妨害による自死
『緊急配信! 緊急配信です!! 現在、五つの国に怪獣が迫っています! その内日本は奈良にて現在活動中! 近隣の方々は早急の避難を、近くに居ない方々も怪獣の移動に注意して避難を行ってください!』
配信越しに奈々が叫ぶ。
必死さをアピールする為に叫び、その背後には五体の怪獣の画像データが表示されていた。そのどれもが怪物らしい見た目をしていて、いっそ創作物の存在にしか見えない。
しかし、これが現実だ。フォートレスの面々も避難誘導に参加し、迅速に東京からも足音が消え始めている。
奈良に居るので避難の必要はない。そう思うのはあまりにも愚かだ。
怪獣は翼を持ち、その一歩一歩は大きい。足止めをしても数時間で到達可能な距離でどうして安心なんて出来るのか。
だから人々は阿鼻叫喚を口にしながら避難を行う。
そこに怪獣の存在を疑う者やヴェルサスの悪態を吐く者も居ない。携帯からの緊急アラートが現実味を引き立たせ、根源的な恐怖を煽り続けている。
アラートは直ぐに消える。だが、その音が誰しもの脳裏に刻まれるのだ。怯えて丸くなることしか出来ないからこそ、助けてくれと超能力者達に懇願する。
そして、懇願された対象である超能力者達は空我によって強制的に足を止められていた。
「――チィ、砲撃をいきなり撃つ馬鹿が居るものかッ」
イブの文句に蓮司も同意だ。
全機が着陸したと同時、砲戦パックを装備した空我は一斉に砲撃を開始した。その狙いは九割怪獣で、一割がヴェルサスだ。
ただしヴェルサス側に直撃するつもりはないようで、あくまでも付近を吹き飛ばす程度で留めている。
それでも蓮司達にとってはいい迷惑だ。今が緊急事態であるのは誰が見ても解るだろうに、こんな時でも足の引っ張り合いが起こっている。
自衛隊上層部も焦っているのだ。空我の有用性を更に高め、現在の醜聞を全て払拭する。
どれだけ悪い情報が蔓延しても、結果が良ければ大部分は矛を収めるもの。
問題児も使い方次第ということだ。空我は間違いなく金食い虫であるし、自衛隊は汚れ塗れであるが、それでも平和を維持出来れば何も言えはしない。
それでも何かを言おうとしても、権力が伴わなければ蚊ほどの痛みも無いのだ。喚いて何かが変わるのであれば、自衛隊の面々は皆騒ぎ続けている。
「仕方ない。 ――強引に突破しますよ!」
アントの声を聞き、皆が武器を構えて無理矢理の突破を試みる。
その間にも空戦パックは怪獣に攻撃を加え、その殆どが硬い皮膚に弾かれていた。対怪獣の為にと用意された新型徹甲弾もこの怪獣に効きはしない。
澪が祭りと称したが故に、普段の三倍も性能は向上している。純粋な堅牢さも張り合えるのはマグマックスの甲羅くらいなものだ。
『――――ァ』
だが、それでも無数に受ければ流石に不快感は抱く。
五つの首が空中を飛び回る空我に向けられ、刹那の瞬間に口から色とりどりのブレスを放出される。
予備動作無し。温度変化で捉えられたのは僅かコンマ一秒。一瞬で空我の下半身を破壊し、何がなんだか解らないパイロット達は大慌てで脱出を行う。
ブレスの種類は五つ。
炎、氷、雷、岩、毒。全てが全てコックピットに命中すれば即死は免れない威力を秘め、それを観測したモザンは舌を打つ。
「……アイツ、五種類くらいは能力を持ってるみたい」
「それに予備動作も僅かに首が動いた程度。 認識してからでは遅いですね」
砲弾を拳で弾く楓の言葉を聞き、イブは成程と内心で頷いた。
自身の親が祭りと表現するだけあり、他の怪獣と比較するとやはり強大だ。ベースにはイブ達と同様の技術が用いられ、身体を大きくすることが出来る関係で出力器官も大幅に増大させられたのだろう。
だから別々のブレスを超高速でチャージし、ラグを起こさずに吐き出すことが出来る。
澪の悪魔的な技術力は今に始まったことではないとはいえ、やはり畏怖の念を感じずにはいられない。敵対をするつもりがないものの、内心で彼女は絶対にミスをしちゃいけねぇと自身を叱咤した。
「怪獣は暫く空我共に任せておけ。 どうせ直ぐに全部潰れる。 我々は最小限の動きで空我からの妨害を吹き飛ばすぞ」
「……いっそ空我を此方でも潰せば良いんじゃない?」
「それでは外聞が悪い。 あくまでも悪いのはあちらであるようにしなければ、余計な手間が発生するぞ」
モザンの提案は手っ取り早いが、それでは禍根が残る。
民衆に善意100%で自衛隊を叩いてもらう為にも、ヴェルサスが積極的に空我を潰すことは許されない。
徐々にヴェルサスに充てていた戦力が怪獣に向いていくのを感じつつ、全員で爆炎や衝撃波を能力で取り払っていく。
時間だけが無駄に過ぎていくものの、僅かな時間で怪獣は迅速に空我の群れを潰していた。
ブレスで、飛行による突撃で、そのまま顎で。
食らい付いて四肢を引き千切る様はトラウマを刻むのに十分だ。助けに入ろうとした空我も、百八十度の回転を見せた一つの首に襲われて強制的に脱出しなければならない状態にまで追い込まれている。
悲鳴が聞こえた。怒号が聞こえた。それでもヴェルサスは自己を優先し、未だ足止めの続く煙を踏破して怪獣を目指す。
近付こうと思えば一瞬で行ける。そんなことは蓮司でも理解していて、それでも空我の妨害のみを取り除いているのは戦力把握も兼ねているからだ。
謂わば生贄。謂わば囮。謂わば足場。
「よし、全機が怪獣に意識を向けたな。 それに全てではないとはいえ、怪獣の能力もある程度把握した。 ――単純なパワー勝負でいこうとするなよ」
「モザンさん、視界を遮る壁を後方で作り続けてください。 後、遠距離からのサポートも」
「任せて。 怪獣の動向に合わせて展開するから皆注意すること。 特に経験の少ない蓮司君はね?」
『了解ッ』
言って、モザンは後方に飛び跳ねて両手を胸の前で重ねる。
視界を遮る壁に強度は必要無い。土をそのまませり出しても効果としては十分。気を引く為にも適当な場所に高い壁を作り上げ、怪獣がそちらに視線を向けている間に他の面々は怪獣に肉薄する。
先ず最初に到達したのは楓。持前の突出した肉体性能を活用し、相手の硬い肌を撃ち抜くつもりで拳を突き出す。
勢いを込めた一撃は怪獣の硬い肌と僅かに激突し、彼女の拳の方が勝利する。
肌を引き裂いて肉を抉った攻撃に怪獣は一斉に反応。紫と黄の前足が彼女を潰さんと持ち上げられ、地面に落ちる前に彼女は短い隙間を滑るように避ける。
そして、彼女に意識を割いた怪獣の背後を取り、アントは黄金の剣を胴体に突き刺す。
徹甲弾では傷一つ付かなかった身体に剣は容易く刺さり、そのまま横一文字に裂く。
絶叫を上げる五体の首はアントが居る方にブレスを吐くも、それはイブの展開するフィールドで全て相殺された。
敢えて反射にしなかったのは怪獣の強さを引き立たせる為。イブは決して限界を超えた超能力者ではないので、強さには一定の数値が存在するように見せたかった。
「今」
『らぁ!』
イブの呟きに、土壁に隠れて彼女のマキシマムに切り替えた蓮司が飛び出る。
手には剣。黄金の鎧を纏った騎士は赤い龍の首に剣を突き立て、FMCの出力を限界まで引き上げて半ばまで断ち切る。
切断面からマグマのような血が流れ、蓮司は触れる前に脱出。アスファルトの道路はマグマの血で急速に溶け、周辺の建造物も纏めて融解を始める。
再度の絶叫が響き渡り、赤い龍の首は力無く垂れ下がった。これで一本分は終わっただろうと思った全員を前に、キメラは恐ろしい行動を取る。
それは共食い。同じ身体でありながら四つの龍の首は赤い龍へと牙を立て、野生動物さながらに血飛沫を撒き散らして捕食する。
「意識すらも別ということか……」
『どうなってるんだ、あれ』
思わずといった蓮司の呟きに、素直に正答を返す者は誰一人としていなかった。




