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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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加速度的成長

 海中から飛び出た爪先に、彩斗の腕が激突する。

 その刹那、彩斗は全霊でもって拳に力を込めた。柔軟さと力強さを兼ね備えた流れるような技は、インパクトの瞬間にその威力を発揮する。

 爪が割れ、手袋が破けた。二つの力の激突に防具は耐え切れず、後は素の力で強引に殴り付ける。

 だがそれは即ち、自分の身も傷付けるということだ。

 伸びた指を全て圧し折り、人型には確かなダメージを刻む。その代わりに彩斗の拳にも裂傷が刻まれ、互いに浅くはない怪我を負った。

 人型は激痛からか彩斗から距離を取る形で飛び出る。手首を掴む様は痛みを気にしているようで、彩斗も己の拳の惨状に視線を向けた。

 指の切断にまでは至っていないが、肉が抉られている。部位としては指と平の境目辺りで、開け閉めを繰り返す度に激痛が襲い掛かった。


 傷口からは血が滴り落ちている。常に走る僅かな痛みは戦闘による麻痺によって小さくなっているだけで、本当は動かさずとも眉を顰める程の痛みを持っていた。

 脳内麻薬万歳。内心思考しつつ、さてどうするかと考える。

 人型は再生が始まっていた。目に見える速度で治っていく光景は、何も知らない側からすれば絶望の一つでも覚えそうだ。

 身体能力が高く、その姿を捉えることも難しい。そんな差がある中で更に治りが速いとなると撃破は困難を極める。

 仮にGシリーズや量産機が攻めたとして、一瞬でコックピットを破壊されるのが関の山だ。やはり全員を戻したのは正解だったと安堵の息を胸の内で零す。


「だが、傷は付けられたな。 この分ならまだいける――」


 情報処理システムがどのような細工を施したかは定かではなくとも、あの拳打が通らない可能性は十分にあった。

 しかし実際は通り、相打ちのような形になりながらもダメージを刻んだ。つまりその身体を炎の力無しでも突破出来ることになり、そうなれば希望の光も増えるというもの。

 炎だけが頼りとなれば、技巧を凝らした技を幾つも用意せねばならない。それは出来ない訳ではないものの、どうしても時間が掛かってしまう。

 その間に接近され、炎を無視した殴り合いに発展されれば彩斗側が殴られ続ける。

 一発でも装甲である服の一部を突破された。二撃目や三撃目でどうなるのかなどおよそ考える必要も無いだろう。

 喜ばしい情報だ。――その上で、相手はこれを考慮に含めた演算を行う。


 傷の治った人型が動き出す。

 高速の歩法は無造作であり、だからこそ攻撃の機会を喪失し易い。間近にまで接近した人型は再度の格闘戦を挑み、応じる形で彩斗も拳を交える。

 右腕を上げた拍子に血が飛んだ。強引に相手の攻撃を捌く度、右拳からは無視出来ない痛みと痺れがやって来る。

 幾度も繰り返せばそれは耐え切れるものではなくなるだろう。だからその前にと、相手の拳が前に突き出るタイミングで前進。

 懐に潜り込み、左拳で捻るようなストレートを放つ。常人相手なら骨が砕け散るような一撃をまともな防御も取れずに受け、相手は身体をくの字に曲げながら吹き飛んだ。


『彩斗、今スーツを回収した。 バゼルももうじきそっちに着くだろうから、僕も急ぐよ』


「ああ。 ……出来れば急いでくれ」


 離れた瞬間に澪からの連絡が届き、それに対して短く答える。

 バゼルのスペックは彩斗や澪と同等にしてある。炎よりは効き目は弱いものの、拘束や盾を挟める利点は高い。

 ただ、それでも決定打とはならないのが人型だ。

 いや、それどころか今この瞬間にも相手は思考を続けている。

 突如、何も無い顔面に口が生まれた。粘土にナイフを差し込んで作った歪な弧は、作られた瞬間に不気味な笑みで彩られる。


 その内笑い声すら発しそうな口は不快感を助長させた。

 嫌な予感が彩斗の脳裏を過る。このままでは不味いと、頭は一気に警鐘まみれになった。

 人型が前に飛び出る。迂闊極まりない前進は、まず間違いなく何かを狙った行動で間違いないだろう。

 であれば、土俵に立つのは愚の骨頂。魔人として炎を操る彩斗は、その能力を遺憾なく発揮して鞭を振るう。

 揺らめく炎は人型を怯えさせるに十分な威力がある筈だが、そんなことなどお構いなしに相手は突入の手を止めない。

 高温の海に飛び込んででも彩斗に向かい、肌を焼かれながら目前まで迫った。そのまま腕を伸ばし――五本の指を分割するように五つに裂けた。


「ッ!?」


 身体変化。

 怪獣であれば当たり前の事ではあるものの、人型相手では単純に厄介度が増す。

 指を穂先に見立てた肉の槍はそれぞれの軌跡を描き、彩斗の四肢と胸を狙っていた。

 相手は眼前。当然、槍も最初から目の前だ。

 回避など最早不可能な状況で、全てを打ち落とすには同時に対象を破壊する必要がある。

 鞭は駄目だ。伸ばしたままで、一度戻す間に到達されてしまう。


「こういう変化かよ……!」


 舌打ちをしたくなる気持ちになりながら、後方へと咄嗟に跳ねる。

 槍は彼を追い、着地するまでに命中するだろう。出来た一瞬の時間の中で、彼は両足と両腕で攻撃を弾く。

 右腕は胸に迫る槍を掴み、左腕はそのまま自身を狙う槍を掴む。足に迫った分は両足を持ち上げ、一気に槍二つを踏み潰した。

 下は海水なので軌道が変わった程度。それでも危機を脱することが出来るのであれば十分。――唯一、右腕だけは回避が不可能であったが。


 他が回避に成功した中、右の二の腕に黒い槍が突き刺さる。

 パーカーを容易く貫通した槍は内部に到達した段階で弾けた。細かい欠片が肉を傷付け、更なる激痛が彼の精神を蝕む。

 破片の殆どは弾けた時点で外に出た。無数の傷口からは血が大量に流れ、内部には未だ僅かに破片が取り残されている。

 その破片を内部に炎を流し込むことで燃やし尽くした。

 力無く腕が垂れ下がる。神経までもが傷付けられたのか、右腕に力を入れても反応が恐ろしいまでに鈍い。


「力押し……に見せ掛けての技量派かよお前。 設定と違うぞ」


 違いがあるのは承知の上であるが、戦闘スタイルまで変わっているとなればそもそもの対応方法すら変わる。

 元々は速度と筋力に任せた高速脳筋プレイが人型のスタイルであった。しかし今は、それを隠れ蓑に細かい芸当も熟している。

 繊細な肉体操作が可能となると、体内に肉片がある状態で戦いたくはない。咄嗟の焼却であったが、今は正解だと彩斗は確信した。

 右腕の負傷は甚大だ。勝負をする上で利き腕が使えない状況は、即ち死を意味すると言っても良い。

 

 左腕と足だけで何処まで出来るか。

 垂れ下がったまま、左腕を構えた。それを見て、人型の口角がますます歪む。

 気分が良いのだろう。目論見が全てではないとはいえ叶ったのだから、喜ばない筈がない。

 ここからが蹂躙だと人型は飛び込む。

 今ならば肉弾戦になっても勝てる。その思考の元、彩斗の内側に過剰に潜らずに腕の届く範囲を保ちながら乱打を行う。


 速度も重さも尋常ではない攻撃の嵐を左腕一本で捌くのは不可能だ。

 回避し、時には蹴りを差し込んで軌道を変え、掠めながらも機を伺う。そのまま長時間の接近戦を続けられれば良かったが、現実は無情だ。

 拳を振るう刹那、人型は両の腕を五つずつに分割。更に肩から棒のように己の肉を伸ばし、合計で十一の攻撃を一斉に放った。

 これを今の彩斗で防ぎ切ることは出来ない。せめて急所に命中する部分は避けようと足を動かそうとして――足を何かに掴まれた。


「……足の指も伸ばしてたのかよ!?」


 伸びていたのは親指。それが海中に潜りながら彩斗の足を引いた。

 バランスの崩れた身体に十一の攻撃。まずいと彩斗が声に出さずに呟き、視界は一瞬で一色に塗りつぶされた。

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