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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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最強VS最強

 流星が如く、それは落ちる。

 海へ、生命の生まれた場所へ、そして人類の生存を否定する水の世界へ。

 着水までは僅かな時間だった。およそ宇宙からやって来るにしては速く、AIが独自に加速したのは言うまでもない。

 彩斗もオムニックも、落下してきた存在を知っている側は警戒を最大限にまで高める。

 そして何も知らない蓮司は、ヴェルサス側から与えられた通信機が声を発し始めたことに気付く。


『全隊に通達。 宇宙空間より飛来する謎の物体を確認。 超望遠カメラと解析の結果、対象を怪獣と認定。 ――しかし、内部熱量は先程撃破したアーキタイプよりも上と判断が来ている。 最大限の警戒をすべし』


「最大限の警戒って……何が来たんだよ」


 通信機からの情報で対象の存在を理解したが、かといって警戒を緩める理由にはならない。寧ろ逆に、アーキタイプと戦うよりも警戒を高める必要がある。

 着水によって舞った水飛沫は煙よりも早く落ち、敵の姿を鮮明に晒した。

 その姿は人だ。細身でありながらマッシブな印象を与える、マネキンのように口も目も耳も無い存在。

 黒い肌は光で反射し、少なくとも柔らかいとは思わせない。

 黒い人型は水の上に立ち、酷く人間味にある動作で一歩を踏んだ。何の衣服も纏わないものの、一歩を進んだ様だけで上品な人間を彩斗達に思わせた。


 何なんだ、こいつは。

 蓮司の心からの感想だ。確かに人らしい姿とは異なるが、同時に怪獣らしい姿とも異なる。どちらかに偏らず、両方の特徴を兼ね備えていると言った方が正しいだろう。

 身長は目測で百八十㎝程度か。大きい方ではあるものの、探せば居る程度の大きさだ。大した威圧感も放たず、立ち姿だけでは強そうには見えない。


「……全員、徐々に退避しろ。 余計な物音は立てるな」


 だが、彩斗の口から発される言葉には最大級の慎重がある。

 その命令に従い、人形達は対象を視界に収めながらゆっくりと足を後ろに動かす。人型も追うつもりがないのか、徐々に消えていく彼等に一度も顔を向けることはなかった。

 人型の顔が向く先に居るのは彩斗のみ。

 彩斗本人もそれは自覚していて、真正面から与えられる無言の圧を静かに睨み返す。

 人型から表情を窺い知ることは出来ないが、間違いなく対象は感情を搭載している。それが静かなままであるのは、互いに最初の踏み込みを決めかねているからだ。


「オムニック。 蓮司と共に退け」


「……御身を残す真似はしたくありません」


「勘違いするな。 このまま此処に残ったとて、お前達に出来ることなどない。 奴は強いぞ」


 強い。

 その言葉がレッドとして放たれることの如何に重いことか。世界を支配するに足る資格を有し、最強を自負することが許される人物だからこそ、相手に対して強いと認めることは大きな意味を持つ。

 逆立ちしたとて今の蓮司に勝てる道理はない。蓮司よりも強いオムニックでもその結論は変わらない。

 関わるだけ無駄。足手纏いでしかないのだ。

 そうなるくらいであれば退避してもらった方が良い。万が一人質にでもされようものなら、事態はより深刻になるだろう。


「……フローさんとバゼルさんを呼びますッ」


「いや、今の二人にこれを相手にするだけの余力はあるまい。 やるのは俺一人。 これは絶対だ」


「そんな……」


 彩斗とて消耗していない訳ではない。

 あの火球の構築によって炎は大分消費した。本人は平気な顔をしているが、負担は確かに存在している筈なのだ。

 フローもバゼルもバッテリーを多量に消費している。充電時間が必要なのは事実であり、けれどそれをしている猶予は無い。

 消耗したまま戦うしかないのだ。そうする以外、選択肢など有りはしない。

 故に、彩斗は自らが立つ。他の介入を許さず、人類を守る守護者として星の脅威を排除する。

 死ぬか生きるか。これは戦ってみなければ解らぬ未来であるが、彩斗自身は当然敗北するつもりはない。


 最初の設定の時と一緒だ。――最強は常にレッド。これは不変の事実である。

 

『澪。 家に戻ってAdvanced suitを』


『もう取りに戻ってる。 後バゼルは一足先に充電に回した。 僕は絶対に君を一人だけにしないからね』


『助かる。 ……っと、そろそろ始まるか』


 人型の雰囲気が変わる。

 圧の中に殺意を込め、それだけで人型の周囲の水が逃げるように外に向かっていた。そして先程と同様に足を一歩進め――次の瞬間には姿を消す。

 それはオムニックにも、ましてや蓮司にも見えなかった。

 超人に囲まれて養った動体視力。

 最高の技術で作られた目。

 二人が持っている目は間違いなく最高峰で、故に捉えられないのであれば敵は二人よりも先を進んだのだ。

 

 刹那、鈍い打撃音が蓮司とオムニックの耳を叩く。

 人型の位置は変わっていた。姿は彩斗の目の前で、腕を槍のように伸ばして彼の胸を貫こうとしている。

 その腕を彩斗は右腕一本で掴み、完全に停止させていた。

 レッドの口角は釣り上がり、目は真剣そのもの。完全に背後の二人を意識に追いやった顔に、蓮司はある種の畏怖を抱く。

 彼だけは見えているのだ。敵の動きを正確に、かつ完全に。

 最強の名は伊達ではない。世界の誰からも認められた男は、相手がアーキタイプより強くとも関係が無かった。


「蓮司少年。 退くぞ」


「……解りました。 急ぎます」


 オムニックが蓮司の肩を力強く掴む。

 鋭く否定させない声に、蓮司も素直に頷くしかない。彩斗が敵を止め、その間に二人は共に全力で後退を始めた。

 防護服には身体強化機能もあったが、今のオムニックにはそれは使えない。

 元々の肉体のみで駆けるには遅く、故に蓮司が彼女を背負って炎を噴射させた。勢いに任せた加速に停止は無く、それだけに速い。

 空へと消えていく姿に彩斗が意識を向けることはない。先程まで蓮司達は彼が余裕で掴んだように見えただろうが、彩斗本人はかなりギリギリだった。


 一瞬だけ見えた姿と反射。それだけで防げたのは偶然に近いもので、後一秒でも遅れていればパーカーの防御も貫通して心臓を潰されていた。

 今その心臓は、痛い程に鼓動を刻んでいる。

 掴んだまま右腕を振るい、人型との間に距離を取った。投げられた人型は当然のように水面に立ち、その姿はやはり当初と差異は無い。

 人型の姿は完成時から変化は無かった。現時点での怪物としての最強を込められた存在は、今や内部に異常な身体機能を備え付けられている。

 

 最初はその強さに負ける予定だった。

 Advanced suitのお披露目の為、態と敗北を刻んで海の底に落ちる事になっていたのだ。そこから海の中でも炎を噴射させて強化演出を図り、圧倒的な力で対象を捻り潰すつもりであった。

 その予定は、今正に崩れている。誰も彼の姿を見る者はおらず、強さを調整することも出来はしない。

 本気も本気。人型は最初から常に全開を維持しつつ、内部改造によって更に性能を高めながら彩斗を殺そうとする。

 

 遊びは無い。舞台裏も無い。徹頭徹尾、残酷なまでの生死を掛けた戦いがある。

 相手の本気の殺意を浴びて、ただ遊んでいただけの凡人は恐怖に怯えてしまうだろう。

 けれど彩斗は違う。最初から何もかもが違い過ぎた。

 高鳴る心臓は興奮で、鋭く尖る意識は異様な程に鮮明で。流れる血潮が驚く程の熱を持ち、彼の心を闘争に駆り立てる。

 そうだ。俺が欲しかったのはこれだったのだ。

 遊びの無い殺し合い。生涯に渡ってあるかどうかも定かではなかった戦場が、今此処に顕現してくれた。


「――これだけは、感謝するよ」


 伸びた指がゆっくりと曲げられていく。

 何かを確かめるように丁寧に。全神経に意識を向けて。

 硬く閉ざされた拳を前で構え、瞬間二人は姿を消した。そして僅か一分後に数百の衝撃波が巻き起こるのであった。

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