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母と娘 2

 都の目と鼻先まで見に行ったが、牛飼いも牛も見当たらず、日暮れにイブキは村に戻った。村の集会場で使われる一番大きな屋敷に灯が煌々と燃えている。顔を出せば、村の女達が集まり、なにやら忙しくしている。

「おばちゃん」

「いぶき!!あんた!いい所に!」

その声を聞いて、二人三人とイブキに群がる。

「男共に湯を沸かすよう言って!イブキは布!出来るだけ沢山、持ってきて!」

この言葉に、イブキも緊張した。

「産気づいたの?」

「そうよ!」

 はたから見てお腹が出ているとは思わなかったが、身を丸めていたから気付かなかったのもあっただろう。だから、娘の気が立っていたのも頷けた。

 数少ない家々に湯を沸かすように伝え、預かった布を抱えて屋敷を往復した。

事の慌しさに、子供たちは好奇の目で屋敷の入り口で群がった。

「あんた達、寝なさい!」

 親達が叱るも、知らない人が居るせいか、子供たちは中々帰ろうとしない。

「そっから、頑張れって声かけてあげな」

「なにがあったの?」

「赤ちゃんが生まれるって」

 そう聞くと子供たちははしゃいだ声をあげる。

「イブキ!」

「まぁ、村の恒例でしょ?」

 よよよ、と女達が頭に手を当てた。


 赤子は小さかったがよく通る声で泣いた。入り口で群がっていた子供たちは、待ちきれずに寝こけて居たが、イブキはその声をしっかりと聞く。

 空が白み始めたころ、イブキは男達を集め頭を下げた。

「勝手して悪かった」

それには難しい顔が並んだが、カイが口を開く。

「で、近くに誰か居たか」

「居なかった。……逃げてきたと言っていたから、追われてる可能性も高い。皆はできるだけ早く、奥へ移動して欲しい」

「……ここ数日、空気がおかしかった」

 一人がそう言ったので、イブキは少し焦る。

「分らなかった」

「イブキが見回りに言った後、俺たちも車のところまで見に行ったが、あそこが一番異様な空気だった」

「都方面からだな、変だったのは」

「そっか。ま、一先ず移動が先だから」

 男達は声を揃える。

彼らは屈強ではあったが、面倒事はいい顔をしない。勿論、イブキも面倒だと感じれば逃げるときはある。けれど、あの時はなぜか何も考えず、誘われるように母娘の前に出てしまった。その上、身重だと聞いたら見捨てるにも良心が痛む。

 自分の軽率さに大きく溜息を吐いた。


 山を拓き、人が住めるように均した所に村はある。イブキが小さかった頃はまだ木々が多く起伏の激しい地形だったが、数年かけて村と呼べるくらいの広さになった。


「イブキ、相手してくれ」

 カイに言われ、投げられた木の棒を受け取る。

「軽くね」

 イブキは剣や武芸の手合わせは好きではない。けれど深く染み付いてしまった癖か嫌とも言えず、早く終わらせようと先に動いた。カイやシュウと手合わせをしていると、自分は女ではないと感じることがある。

 料理、洗濯、機織、女の仕事も出来るが、大抵は村の女が済ませてしまう。それを片側で手伝うしかなく、上手い下手ともいわれず、気付けば村の周囲を見回る男達に混ざっていた。女らしさが無い、とはっきり言われた事はないが、こうも手合わせ稽古と寄られると、女など遠いものでしかないような気がしてならない。

 カイの攻防をいなし、それを止めようとカイはイブキが受け止めるように木の棒を振り下ろす。読み通りイブキが受け止め、そのまま力で押し付けてきたが、イブキが身をかがめ受け止めていた力を抜いた。体勢を崩したカイに、手早く棒を持ち替えたイブキが、カイの首筋へ棒の先を突きだした。

「はい、終わり」 

 棒を捨て背向けた後ろで、悔しそうなカイの声が聞こえた。

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