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コウノとイブキ

 日が暮れる頃、男とイブキは森の中を歩いていた。山のふもとの小さな集落が、盗賊に襲われ、逃げてきた男が父と男に助けを求めてきた。父はまだ不安定な村を統括する役目がある。武器を扱えるのは他に、イブキと男しかいなく、イブキは引っ張られるようにして男と村を出た。

 いつもより気分が悪い。いつもより動きたくない。そんな事ばかり考えていると直ぐに集落に着いてしまった。男が素早く見張りを斬り、灯のついている家々を律儀に回って、盗賊を切り殺していた。後ろを着いて行くイブキは気分のいいものじゃない。

 子供と男達はとっくに殺され外に積まれているし、女達は盗賊の慰み者にされていた。

なぜこんな事ができるのか、女であるからイブキは理解ができなかった。

 最後の一軒、外の様子も知らずに騒ぎ声が大きく響いている。男が戸を開ける。それだけで酒盛り場の空気が一変した。身体全体にひしひしと、殺気と警戒。男が身を翻し次々と盗賊たちを斬っていく中、たった一人、男の剣を簡単に止めた賊がいた。


「見たことある顔だな」

賊はそんな事を言っていた気がする。男と賊が何度も剣を交わす。決着がつかない。それにまして、生き残っている盗賊達が集まり始めた。

「間が悪い!引こうよ!!」

イブキが叫ぶと、盗賊達が笑う。

「ガキつきか?馬鹿だな!」

男は何も言わない。ただ、怒りを滲ませ剣を振っている。イブキに盗賊たちの手が伸びた。慌てて、持っていた剣でなぎ払う。

 盗賊たちの腕が簡単に落ち、イブキは身を震わせた。

(なに、これ)

「てめ!!」

一人が剣を突き出してくる。イブキはそれを腕ごと払った。手に感触が伝わるだけで、狩りをしたときよりも不愉快だった。

 男はまだ一人に手間を取っている。けれど、周囲の空気はさらに張り詰めていく。盗賊たちはイブキを囲み、次から次へと槍や剣を突き出してくる。それを払い、腕を切り落とし、足に剣先を突き刺す。それの繰り返しだった。誰も子供だからと言って容赦しない。怒りと憎しみと、盗賊特有の愉悦に滲んだ目が、イブキを責め、気を可笑しさせていく。

「いい加減!引かな!!」

「黙れ」

男はその一言だった。

「いいのか?ガキと一緒に死ぬぞ?」

灯の明かりで盗賊の顔が笑ったのが見える。


 イブキは必死さを捨てた。自分の意思を優先して、男の首目掛けて剣を振り上げた。

血飛沫が上がる向こうで、ノギが悦楽に歪んだ目をして笑っていた。





 外の光を遮った、薄暗い部屋で目が覚めた。清楚な部屋はそれだけで居心地が悪いが、今はとても落ち着けた。ほんの少し蒸し暑い。首を動かすと乱れた髪が床を滑る。起き上がろうとすると、腹部に激痛が走る。意を突かれた痛みは、イブキを怯ませるには十分だった。

 少し、唸ったかもしれない。けれど、そんな大きな声を出したつもりはなかった。


 御簾が揺れる音がして、外の明るい光が差し込んだ。

「動くな、寝ていろ」

 丸めた身体をコウノは容易く寝かし直す。イブキは痛みに呆然としながら、天井を見上げる。

「……カズキは」

「正式に皇太子として宮中にいかれた」

「ほんとに、太子だったの」

「……ああ、先代の御子様だが」


 片腕で目を覆う。ミツカにもミサカにも聞く気は無かった。だから周囲が息巻いても、事実を隠していけば、騒がずにいれば、平穏に暮らしていけると思っていた。けれど、カズキはそう望まなかった。

 村で暮らすのが嫌だと言った訳じゃない。ただ、本当に王族なら逃げたくないとはっきりと言ったのだ。

「……こんなはずじゃなかったのになぁ」

 戦の騒ぎでこっそりと、カズキと帰るはずだった。けれど、震えた足を押さえながら、カズキは都へ行くといった。処刑されるかもしれないのも分ってて、行くと言った。

(あたしじゃ、やっぱ無理だったのか)

「お前に咎めはない。傷が治るまではこの屋敷で寝ていろ」

「……もう動けるよ。出てく出てく」

「何馬鹿なこと……」

コウノが微かに動く。視界を開けると、腕が伸びてわき腹を軽く鷲掴みされ、激痛が走る。

「……!!意地の悪い、ことを……!!」

「言って聞かないなら、身体に教え込むまでだ。大人しくしていろ」

「痛い」

「当然だ」

「痛い……」

「夕刻に布を替える」

「いたー……」

「……無理をするな。気を使わなくていい。しばらく休め」

 開いた口が塞がらなかった。

「……あ」

「ん?」

「あり、あとう」

「気にするな」


 コウノは溜息を零す。正直言うと毒気が抜かれて気が狂う。それはイブキもなのか、何も言わなくなり呆けた顔をして天井を見つめていた。

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