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010-ワームホール

 優凛タン……。

 僕は彼女の大ファンだった……。

 頻繁に会えるようになっても、やっぱり彼女は憧れのグラビアアイドルだった。


 でもね、あの撮影会の日から、その感情は変わり始めたんだ。

 そして今は、彼女はかけがえのない仲間……。

 そんな風に思うようになったんだ。


 あの撮影イベントから半月程が経過した現在、僕と彼女との心の距離はかなり縮まった。

 そのせいなのか、彼女との念話が容易に繋がるようにもなった。


 因みに、彼女の事を最早タン付けなどでは呼んでいない。

 そして彼女もまた、僕の事を君付けなどでは呼んで来ない。

 やはり呼び方というのは、友好関係を深めるのには大切なファクターみたいだね。

 彼女も「タン付けされちゃうと友達とは思えないの」と言っていたし……。



 セイクリッドネストにある僕の部屋でゴロゴロしていると、床の継ぎ目辺りから独特な感触が……。

 噂をすれば何とやら、というやつだね。

 同じように床に寝っ転がり、漫画に没頭していたアイネスが慌てて横に移動した。


「ちょ、ちょっと……もう優凛ったら……偶には呼び鈴を鳴らしなさいよ。ドワーフ達が態々設置してくれたのよ?」


「別にいいじゃない、私スライムなんだし……ねえ、ステファン」


 僕とアイネスの間に優凛が現れた。

 床の僅かな隙間から、湧き出した液体のようににゅっと出て来た。

 あの撮影会の日以来、彼女が呼び鈴を鳴らした記憶はない。


 ドワーフ五兄弟に頼んで、そろそろこの部屋のセキュリティを強化してもらわないとね。

 だってさ、今だけは絶対にダメって時があるでしょ?


「それで、こんなに朝早くから何しに来たのかしら? マキアとルキアは色々と忙しいみたいだから、この部屋に集まるのは夕方頃にしようって……皆でそう決めたはずよね?」


「うん……でも、折角の休日だよ? 有意義に使わないと勿体ないじゃない……って言うか、何でアイネスがステファンの部屋に居るの?」


「うふっ、実はね……ほんのついさっきなんだけれど、念話で呼ばれたのよ。『優凛の氣配がするから直ぐに来てくれ』ってね」


「な、何で?」


「くくく……羽交い締めにして、貴女の淫紋を弄くり回す為に決まっているじゃない!」


「――えーっ!」


「おい、アイネス、誤解を招く言い方は止めてっ!」


 あの撮影会以来、淫紋について調べる必要性を感じていたのは本当だ。

 マテリアルと融合することで出現する淫紋をね。


 でもね、優凛を羽交い締めにして云々というのは全くの出鱈目。

 それに、そもそもアイネスをこちらから呼んだ憶えなどはないしね。


 まあ、それはさて置き、あの撮影会以降、その淫紋を持つイグジスト女子の四人は結構頻繁に話し合っていたらしい。

 そして昨晩、ある程度意見が纏まり、先程アイネスからその報告を受けたばかりなんだ。


 通常時の精神状態ならば、淫紋は見えないらしい。

 ある一定以上感情が高ぶった時のみ浮き出るんだってさ。

 また、その時の感情で色も変化するらしい。

 それと、淫紋は融合した生物系マテリアルの核だから、そこに攻撃が命中してしまうと他の部位よりもダメージが大きいみたいだね。


 そして、優凛の淫紋だけれど……。

 彼女だけは例外で、未だに浮き出たままらしいんだ。

 アイネスが言うには、イグジストとしての鍛錬を積めばいずれは消えるはず、との事だけれどね。


 まあ、そんなこんなで、優凛の淫紋を調べる必要性を確かに感じてはいたのだけれど……。

 まさか本当に羽交い締めにしてしまうとはね。

 しかも、優凛の白い太腿……その上半分を隠していたちょっと大人な雰囲氣のチュニックを容赦なく捲り上げちゃったよ!


「――ちょ、ちょっと、アイネス……な、何をするのよ!」


 ――で、でかしたぞ、アイネス! 


 ローライズの短パン!

 しかも、淫紋がいい具合に見えてるっ!


 脳内保存完了っと!


「――ちょ、ちょっと……ア、アイネス……い、いい加減にしないと…………わ、私だって……」


 アイネスの暴挙が止まらない。

 短パンのボタンを外し、強引にズリ下げようとしている。

 淫紋の全体像がもう直ぐ露わにっ!


 ――やっちゃえ、アイネスっ!!


 ……いや、違う。

 ここは見るべきものはしっかりと見つつも、冷静に振舞うべき場面だよね?

 さもなくば、折角縮まった優凛との心の距離が……。


 氣が付けば、琥珀色の瞳が僕をじーっと見つめていた。


「ア、アイネス? ぼ、僕にどうしろと?」


「うふふ……やっぱり今日も見事に浮き出ていた事だし…………ステファン、焼くなり食うなり好きにしなさいっ!」


 ――マジですかーっ!!!


 あれれ?

 凄い勢いで淫紋が赤く染まって来たね。

 という事は、怒りの感情……だよね?


 視線を上げ、優凛の顔を覗き込む。

 するとそこには――――!


「――――ごらぁぁぁぁぁっ、アイネス、何しとんじゃぁぁぁぁぁ!」


 ――ば、化け物っ!?


 我が耳を疑わずにはいられない優凛の絶叫!

 への字に曲がった唇と、これでもかとばかりに大きく広がった二つの鼻の穴が僕の視界を埋め尽くした。


 これぞ要修正グラビアアイドルのご尊顔……か?


「ふんっ、そんなの避けるまでもないわ」


 優凛の拳がアイネスの顔面を真面に捉えた。

 だが、ここでアダマンタイトキャットと融合を果たしたアイネスの真価が発揮される。

 彼女は瞬時に皮膚をアダマンタイト化させる事が可能なのだ。

 正に鉄壁の守り……いや、アダマンタイト壁の守りだ。


 一方、優凛は所詮スライムでしかない。

 彼女の拳は水飛沫のように無残にも飛び散ってしまう。


「ア、アイネズゥゥゥゥゥッ! ぶっごろじでやぐぅぅぅぅぅ!!」


「うふふ……漸くバーサーカーモードになったわね」


 バーサーカーモードがオンになると、我を忘れ、暴れ出すらしいけど……。

 でも、それは優凛にしかないみたいなんだよね。

 だから、それを克服してしまえば、或いはってアイネスが……。


 ん?


 あ、なるほどね。

 アイネスの狙いが分かっちゃった。

 きっと優凛を鍛えて、消えない淫紋の件を解決しようとしているのだろうね。


 でもさ、僕の部屋じゃなくてもいいよね?




~そして午後。


 セイクリッドネストに来る度、ルキアとマキアが忙しなく動き回っているのを見かける。

 多分ドワーフ達も同じように何処かで頑張ってくれているのだろうね。

 猫のように自由なアイネスですら、僕が学校に行っている間は結構頑張ってくれているらしい。

 僕が調子の乗って拡張しちゃったから、きっと仕事が無限にあるのだろうね。


 そろそろ何とかしないと不味いよね。

 このままだと座り込みとかストライキとかに成り兼ねないよね?

 僕なんてしょっちゅうゴロゴロしているし、偶には役に立つ事をしないとね。


 あ、彼等の仕事を減らす方向でね。


「さてさて……やっぱり此処しかないよね」


 アイネスと二人でやって来たのは最深部……セイクリッドネストで最大の地底湖のある巨大な空間だ。

 ヒョウタンのような形をしていて、大きい方の空間に地底湖がある。

 アイネスの「マグロが食べたい」という要求を聞き入れ、創造してみた。


 マグロの養殖が可能かどうかは知らないけどね。


「そうね……まだ手付かずの状態だし、今ならばどうとでもできるわね」


「だね」


「それで、今すぐ始めるのかしら?」


「うん……じっくりと時間を掛けてコツコツと煮込んだからね、エイリアスは完璧に仕上がっているんだ」


「うふふ……まるで料理のような表現ね。分かったわ……じゃあ、また後で」


 創造……特に地下空間の拡張などは毎回僕一人だけで行っている。

 あらゆる物質が一度ゴッチャゴチャに……多分スープみたいな状態になってから創造はなされるんだ。

 だから、同じ空間内に誰かが居ると、多分大惨事になっちゃうと思うんだ。


 因みに、僕は瞑想状態になっているからね。

 実際はどうなっているか……それは見た事はないんだ。


 でも、仲間達に万が一の事があっては嫌だからね。

 アイネスには毎回見張り役をやってもらっているんだ。


 彼女の命令に従わないような強者なんて、セイクリッドネストには居ないからね。


「ふぅ……」


 人々が生きるこの世界……。

 一度現実化してしまったものをなかった事にはできないし、その改変も不可能……。

 できる事といえば、それを受け入れるか……将又(はたまた)抗うかだけだ。

 それが誰もが信じる物質世界というものだ。


 だけれど、イメージは無限だ。

 頭の中でなら、どんなことでも再現できてしまう。

 音楽だって、映像だって、過去の記憶だって、未来の希望だって、何もかもが再現できてしまう。


 しかも、それらを改変する事すらも可能だ。

 例え運動会で活躍できなかったとしても……。

 例えクラスに好みの異性が居なくても……

 将又(はたまた)好きな人を大嫌いな奴に奪われちゃったとしても……。

 それら総てを都合良く改変できてしまう。


 だが、人々は言う。

 そんな事は実現不可能だ、と。

 イメージした通りには物事は進まない、と。

 何をするにしても、アレがどうだとか、ソレはこうだとか、と理由を付けては不可能だと決めつける。

 

 特に頭の良い人は最悪だ。

 万有引力がどうだとか、オームの法則がどうだとか、アルキメデスがなんやらかんやらと小難しい物理法則を盾に否定して来る。


 ホント、分かっちゃいない。

 根本が間違っている。

 勉強すればする程、おかしな方向に行ってしまっている。


 先ずはじめに学ぶべきは、この世が物理世界などではない、という真実だ。

 総てはそこからはじまるのだ。


 感性の法則、ガウスの法則、クローンの法則、ジュールの法則、総熱量不変の法則、ドルトンの法則、フックの法則、マクスウェルの法則などなど……。

 この世界には数多の物理法則が存在している。

 そしてそれらは確かに機能しているように見える。


 だが、それらはどれもが優先度の低い法則でしかない。

 だって、壮大な宇宙そのものが見えない世界の内側に存在しているのだから……。


 僕は知っている。

 総ては元々はイメージであった、と。

 イメージなくして物質は存在し得ない、と。


 見えない世界で唯一最強のものがイメージだ。

 この僕が掲げるイメージの法則こそが、この宇宙で最も優先度が高い法則なのだ!


「さてと……」


 ヒョウタンの小さい方の空間……その中央部付近に腰を下ろし、意識を集中させる。


「くふふふ……天上天下唯我独尊…………我が体験する世界……その中では我こそが一番偉いのだっ!」


 あ、氣にしないでね。

 創造前の決まり文句だから。


 ゴールデンウィークがはじまる前、僕は氣になった本を片っ端から読んだ。

 そしてそれらの本の中で、これはイケるっ! と思ったのが【惑星まるごと世界を創造】という小説だった。


 無いのなら惑星ごと創造してしまえばいい……。

 そんな作家の中二病的主張が、僕の心をグッと掴んだんだ。


 でもね、僕の能力を以ってしても今回ばかりはそんなに簡単にはいかない。

 惑星を創造するには、先ずはそれが可能な宇宙空間を見つけ出さなければならないからね。


 だから僕は、望む惑星……と言うか、望む世界を創造する為に、三つの段階を設けた。

 そうする事で、最小限の労力でそれを実現できる……そう確信できたからね。


 先ずは第一段階……。

 僕の中に在るエイリアスを最奥の岩壁に投影する。


「ぐははは……出でよ――――――――――ワームホール!!!」





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