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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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大仕事二つに、男女の意識

 ロボットを製作することがヴェルサスの中だけで決定されたが、そもそも彼等には戦艦の製作という大事な仕事が未だ続いている。

 材料は暇なメンバーやレッドのパーカーを纏った彩斗が必死に運び込み、およそ二ヶ月が経過する頃には全体の四割が完成していた。

 とはいえ、その四割は外観だけのものである。内部は殆ど手を付けておらず、先ずは外側を完成させてから内側に入る予定だった。

 純粋なサイズは北海道にも並び、重量はあらゆる人工物を凌駕する。

 

 外側だけでも澪が形成した土台に幾度となく罅を走らせ、その度に補強を入れなければ今頃は割れていただろう。

 これだけの質量を実際に作るのは今回が初めてだ。重量等は澪とモザンが予め計算していたものの、現実に形となれば幾らでも問題は露呈した。

 重量問題はその中でも解決し易い部類だ。土台側を増やせば良く、然程気にするべき所ではない。


「物が重過ぎて風だけじゃ持ち上がらないな。 ……どうする?」


「うーん。 ま、此処で一から作るしかないね」


 現状において一番の問題は、やはり内部のパーツ群だ。

 配線周りや小規模な部品ならば別の場所で作ることが出来る。実家で生成してから深夜に運び込み、土台の隅には大量の配線や大小様々な金属群が積み上げられていた。

 整頓係が見れば発狂しかねない適当さだが、壊れるようには置いていない。奇跡的なバランスで破損は起きないままパーツは今も放置され、組み込まれる時を今か今かと待ち望んでいる。

 だが、エンジン本体や主砲そのものは何処かで予め作っておくことは出来ない。

 単純にサイズが巨大なこと、重量が想像を超えてしまったこと。その二つが関り、土台に乗せることも難しくなっている。


「外観を作って、中身を作って、その後に直接エンジンや主砲を生成しながら組み込もう。 そうすれば運ぶ必要も無くなる筈さ」


「そうするしかないか……。 やっぱり長い作業になってくるなぁ」


「現実的に考えるなら数十年掛かる作業を一年以内に纏めてるんだよ? これでも驚異的な速ささ」


「まぁな。 でも、これまでの速度が速度だったからさ」


 戦艦の製作を始めるまでは、基本的に澪の作った物は怪獣が一番時間が掛かった。

 直ぐ壊されるが故に中身は一部省略され、何より戦いに必要な機能と生物だと思わせるだけの見た目を優先させたからある程度早かったのだ。

 長く使うとなれば、当然ながら澪も慎重になる。見た目も中身も自分達が使うに相応しい形に整え、世間を圧倒しなければならないのだ。

 現代技術では不可能な速度で今は進んでいる。澪は一年以内と言ったが、このまま何の邪魔も入らなければもっと早くに完成するだろう。


「君はもっと僕に感謝すべきだね。 誰がこの演劇の土台を支えているか」


「解ってる。 何時も何時も、作ってくれるのは澪達だ。 俺はただそれっぽい演技をするだけで、実際に何かを作ってる訳じゃない。 お前が居なきゃ本当に何も始まっていなかったよ」


 彼女の言葉は正しい。正しいが故に、彩斗も心と口の両方で感謝を示す。

 彼女が俺の傍に居なければ、結局自分は何者にもなれなかった。劣等感に支配された社畜として使い潰され、何処かで自殺をしていた可能性は十分にある。

 昔の風景に幸せと呼べるものは皆無で、その当時を思い出すことも既に難しい。それだけ無味乾燥とした日常を過ごしたのだ。

 だから、彼女への感謝は常に真摯であらねばならない。何よりも心を込め、自分に出来る最大の思いでもって彼女に伝えるのだ。

 ――お前無しに、今の俺は無かった。お前が居てこそ、この幸福がある。


「傍に居てほしい。 ずっとな」


「――――――――ッ、もう」


 戦艦の上層。ブリッジ付近の船体に腰掛けていた彩斗の言葉に、隣で同様に座っていた彼女は向けていた顔を逸らす。

 その頬は赤く染まり、珍しく照れていると誰の目にも解る。

 真剣な顔で、まるで告白するかのように言われるのはズルい。その言葉に彼女の耳は胸の高鳴る幻聴を捉え、どうにも身体が過剰にシステムを動かしている。

 戦艦下部では今もモザンとイブが製作を続けていて、暫くは乱入者が来ることもないだろう。

 今が休憩をしている時で良かったと彼女は緩みそうな頬を抑えるが、その姿が余計に恋する乙女を想起させられた。


「あんまりそういう台詞を素面で言わないでよね。 勿論他の人にも」


「当たり前だろ。 こういうことを言うのはお前だけだよ」


 彼女は自身を落ち着かせる為に注意するが、彩斗は当たり前の如く勿論だと口にする。

 更には彼女が最も言ってほしい言葉まで言われ、脳内の一部はピンクに染まっていた。彩斗がもしも覗き込んでしまえば、今の澪の状態に照れの一つでも浮かべていたかもしれない。

 彩斗は澪にだけは嘘を口にしなかった。それはどうせ見抜かれるからというのもあるが、彼女を信用していないように思われるのが嫌だったからだ。

 全幅の信頼を寄せている。お前を裏切ることは絶対に有り得ない。

 好意の意思は澪の心を刺激して止まず、女性の姿であることも相まって余計にそういった方面を意識させられた。


 もしも無性ではなく女性として生まれていたら。

 もしも彩斗同様に普通の生身を持っていたら。

 きっと彼女は素直に彼に告白しただろう。今の関係があるのはこれまでの生活があったからこそだと解ってはいるが、彼女は身も心も彼に捧げていた。

 されど、彼女は歪に過ぎる。人の心は彼によって形成されたもので、そもそもの肉体も有りはしない。

 人格のみの存在に、果たして幸せになる資格などあるのだろうか。

 それは聡明な彼女でも結論の出ぬことであり、同様の存在が誕生しない限りは結論が出ることは一生無いだろう。


「……話は変わるけど、本当にロボットの製作も同時に進めるのか?」


 無言の空間に気まずさを感じた彩斗は話題を変える。

 それは澪にとって願ってもないことで、露骨な話題変更に食い付く。


「例の社長さんが張り切っちゃってね。 秘密にしろって言ったのに大きな土地を買っちゃったのさ。 もうこうなったら何かを作りますと世間に言っているようなものだし、放置させて土地代を無駄に消費するのもどうかと思ってさ」


「土地については知っているけど、そんなにデカいのか?」


「小規模な街なら入るくらいだよ。 水道も電気もガスも通っていない荒れ地だから普通の土地より安いけど、それでも高い買い物には違いない」


 小規模とはいえ街が入るだけの土地ともなれば、数千万で済めば安い方だろう。

 それをヴェルサスの資金を使用せずにフォートレスで稼いだ金だけで購入したあたり、フォートレスの業績が異常な速度で上昇しているのが解ってしまった。

 一から立ち上げたにも関わらず借金も無く、給料などの支払い関係も常に安定。住居も不満は少なく、およそ理想と言える会社なのは間違いない。

 本当ならば今頃は就職希望者が殺到しているものだが、基本的に他所からの採用をしないスタンスであるが故にスパイを潜り込ませることも出来ない。

 内部への調査を行いたい者達からすれば地団駄を踏みたいだろう。尤も、その所為で人手を増やす方法が非常に少ないのだが。


「先ずは建物から作るけど、材料の生成は機械に任せる形にするよ。 組み立てについては指揮をバゼルにして、浮遊カメラやアント達で作業の加速と監視を一緒に行うつもり」


「大変なことになってるなぁ……」


 忙しい状況になった。自分達で蒔いた種とはいえ、大事になっていく状況に僅かながらの不安を抱く。

 

「こっちは僕がやるから、君は向こうの制御を頼むよ? ――僕だって君を信頼しているんだからね」


 だがそれも、彼女の言葉で直ぐに熱意に変換された。その変わり様は実に単純で、まるで好きな相手に恰好を付けようとしている青春男子のようだった。

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