作ればいい。

 

 そんなわけで、適当に選んだ靴箱にラブレターを詰め込み今に至る。

 

 まてよ、これ男が来る可能性もあったのでは?まずい、一歩間違えれば同性愛者として学校中に知れ渡るところだった……!

 

 つづるが意味のわからない不安に苛まれる中、告白された当人の女子生徒は口元を激しく震わせていた。

 

 「……てなのに」

 

 何か言っているようだが。はて。

 

 「……私告白されたの初めてなのに!初めてがこんなナンパ野郎だなんてマジ最悪なんですけど!」

 

 急な叫びにつづるは驚愕した。まさかいきなり怒鳴られるとは。しかもなんだナンパ野郎とは……!


 「おっと、すまない!怒らせるつもりはなかったんだ!言い方が悪かったな。好きだ!俺のかてとなれ!」

 

 「余計キモいんですけど!?もう帰るから!」

 

 ——つづる人生初の告白、失敗に終わる。

 

 ♢♢♢

 

 ……フフフッ。

 

 フラれた後の校舎裏でつづるは1人笑っていた。いや、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 「……なるほど。これが『フラれる』ということか!胸が痛む……という感覚はよくわからないが、なかなか堪えるな。これはいいものが書けそうだ!」

 

 このスッキリとしない気持ちを表す言葉をメモ帳に書き留める。


 事あるごとにその都度、考えた事や瞬間の気持ちをメモに残す癖をつけている。メモ帳をポケットにしまう際、微かにガサッと紙が潰れた音がした。


 その音を聞いて、俺は急用を思い出した。

 

 「そうだった。これから各部活動に入部届を提出しに行かねば!」

 

 せっかくの高校生活、経験できることは全てやっておきたい。


 部活ごとの入部届を握り締め、そのまま校内へと走り去っていった。

 

 ♢♢♢

 

 旧校舎三階、1番南に位置する場所には部室らしき扉の横に、【文芸部】と書かれている看板が貼り付けられていた。


 その中からは微かに2人の少女らしき人物の話し声が聞こえてくる。

 

 「ねえ、あと2人集まらなかったら廃部なんでしょ?どうするのよ?」

 

 1人は紐で髪の毛を左右に結んでいる、ショートツインテールの女の子。少し話し方に棘はあるが、声色からして怒りという感情はうかがえない。


 「えーどうしよっか?」


 もう1人は穏やかな口調で、少し上の空な喋り方に黒髪で癖っ毛ロングが印象的な女の子。

 

 「ちょっと。しおり、あんた部長でしょ!ちゃんと考えてよ!」


 「んー。私なんかが部長でいいのかなー⋯⋯?」


 自信なさげに返事するしおりに千歳ちとせはすかさず言い返す。


 「なに今更心配してんのよ。もう決めたことでしょ?」


 「ちとせちゃんは私なんかが部長でいいの?わたしこんな性格だしー」


 「もうーめんどくさいな!私はしおりがいいの!」


 ——ドン!ガチャッ!!


 そんな言い争いが続く中、突如として部室の扉が勢いよく開かれた。


 「たのもう!文芸部と書かれた看板があったのだがここであっているか?」

 

 そこに現れたのは、見知らぬ男の子。


 固まっていた2人だったが、しおりが先に口を開いた。


 「あ、合ってるよ!えーっと、入部希望ってことでいいのかな?」


「ああ、そうだ。今すぐにでも!」


 そう言い、入部届を机の上に差し出した。


 「いやいや!まだ無理でしょ!!今日が入学式なのに気が早いんじゃない!?」


 そこでようやく千歳ちとせが会話に割って入った。


 「てか、あんたのこと知ってるわよ!入学式で1人、校歌を熱唱していたやつ!」


 「いや。それがどうした?」


 普通なら入学式での校歌斉唱は、2、3年生が新1年生に学校の校歌を披露する場でもある。


 しかし、つづるはその校歌を暗記してあまつさえ完璧に歌いきって見せた。


 「在籍させてもらう高校の校歌を知らないでどうする?小説家を目指すならまず高校というものについて知らないと書けないだろ」


 「……校歌はいらんでしょうが」


 純粋に疑問を抱く千歳ちとせを横に、しおりが少し不思議そうに首を傾げた。


 「よく部室の場所わかったね!迷ったでしょ?」


 「そうだな。そのせいで最後になってしまった」


 「最後?てことはあんた、他の部活にも入部届出してるわけ?」


 そうだが?と言い終えた直後、しおりから意外な一言が発せられた。


 「んー、えっとね。うちの高校、掛け持ち禁止だよ……?」

 

 ————

 

 ———


 ——そうなのか……?

次回はもう一人の部員集めをします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ