表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第三話「ぴきぴき、ぱりん」


――別に、一人でもよかった。


俺には、ルシエルさえいてくれればいい。

それだけで十分だった。


なのに――



『 来いよ。今日からお前は―― 』


『 俺たちの仲間だ!!』



あいつが、そう言って。

強引に俺の手を引いたから――。


回想、 二年前……


第七星船 《リブラ・セフィル》

セレスティアル・オーダー本部ロビー。


広大なロビーには、多くの星騎士たちが行き交っていた。


その人波の中を、一人の少年が歩いている。


二年前の、星騎士になりたてのミシェルだ。


星騎士は基本的に二人以上でのパーティー行動が推奨されている。

任務には常に危険が伴うからだ。


だが当時のミシェルは違った。


新人星衛士でありながら、頑なに一人で行動していた。


(……やっぱり限界なのか)


ため息が漏れる。


(エーテル適性も低い。魔法もろくに使えない俺が、一人でできることなんて……)


星騎士になって半年。


努力でなんとか合格したものの、

生まれつきエーテル量と適性に恵まれなかったミシェルは、既に大量の任務と雑務に追われていた。


誰かと組めば楽になる。

そんなことは分かっている。


だが――。


(どうせ足を引っ張るのは俺だ)


現実くらい理解していた。


だから誰とも組まないし、誰にも期待しない。


その時だった。


「ねえねえ、君ぃ、新人?」


背後から軽薄な声が飛んでくる。

無視して歩く速度を上げる。


「無所属でしょ? 一人で任務とか危なくない?」


足音が近づき、肩へ手が伸びてくる。


さらに別の男が笑った。


「うちのパーティーさぁ、メンバー募集中なんだよ〜。特に女の子♪」


「歓迎するよ〜。君みたいに小さくて可愛い子ならさぁ――」


――ブチッ。


何かが切れた、次の瞬間。


ゴッ!!


鈍い音がロビーに響く。


男の額へ、ミシェルの頭突きが炸裂していた。


「んぎゃああああっ!?」


男がその場に崩れ落ちる。


ミシェルは冷たい目で見下ろした。


「……てめぇ、ふざけんなよ?」


「こ、こいつ男!?」


「見りゃ分かんだろうがァァァ!!」


怒号がロビーに響く。


蹴り飛ばされる男たち。

悲鳴を上げながら逃げていく三人組。


だがミシェルの怒りは収まらない。


「待たんかいコラァ!! 生きて帰れると思うなよォ!!」


追撃しようとした、その時。


「アッハハハハハハ!!」


盛大な笑い声が響いた。


振り向けば、赤毛の青年が腹を抱えて笑っている。


「うるせぇ!! お前もぶっ飛ばすぞ!!」


「ひゃはははっ! ヘッドバッドお嬢じゃん!」


「お嬢……?」


額に青筋が浮かぶ。


「よし、殺す」


その瞬間――。


ピキッ。


足元が冷えた。


「……は?」


靴が床ごと凍りついている。


「なっ!?動けねぇ!?」


赤毛の青年は楽しそうに笑った。


「あんまり氷魔法得意じゃないんだけど。

殴られるの嫌だから止めといた〜」


軽々しい口調だったが、ミシェルは直ぐに分かる。

この男、かなり強い。


「ふざけんな! 今すぐ解け――」


言いかけた時。


さっき逃げた男たちが、

増援を引き連れて戻ってきた。


「おっ、戻ってきた」


「このっ……!」


ミシェルが氷を砕こうと身を屈めた瞬間。


ピキピキ――


パリン。


氷が勝手に砕け、自由になったその瞬間…


「逃げるぞー!」


「は?」


ひょいっ。


「うわああああっ!?」


気づけば赤毛の男に抱き上げられ、

そのまま全力疾走される。


「離せ!! 触るな!!」


必死に暴れるがびくともしない。


身体能力もエーテル量も、

この男はミシェルより遥かに上だった。


「ってかお前軽いな〜。ちゃんと飯食ってる?」


「うるせぇっ!余計なお世話だ!」


結局そのまま、

ミシェルはどこかへ連行されてしまった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


ブリーフィングルーム・レッド201


勢いよく扉が開く。


「みんなー! いいの拾ったー!」


部屋の中には三人の青年がいた。


「なっ、なんだてめぇら!やる気か!」


「何人来ようとぶっ殺してやる!かかって来やがれ!」


いきなり連れて来られたミシェルは、

完全に臨戦態勢だった。


「……リオ」


銀髪の青年が呆れ顔を向ける。


「さすがに女子の誘拐はまずいだろ」


「俺は女じゃねぇ!!」


「おー、顔可愛いから女子かと思った」


「うるせぇ!しばくぞコラ!」


「あれ…?」


赤紫髪の少年が首を傾げる。


「この子、どこかで見たことがあるような……」


「まあまあ座れって〜」


赤毛の青年… リオはニコニコしながら

ミシェルを椅子へ押し込んだ。


「みんな! 紹介するぞ!」


ニカッと得意満面の笑みで胸を張って宣言した。


「今日から俺たちの仲間の――」


「……名前なんだっけ?」


数秒の沈黙が流れ、閃いたように目を見開いた。


「ヘッドバッドお嬢ちゃんだ!」


「違ァァァァう!!」


「だって知らないんだもん」


「最初に聞けよ!!」


ミシェルは苛立ち叫んだ。


「ミハエル・ナイト! ミシェルだ!!」


名前を聞いたそのとき、リオの表情が少しだけ柔らかくなる。


「ミシェル、か」


ミシェルに向かい手を差し出し嬉しそうに笑った。


「俺はウォン・リィオ。よろしくな!」


だが、ミシェルはその手から顔を背けた。


「勝手に決めんな。俺は仲間なんていらない。一人でいい」


一瞬で空気が冷たく変わる。

けれどリオだけは相変わらずだった。


「え? なんで?」


本気で不思議そうな顔が首を傾げていた。


「なんでいらねーの?」


「俺はエーテル少ないし、適性もねーし、

魔法も全然駄目だし……」


「ふーん、でもさ」


「お前、めっちゃ動けるじゃん」


「…え?」


予想だにしなかった言葉に思わず振り向き、

リオと目と目が合った。


「さっき見てた。すげー強かったぞ」


そんなことを言われたのは初めてだった。


「それにさ、一人でいいとか、

そんな寂しいこと言うなよ」


人懐っこく笑うリオは、どこまでも楽しそうで、

ミシェルの胸が僅かに揺れる。


「絶対、みんなでいる方が楽しいじゃん?」


楽しい──?


その言葉だけが妙に心に残った。

今まで考えたこともなかったから。


リオは再び手を差し出した。


「ミシェル――」


迷うミシェルの手を、強引に掴んでくる。


「来いよ」


「今日からお前は――」


「俺たちの仲間だ!!」


勝手な男だった。


けれど、ミシェルの中で何かが変わった瞬間だった。


「で、なんでこいつなんだ?」


銀髪の青年が呆れたように聞く。

その問いにリオは満足気に即答した。


「強いし!」


「うん」


「見てて面白いし!」


「まあ、なんとなく分かる」


「あと顔が可愛いから!!」


「おい!!!」


やっぱり殴ろうかと思った。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


こうして始まった五人のパーティー。


リオ、レイ、ジーク、リュカ、そしてミシェル。


まだ距離はあった。

だが少しずつ、一緒にいる時間が増えていく。


ある日、パーティー名を決めようという話になった。


「なんでもいいだろ。

騎士だから 《ナイツ》とか?」


レイが適当に提案する。


「それ絶対どっかにある! 却下!」


リオが即否定。


「じゃあ 、《ねまきぱーてぃーず》はどうだ?」


ジークがにこにこ笑いながら言う。


「なんだそれ!」


「ふざけすぎだろ!」


全員が突っ込み笑いあった。


「ミシェルは?」


突然リオに振られたミシェル。


「俺? ……うーん。」


数秒真剣に考え込む。

そして頭に浮かんだものを、そのまま口にした。


「ルシエル騎士団……」


「誰?」


「…別になんでもいいだろ!」


するとリュカが言った。


「では、 《ブルーアゲート》

なんてどうでしょう?」


「ブルーアゲート?なんだそれ、どういう意味?」


「僕の好きな宝石ですけど」


「私物じゃねーか」


「でも響きは悪くないな」


「…それだ!」


リオが目を輝かせ、勢いよく立ち上がった。


「今日から俺たちは……」


両手を勢いよく広げ、高らかに宣言した。


「ブルーアゲートだぁぁぁ!!」


こうして、


リオ率いる若手星騎士5人のパーティー

《BLUE AGATE》は結成された。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


それからの日々はあっという間だった。


ミシェル一人では抱えきれなかった仕事を、みんなで笑いながら片付けた。


ミシェルは、仲間に背中を預けることの安心感を知っていった。


「おいチビ、邪魔」


レイはいつもミシェルをからかった。


「誰がチビだ!!」


「短足チビ」


「殺す!!」


いつもいつも言い合っていた。


「まあまあまあ!」


「二人ともいい加減にしてください!」


ジークが明るく諌めて、

リュカが真面目に注意した。


そして。


「アハハハハハハ!!」


いつも中心には笑顔のリオがいた。


くだらない喧嘩ばかりの騒がしい毎日。

それなのに、少しも嫌じゃなかった。


気づけば、任務以外でも集まるようになっていた。


給料日には焼肉へ行った。


ゲームセンターでダーツを投げた。


ストリートでバスケや、

ブレイクダンスを競い合った。


そして時には、


カラオケで朝まで騒いだこともある。


――あの頃は。


この五人の時間が、ずっと続くのだと。


ミシェルは、本気でそう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ