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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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着地点の模索

「そう、ですか。 まさかそこまで考えているとは……」


 蓮司の提案内容を纏め、社長室で渡辺社長とレッドは会話をする。

 彼は椅子に座りながらレッドに背を向け、その先にある巨大な窓から見える風景を見ていた。

 日常的な風景は怪獣襲撃が発生してからも変わってはいない。表面上は穏やかなもので、しかし怪獣が付近に出現すれば社長が見ている風景も慌ただしい喧騒に支配される。

 

 この国を、ひいては世界そのものを守護しているのはヴェルサスだ。彼等が居るからこそ安穏とした今があり、人々は平和な暮らしに感謝をするべきだろう。

 社員も含め、大多数の人間は理解している。故に彼等が居なくなれば、その時こそが人類滅亡の時。

 ノストラダムスの予言も関係無く、暴れる巨獣を前に人が出来ることはない。地上から月に手を伸ばすが如く、掴めぬ希望を求めて滅ぶだけだ。

 ――――そして、そんな日は明確に近付いている。


「レッドさんは、そういえば何歳でしたか」


「もうじき三十だな」


「そうですか。 ……つまり、長くとも貴方が戦える時間は残り三十年くらいでしょうか」


 渡辺社長の言葉にレッドの綺麗な眉が跳ねる。

 ヴェルサスが怪獣に対抗出来るといっても、相手の強さには一種のラインが存在していた。

 弱い個体であれば空我でも討伐可能で、通常の個体であればヴェルサスのメンバー達でなければ討伐出来ない。アーキタイプともなれば撃破可能な人間は極僅か。

 それがレッドを含めた三人であることは、随分前に説明されていた。

 六十歳。一般的に還暦に分類される年齢に至れば、どんな人間でも身体は衰える。

 明確な老いは身体機能も感覚器官も鈍くさせてしまう。還暦を越えた状態でもしも戦えば、その時は例えアーキタイプが相手でなくとも負けてしまうかもしれない。

 

 人間には寿命というどうしようもない壁がある。

 如何な超能力者達でもその壁を超えることは不可能であり、レッド達が寿命で死んだ時点で次代が育っていなければ怪獣の撃破は安定しない。

 普通の怪獣を倒せるだけでは駄目なのだ。人類が今後も存続していく為には、アーキタイプをも倒せる人材が必要となる。

 

「蓮司君の話は無謀とも言えるものですが、しかし将来的には必要なものでもあります。 我々が死んだ後も怪獣を倒せる手段を残し、今後も人が人らしくあれる場所を守っていかなければなりません」


「人類が諦めればその努力をする必要は無くなるがな」


「無くなりはしないでしょう。 全体の数割が絶望していても、残りの者達が繋ごうと必死になる。 生存本能は我々の想定以上に強力ですよ」


「……確かに」


 革張りのソファに座っているレッドは肩を竦めて肯定する。

 生への希求は強力だ。如何に理性が死を訴えても、本能がそれを凌駕して生かそうとする。辛いことがあった時に人が自殺を達成させられないのも、生存本能が身体を操って静止させるのだ。

 逆に言えば、その本能を凌駕する死への渇望があれば人は死ねる。

 これまで自殺に成功した者達は総じて死の渇望が強く、他者への迷惑や悲嘆を一切考慮することはなかった。


「では、お前は少年に賛同すると?」


「賛同と、果たして言えるのでしょうか。 未来を守る為にはそうするしかないという、消極的な肯定かもしれません」


「納得はしていないと。 まぁ、それもそうだな」


 いきなりそんな話がやってきても迷いの方が強い。

 レッドとしても即断してもらうつもりは毛頭無く、あくまでもこの話はまだフォートレスの社長だけが知るべきものである。

 鳴滝も積極的に話を広める素振りはない。上からの発表が無い限り、彼女の口から漏れることは恐らくはないとレッドは判断していた。

 

「さて、一先ずこれで子供組が提案した内容は共有した。 ――ここから先は、ヴェルサスからの提案だ」


「……! 聞きましょう」


 将来的にやらねばならないという意見にはレッドも賛成だ。

 今後怪獣が出て来た時、ピンチからの逆転を演出するには人類側に力が居る。ヴェルサスだけが解決してばかりでは柔軟な動きは難しく、澪の負担も大きい。

 最終的に怪獣大決戦のような戦いにする為にも、人類に怪獣を倒せるだけの手札を与えるつもりだ。

 とはいえ、それでいきなり見知らぬ誰かに力を渡すことはない。

 渡すのならばフォートレスに。当初は巻き込まれ主人公を別途用意するつもりだったが、知っている人間に任せた方が安心度合いは大分違う。


「ヴェルサスは今後も可能な範囲でカバーをするが、敵の規模によっては守り切れる保証は無い。 多数の人命が喪失されることも、国そのものが消失することも、あるいは大陸一つが占領される可能性も十分にある」


「それは勿論です。 如何に貴方達が強くとも、リソースは誰にでもあるのですから」


「そうだ。 そして、これまでヴェルサスは基本的に超能力者以外を組織のメンバーとして受け入れるつもりはなかった。 現地協力者はあくまでも協力者という位置づけであり、フォートレスもその区分に入る」


 当然の話をし始めたことに渡辺社長は訝しむ。

 その話をするということは、まさか非超能力者をメンバーにするつもりということか。

 真っ先に候補に上がるのは子供組の蓮司と奈々。二人は直接見出された者達であり、ヴェルサスが目を掛けている存在だ。

 

「俺は二つの枠の間にもう一つの枠を設ける。 ヴェルサスメンバーと協力者達が共に戦う集団――メメントスを」


 これまで、戦闘に参加するのはヴェルサスだけだった。

 人類側は情報発信や物資、場所の提供と後方支援に終始し、蓮司だけが何とか戦っている状態だ。

 それを変え、人類にも怪獣との戦いに参加させる。


「それは、もしや今後を見据えての?」


「ああ。 それに丁度良いとも思っていた。 準備の手間が掛かるが、俺達だけで守り続けていては何時か絶対に破綻を迎える。 人類を存続させたいなら、やはりどうしても同じ人の手は必要だろうよ」


 破綻するではなく破綻させるが正解だが、レッドは本心を口にせずに次の予定を提案という名の決定で渡辺社長に告げる。

 渡辺社長にとってもいきなり他者を説得するよりも、先ずは自分達だけで戦闘が可能である事を証明させたい。

 

「回り回って最初の少年の案に近い形になるが、違うのは許可を取らないことだ。 つまりフォートレスは表向きは関わらない形にする」


「つまり、件の武器とやらは我々の正体が露見しないような形になるのですか?」


「ああ。 折角空我の操縦経験を持つ人材が居るのだから、それを使わない手はないだろう」


 レッドはパーカーのポケットから一枚のSDカードを取り出す。

 市販のそれは何の変哲もないもので、指で弾いて机に乗ったソレを渡辺社長は拾った。

 そのまま社長室に備え付けられているパソコンに繋げ、SDカード内に入っていたアプリケーションソフトを起動させる。

 暫くの読み込みが始まり、次の瞬間には背景の黒いページが立ち上がった。

 赤文字で警告が告げられ、先に進む為のパスワードを要求される。レッドは手の止まった渡辺社長にパスワードを教え、その通りに入力することで先に進んだ。

 ――そして、知る。

 画面に表示された計画内容。対怪獣を目的とした空我のような人型ロボットの説明に、渡辺社長の背に得も言えぬ興奮が沸き立つ。


「まだ形になっている訳ではないが、一先ず三体は作るつもりだ。 シミュレーターを組むつもりだから、人を選んでおけ」


「はい……はいッ!」


 最後の彼の返事は、思いの外熱の籠ったものとなった。頭の中ではこれまでの予定が吹き飛び、これを何とか形にしなければと思考が加速している。

 先ずは内密に人を呼ぶ。最も有力な三人を指名し、厳重な守秘契約を結んでシュミレーターに参加させよう。

 自分も出来ればと、彼は思わずにはいられない。そのままSDカードは彼の手に渡ったままとなり、寝る間も惜しんで計画書の内容を熟読するのだった。

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