プロローグ:参
2人が帰って時計を確認すると、時刻は16時を過ぎたところだった。
ふと縁側に座り1人くつろいでいると、何処からかひぐらしの鳴く声が聞こえてくる。そしてそこにコオロギの鳴き声も加わると、色んな虫の合唱が始まった。都会じゃ聞きたくても聞けない虫の音色に耳を澄ませる。
「チンチロチンチロチンチロリン♫ あれ鈴虫も鳴き出して〜……秋の夜長を鳴きとおす♫ああおもしろい虫の声♫」
子どもの頃にかえったように童謡の歌詞を歌いずさみ、思いふける。
あぁ、暦の上ではとっくに秋だ。
そうしてしばらく経つと、氷のたっぷり入っていた麦茶の氷も溶け味が薄まってしまった。とっくにぬるくなってしまった麦茶の味も、いつもと変わらないはずなのに特別に美味しい一杯だったように感じた。
そうして私は束の間の余韻を楽しんだあと、帰省する前に買ってきた迎え火セットを鞄から取り出した。
そしてご先祖様が無事に、迷わず帰って来れるようにと玄関先で火を焚いた。
迎え火の煙は真っ赤な空に吸い込まれるように消えていき、その様子をじっと見つめる。
父方の祖父母は事故で他界し、私たち兄妹は会った事が無い。兄が生まれる数年前の話だそうだ。
だから仏壇にある遺影でしか、私と兄は祖父母の顔を知らない。
写真を見ると、父の目元は母親似で顔立ちは父親似のように思う。
この実家も父の代で一度母屋を建て直している。相当ガタが来ていたようで、大地震が来た時に大分傾いてしまい、瓦も落ちて扉という扉が開け閉め出来なくなったのがキッカケだった。
当時は全壊したわけではなかったため、建物の被害調査では一部破損に留まった。そのため保険もあまり効かず、ローンを組んで実質的に建て直したのだ。
当時、両親は貯蓄を切り崩しながらも相当仕事を頑張っていた。
曾祖父母より前から代々続いている家だったため、間取りも大きくは変えず趣きは失われてはいない。そこが父のこだわりポイントだったんだとか(母後日談)
母方の祖父母は隣県に住んでいて、元気に田舎暮らしをしていると聞いている。そちらもしばらく会っていない。
今度、連絡をしてみようか。
「ご先祖様方、家に帰ってこれたかな」
迎え火のおがらが燃え尽きたので、バケツに汲んでいた水できちんと後始末をする。
何だか小さい頃に、皆んなでした花火を思い出した。
私が一番歳下だったから、兄たちは最後の一本を毎回譲ってくれていたっけ。懐かしいな。
本当なら迎え火が終わり、お墓掃除もしたい所だけれど、墓地はここから車で5分ほどの場所にあるが更に山奥まで登る必要がある。
だが今回は親戚の方に頼んでいて、既に掃除も済ませ花も供えてくれたそうだ。明日にでも私も行ってみようと思う。
そうやって日も沈み、後片付けも済み玄関の灯りをつけようとしたら、蛍光灯の球が切れてしまっていた。
タイミングが悪い。
「確か予備の球と、脚立は蔵の方に閉まってあったような……っと足元暗っ。スマホスマホ……」
薄暗いことも相まって、石畳の低い段差で危うく躓きそうになった。
こういう段差もいつかリフォームが必要になるかもな。バリアフリーというやつ。
兄と相談しなくちゃな……。今日みっちゃんとキョウちゃんに会ったことにより、久しく見ていなかった兄の一面を再認識してからは心境が複雑だけれど。
蔵は鍵穴のある南京錠と、4桁のダイヤル式の錠の2段構造になっていた。
何でも昔、窃盗に入られたことがあったとかで、以来セキュリティを見直したそうな。
外見えは立派だが、中にしまったあるものは大した物ではないのだがね。
手前の方とか、母のダイエットマシンや父のバーベキューセット、兄や私の使わなくなった教科書やランドセルなども置かれているし。単なる物置小屋だ。
いつか整理しなくちゃな………。
そうこう探しているうちに、脚立はすぐに見つかったのだが予備の球が入った箱が見当たらない。
「父さん、何処にしまったんだろ……電話かけて聞いた方が早いかなー」
ライトを照らし、蔵の奥の方まで探していると〝球〟と大きく書かれた木箱を見つけた。ブルーシートの下になっていた。
「これじゃ見つけにくいわっっ!!」
誰も聞いてないのに、思わず突っ込みを入れてしまった。
ただでさえ汗だくなのに、余計な仕事を増やしてくれちゃって……。
この際だから、私がいる間に色々片付けさせてもらうわよ……。
「よっ……ん?」
だがいざ箱を開けると、球は入っておらず代わりに小さな桐の箱が入っていた。
その桐の箱には、薄い布に包まれた時計の秒針のようなものが仕舞われていただけだったのだ。
「秒針………?何でこんなところに。っと、それより球よ球」
現在優先されるべきは玄関の球替えである。
私は球探しに戻ったが、その秒針をまた木箱に戻す気にもなれず、尻ポケットに入れた。
あとで父さんか母さんに聞いてみよう。
そう思って作業に戻った。




