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徒然っっっw 草生える 〜隠居したギャル男ケンコー、終末京都で人生バズらせます〜  作者: 五平


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第二十五話:関係の断捨離、あるいは「不在」という名の贈り物

 都の役所での立ち回りが板についてきた信基が、今夜持ってきたのは、一束の豪華な招待状と、顔に張り付いたような「愛想笑いの疲れ」だった。双岡の夜は、夏の予感を含んだ温い風が吹き抜け、竹林が重たく湿った音を立てて揺れている。


 信基は、いろりの前に座り込むなり、ため息とともに招待状を畳に放った。


「ケンコーさん。都に戻ってから、人との付き合いが雪だるま式に増えていくんす。この宴には顔を出さなきゃ角が立つ、あの男の誘いを断れば仕事に響く……。誰からも嫌われないように立ち回ってるうちに、俺自身が誰だったか分からなくなっちまった。……人との繋がりって、多ければ多いほど、格が上がるもんじゃないんすか?」


 信基の瞳は、祭りの後の虚無感に似た、乾いた疲労を宿していた。俺は、いろりの灰の中に転がっていた石ころを火箸で弾き、暗闇へと追いやった。


「……信基。人との繋がりってのはな、多すぎればただの『鎖』なんだよ。さあ、最後の連想ゲームを暴走させるぞ。世の中にはな、知り合いの多さを『人脈』と呼び、予定表が埋まっていることを『充実』だと勘違いしてるヤツが九割九分だ。だがな、そんなのは他人の顔色を伺うための薄っぺらな皮一枚だ。本当にレベチなヤツはな、自分を安売りしねえんだわ。 誰にでも会えるヤツは、誰にとっても価値がない安物なんだよ。お前の不在を寂しいと思わせるくらいの、圧倒的な『孤高』を保て」


 俺は、縁側の向こう、暗闇の中で微かに光る蛍を指差した。


「いいか、信基。断つことが偉いんじゃねえ。残すものを選べることが偉いんだ。 本当に大事なヤツとの時間は、十年に一度だって一生を支える熱になる。だがな、その熱を守るためには、中身のない雑談を切り捨てる勇気が要る。群れに溶けた瞬間、美学はただの同調に薄まる。不在こそが、お前の価値を高める最大のスパイスなんだわ」


 信基は、招待状の束をじっと見つめた。しばらく迷い、そのうち二通だけを、静かに脇へ置いた。そして残りを、まとめて火にくべる。


「……全部捨てるのも、ただの逃げっすね。誰に会うか、どこに属するかを、俺自身で選び直します。俺の時間を差し出す相手は、俺が決める。……付き合いが悪いって言われても、それが俺の勲章っす」


「おう。他人の時間を生きるのをやめた瞬間、お前の本当の時間が動き出すんだよ。お前が一人で凛と立っている時、その姿に惹かれて、壁を乗り越えてやってくるヤツだけを、本当の友と呼べ」


 外では風が止み、闇の中で蛍が一つ、強く、そして静かに光を放ち、夜の深淵へと消えていった。信基は、脇に置いた二通の書状を大切に懐へ仕舞うと、初めて教えを請いに来たあの日のように、けれど全く違う静かな重みを持って、畳に額をつけた。


「……ケンコーさん。都の喧騒の中にいても、俺の心の庵は、いつでもここにある。あんたが教えてくれた『退屈』と『孤独』を宝物にして、俺は俺の風を吹かせてきます」


「……おう。さっさと行け。お前の影が消えた時、ようやく俺の静寂が完成するんだからな」


 信基は顔を上げ、清々しい笑みを残して竹林へと消えていった。その足取りは、何にも縛られない自由な風そのものだった。


 俺は一人、いろりの火が消えゆくのを眺めていた。筆を執る。紙の上には、もはや「信基」という名は現れない。ただ、徒然なるままに、心に映りゆくよしなしごとを、そこにあるがままに書き留めるだけだ。


 美学とは、完成させて終わるものではない。自分という物語を書き終えた後、その白紙の余白に、どんな風を吹かせるか。積み上げた二十五の言の葉は、今、すべて風に流れた。残ったのは、ただ、雨上がりの土の匂いと、静かな夜の深淵。それで十分だ。


 俺は筆を置き、ゆっくりと目を閉じた。双岡の庵には、もはや師も弟子もいない。ただ、圧倒的な静寂と、どこまでも澄み渡った、自由な風だけが吹いていた。


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