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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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時には息抜きを

「旅行?」


 蓮司のチャットアプリで送られた文章に、鳴滝は思わず疑問の声を発してしまった。

 学校の昼休憩。各々が思い思いに過ごす中、蓮司と鳴滝とクルスは三人で一つの机を囲んで昼食を摂っている。

 机全体を占領する食料の数々は膨大だ。蓮司も鳴滝も普通より給料を貰っている為平気だが、そうでなかったら懐は氷河期に突入しているだろう。

 クルスに関してはヴェルサスが月一で支給し、彼女はその恩に報いる為にヴェルサス側に所属する予定である。将来職に困ることはない三人は、今この段階で言えば勝ち組であった。

 

「最近は怪獣の出現頻度が落ちたから、この機に休める人は休ませたいんだそうだ。 だから、適当な場所に旅行させるんだと」


「ちなみにメンバーはどなたですか?」


「俺達が知っている範囲だと現地協力者の彩斗さんに、アントさん、楓さん、イブさんらしい。 他の面々は仕事がある為、もう少し後に休みを入れるみたいだ」


 読み上げつつ、さてそうなると彩斗との鍛錬は行えないなと蓮司は考える。

 アント、楓、イブは基本的にフォートレスの戦技教導官のような形に落ち着いた。怪獣が居ない日には体術、武器を用いた戦技、投影マップを用いた戦術演習を行い、社員達の実力の底上げをしている。

 如何に元自衛官だったとはいえ、もう訓練に参加することは出来ないのだ。普段の業務だけに終始させては肉体も衰え、いざという場面で上手く動けない。

 限界まで追い込む真似はしないものの、それでも厳しい指導だというのが社員達の共通認識である。

 体術は楓が担当し、戦技はアント。知恵を用いる戦術演習はイブが行い、彼等の高度な技術は確かに社員達を成長させていた。

 元は対怪獣用に仕上げられたものだ。それを普通の人間相手に使えば容易に死に至らしめる為、質自体は幾分か落してある。


 されど、落ちても高い水準であるのは言うまでもない。

 日夜努力を重ねる彼等は、嘗ての軍を想起させられた。まるで新しい対怪獣組織を作っているかの光景を蓮司達も実際に見ている。

 それでも、未だ社員達は楓達に一本も取れない。工夫を凝らしても正面突破されてしまう状況では、僅かな勝ちの目も拾えないのだ。唯一出来るとしたら条件が平等となる戦術演習だが、イブの思考加速の所為で決断自体に差が生まれる。

 普通の人間が一を考える前に彼女は十を決め、その十を決めながら百を思考するのだ。

 思考時間が違う状況で、果たして平等な戦いになどなるだろうか。――答えは、常勝無敗が物語っていた。


 彩斗も居ないとなると、本格的にヴェルサスに連絡する手段は無い。

 渡辺社長にすらレッドやフローの連絡先は送られていないのだ。この状況で連絡を送るとしたら、蓮司や奈々のチャットアプリに頼るしかない。

 本当に危機的状況であれば二人もチャットは送るつもりだ。折角の会社が潰れるのは寝覚めが悪く、無駄にしたくはない。特に配信環境を自宅で構築出来るとは思えぬ為、フォートレスの設備は貴重だ。

 

「旅行なんて、大丈夫でしょうか? また良からぬ者達が接触してくるかもしれませんが」


「まぁ、大丈夫じゃないか? いい加減にそろそろ覚える筈だ。 有名人とはいえ、あの人達は小指一本で人を簡単に殺せる。 不用意に手を出すのは避けるだろうし、万が一手を出してきた場合は即殲滅されるだろうさ」


「――容易に想像出来ますね。 ついでに個人情報を何処かから収集して拡散させそうです」


「お前と同意見なのはあれだが、意見は一緒だ。 ま、俺達が気を付けるだけ無駄だろうな」


 クルスの心配は杞憂も杞憂だ。

 実際に接触を図ったとして、彼等は旅行を理由に相手にはしない。それに腹を立てて馬鹿な真似をした場合、国会議員達と同様に世間に悪事をバラされて人生の袋小路に追い込まれる。

 彼等の存在を認識しても、無視するのが一番だ。

 今回の旅行はニュースくらいにはなるかもしれないが、彼等は一切それを気にせずに休みを満喫することだろう。

 そんな者達の心配をするだけ無駄である。そもそも彼等の方が圧倒的に強いのだから、心配する側が滑稽だ。


「それよりも、だ。 俺は一つしたいことがある」


「下らないことではないですよね?」


「いきなり変なことを言うな。 ……そろそろ気になってきたんだよ、ヴェルサス本部がどうなってるのかって」


 旅行は所詮業務連絡だ。

 言うだけ言って、彼は話題を変える。以前から気にしていた内容を口にし、鳴滝も目を輝かせて食い付く。

 本部の話はこれまでの日々の中でも幾つか出て来た。バゼルがそこに常駐していることや、数百人の人間が活動しているなど、主に人員の流れが殆どである。

 その本部が何処にあるかは不明で、見た目についてもフローやレッドは口にしない。迂闊に表で話さないようにしているのは機密故だと理解は出来るが、しかしメンバーである蓮司や奈々に何時までも隠すのはどういうことだろう。

 

 暫く前から彼はそれを考え、何時か聞こうと思っていた。

 レッドやフローに直接尋ねるのは得策ではない。通れば即座に全容が解るが、口が硬そうな二人は逆に何故知りたいのかと聞きながら話題逸らしをするに違いない。

 かといって理由も無しにアント達に尋ねるのも良いとは言えないだろう。秘密の基地であるが故に、尋ねるのならば明確な理由が必要となる。

 

「本部は此処よりもきっと多くの超能力者達が居る。 そこでしか聞けない話もきっと多い筈だ。 俺達が怪獣と今後も戦っていく上で、経験者達の言葉はきっと意味がある」


 熱の籠った蓮司の言葉。

 ヴェルサス本部に行きたいとは思っているが、そこには強さへの渇望が窺い知れる。身体を鍛え、知識を鍛え、その上で怪獣との戦闘についてより多くの情報を得たいのだ。

 知れば知る程、初動で固まることはなくなる。似たような怪獣の挙動を知れた時、自然と対策についても頭に浮かぶようになる。

 全てを知るというのは、それだけで力だ。ましてや経験者からの重い話を聞ければ、蓮司自身の成長に繋がるのは間違いない。

 

「理由は理解出来ますが、ではどうやって本部と連絡を? 直通手段を私達は持っていませんよ」


「実は、可能性のある人が一人居る」


 鳴滝にとっても興味深い話だ。本部に行ければ怪獣に関するデータベースも存在するであろうし、その中にはヴェルサスそのものの歴史もある筈。

 何時から彼等は存在していて、幾つの超能力があるのか。彼等の現在の人類に対する評価を聞いてみるのも良いかもしれない。

 やる気を漲らせていく鳴滝だが、この中で唯一冷静なのはクルスだ。特にヴェルサスに対しては恩義を抱いているだけな彼女にとって、本部か支部かなんて話は酷くどうでもいいものである。

 しかし蓮司が行ってみたいと思うのであれば、是非とも協力するのが彼女だ。

 

「FMCも最初、違反覚悟で作られた物だ。 俺の身の安全を守る為にあの人は無茶をして、結局二人揃って罰則を受けることになった」


「あの人って?」


「――モザンさんだ」


 短く告げられた名前に、鳴滝もクルスも瑠璃色の髪の女性を思い出す。

 快活な女性は明らかに規則にルーズで、大問題にならない範囲であれば寛容だ。時間に遅刻しそうになるのだけは勘弁してもらいたいが。

 

「元々あの人は本部から派遣されてこっちに居る。 だからあの人なら本部の連絡先を知っているだろう」


「成程、じゃあ早速?」


「うん。 幸いにして、最近は怪獣も出てきていない。 俺達もゆっくりと話をすることは出来る筈だ」


 怪獣が出て来なければフォートレスの施設が使えない訳ではない。ヴェルサスの殆どが旅行を楽しんでいる間に、蓮司は己の願望を満たそうとしていた。

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