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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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異種・理不尽な力であるが故に

 喉を焼かれて声を出せなくなったβは、全体への攻撃を諦めてレッドそのものに狙いを変える。

 他からの攻撃を全て無視し、巨人の焔を受けながらも顔は微塵も揺るがない。

 痛覚が無い訳ではないだろうに、それでもβは進むのだ。星が結んだ約束を果たす為、己が頂点に立つ夢を叶える為。

 怪物であろうとも、目標を叶えることに関しては今の人類と違いはない。

 必死になって走って、考え、抗って、そしてその他の人間と同じ末路を辿るのだ。――それが定めであるが故に。


「惨めなものだ」


 触れる前から全てが消えていく。炭化した塊にレッドを傷付けることは出来ず、拳を振るうだけで呆気無くも折れた。

 見れば、僅かな間にβの身体は半分以上が炭に変状している。使えなくなった場所を無理に再生させて動かしてはいるが、その無理も長くは続かない。

 人工太陽が放つ火球は数百にまで及び、着弾の瞬間に衝撃と共に脆くなったボディを崩壊させる。

 巨人の太刀の一撃は背中から胸まで貫き、引き抜いて出来た傷口に不死鳥が形を変えて飛び込んだ。

 内部で炎を撒き散らし、およそ活動に必要な器官を全て燃やし尽くす。

 

「お前がどれだけ努力しても、俺には遠く及ばない。 星の暴威にすら耐え切った人類が負ける筈無いんだよ」


 地震、津波、暴風雨。

 自然災害がどれだけ人類に飛来しても、彼等が絶滅することはなかった。

 彼等自身の生きる気力が、醜い足掻きと取られかねない行動が、星の予測を総じて上回っている。

 目論見が甘いのだ。彼等を潰すには初手で全力を出さなければならず、星はそれを怠って芽を育ててしまった。

 星自らが、無意識領域の生への希求に関する情報を増大させてしまったのである。

 

「だからお前()(人類史)に負ける。 人類一丸となった生存本能が俺達を生み出し、対抗策を構築させた。 以前までのように逃げ惑う人間に愉悦を覚えることはないだろうさ」


 結局の所、全てはそこにある。

 星の油断と、想定外の無意識領域の行動。無意識領域は人が居なければ存在を保てず、絶滅すれば自然とその領域も姿を消す。

 様々な嘆きの集合の元、精査して出力された結果が超能力者の誕生だ。

 怪物を倒す守護者。人類繁栄の道標。そう定義されているからこそ、彼等は怪物を倒すことを運命づけられている――ように設定した。

 根本も根本。最初に物語を設定する際、澪と彩斗は根幹を曖昧なものにしようと決めていた。


 変に固めては柔軟性に欠け、アドリブが効かない可能性が生まれる。

 それを回避する為、様々な情報が封入された実に都合が良いシステムを決めたのだ。それが無意識領域であり、超能力者以外に接触が不可能と決めてあれば怪しまれはしても人はそれを飲み込むしかない。

 後は純粋に暴力で納得させるだけ。現に蓮司は信じ切っているし、詳細な説明を特務機動部隊に説明すれば信じるだろう。

 事は自分達に都合が良いように回っている。全てが全て順風満帆とはならずとも、大事な場面で成功したならそれで良い。

 

「さっさと死んでおけ。 これからの俺達の為にもな」


 迸る炎を両腕に収束させ、両手に圧縮された球形を作り上げる。

 それを強引に両腕で重ならせ、白く輝く光を生み出す。出力の限界に挑戦するかに温度は爆発的に増大し、レッドの耳には警告音声が流れ込んだ。

 網膜に映る残り時間は僅か一分。

 その間に全てを消耗するつもりでチャージされた一撃を、腰に持っていく。

 高密度に凝縮された炎はそれ単体が原子炉に匹敵する。余波だけで周辺生物は死滅し、人間であっても例外は無い。

 故に、この攻撃は誰かが防いでくれることを前提としている。


『いくぞ、確り防いでくれよ』


『了解しました、彩斗様』


 遠くから声に出さずに彩斗とアントは会話し、次の瞬間には圧縮していた炎を前に突き出しながら解放する。

 指向性を与えているとはいえ、炎の勢いは暴力的だ。構築された風の道も容易く破壊し、一気にその範囲を拡大させながらβを呑み込んでいく。

 β本人も必死になって防ごうとするも、悉くを食い潰されて消滅を辿るのみ。

 そして、その光景を見ていたアントも黄金の剣を高く掲げた。


『熱波と衝撃――来るぞ! アント以外は全員下がれ!!』


「……この剣は過去の残像。 しかして神の如き一振りは健在也」


 フローの通信を受け、アントを除いた全員が後方に下がる。

 機動部隊の面々には蓮司が大声で引くように告げ、指揮所でも大型の熱源を感知した段階で全員に下がるように告げてある。

 しかし、この場において鳴滝だけは機体の破損が酷く満足に動けない。

 そうなれば機体を放棄するしかないのだが、ただの人間でしかない彼女では十分な距離を稼ぐのは不可能だろう。

 

 蓮司は内側で舌を打つ。

 その身体を振り返らせ、大急ぎで鳴滝の元まで飛んだ。そして彼女の身体を強引に横抱きで持ち、必死になって他の皆が居る場所に向かう。

 その間にもアントは祝詞を捧げる。する必要は無いものだが、これもまた台本故に。

 熱波が間近に迫るのをセンサーが拾い、これが最後だと大口を開けて彼は叫んだ。

 それはある意味、彼の設定を明らかにする言葉だったろう。


「刮目せよ、これは星を超越する聖剣が一つ。 王の裁可にて滅せよ――Excalibur(コールブランド)!」


 最初の一撃を超え、過充電状態の剣から光を放つ。

 周囲の地形を一気に崩す攻撃から全員を守るには、それと同等の質量をぶつける他無い。

 アントにはそれを可能とする手段があり、使う為には長いパスが必要だった。

 しかも彩斗と澪の二人の認可も無ければいけず、無理に使おうとしても勝手にロックが掛かって最初の一撃にまで劣ってしまう。

 黄金を身に纏った彼の姿を見て、機動部隊の者達は若き指導者をその背に感じた。

 そして詠唱に、最後のキーワード。これを聞かされて気付かない人間は余程真面目な人生を辿ったに違いなく、だからこそ誰もが気付く。

 

 極光は破滅の波に食らい付き、レッドの放った炎の大河は対象を塵に変えて尚も海を焼く。

 水蒸気爆発が数えるのも馬鹿らしい程発生し、その衝撃波すらもアントの攻撃が食らった。

 そのまま数分が経過し、やがて光は姿を消していく。

 眩しいまでの光が消えた後にはβもレッドの姿も無く、あるのは破壊痕が目立つ大海原だけ。超巨大な化け物の残骸こそ発見することが出来るが、その残骸を今から回収するのは難しいだろう。


『……なぁ、おい』


『言うな。 ……言いたいことは解ってる』


 βは完全にその生命活動を停止させた。

 蘇ることはなく、原型を辛うじて留めている程度の物体Xは海に漂っている。

 勝ったのだ。生き残ったのだ。機動部隊にとって、それは勝利を超えた安堵を抱かせる情報だった。

 抑えていた震えが全身を巡る。如何に屈強な軍人でも、その眦から雫が垂れることを避けられない。

 通信が開いている状態で啜り泣く音も聞こえ、指揮所の者達は誰も注意をしなかった。


「一先ずは勝ったか……。 だが――」


「渡辺指揮官。 その、お電話です」


「ああ、解っている」


 オペレーターの一人が回した電話を指揮官は受け取って耳に当てる。

 そこから聞こえた声は、渡辺という男にとって聞き慣れたものだ。


『渡辺君、どうするつもりかね』


「はっ、どうするとは」


『惚けるな。 今回の戦闘の一部は既に市井に流れている。 後半からは報道局の人命を優先させる名目で引き下げたが、どうやら正解だったようだ』


 静かに語る男の声に、指揮官は内心舌打ちをしたい気持ちだ。

 このまま放送され続けていればヴェルサスの信用は回復しただろう。空我は叩かれるが、真の化け物と戦う際の協力関係を築く理由になる。

 どちらも揃って居るからこそ、日本は守れているのだ。いや、ヴェルサスが居るからこそ日本の今は保てていると言って良い。

 それを妨害したということは、少なくとも電話先の男はヴェルサスの存在を一切容認していない。


『あれだけの戦いだ。 既にヴェルサスも疲弊していることだろう。 ――渡辺君、私は彼等の力に興味がある』


「と、申されますと?」


『弱ったヴェルサスを捕縛しろ。 極秘裏に東京まで移送するのだ』


 人の悪意が、更なる戦いを呼び込んだ。

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